つらら飴
涙で舞った水蒸気。
窓を覆った水蒸水。
一晩泣いた甲斐があるってものね。
曇る窓。
景色はまだら。
そ、私の心は水彩画。
涙で濡れて、絵も心も滲んでぐちゃぐちゃよ。
紅い眼擦る冬の朝。
萎れた睫毛が重ねて絡む。
涙腺緩んで、また湿る。
頬に出来た涙道・・・舗装もされずに陽が当たる。
濡れ果てた頬の道に髪がくっ付いて、荒れた毛先が唇の中に滞る。
服のまま寝た金曜日。
枕が重い、想い出涙。
しわしわの服を脱がなくちゃね。
ああ、ぬるい空気が肺を刺す。
循環酸素、窓開ける。
乱れた髪に牡丹雪。
根雪の予感と呟く冬風。
私の睫毛に雪が積もる。
息吐く白く溜め息長く。
ああ、あなたは私の根雪だったのよ?
私の心はあなたで埋まってたのよ?
なのに・・・どうして・・。
遠恋破滅現実曜日。
電話連絡決別話。
新女出現剥奪彼氏。
廃棄古女私不憫。
友人忠告予想的中。
一人放心悲惨無惨。
哀しく自作の経を読む。
昨日の事は忘れよう。
シャワーで哀しさを洗い流そうかな。
溜め息落としにお湯浴びて、マイナスイオンで温まろうか。
少しは病が取れるかもね。
でも、それだけ。身体も髪も洗う気力もありゃしない。
上がっても髪を乾かす気力もないわ。
ま、とりあえずは湯冷めしないように炬燵でも入ろうか。
みかん一粒白皮剥がす。
一房冷たく歯に凍みる。
湿る髪先温度が下がる。
潤む瞳で上目向く。
電気の線が二重に見える。
普段よりも荒れた呼吸。
ポトスの呼吸のお手伝い。
朝のお水は後にしよ。
ビールが残ればそれ上げよ。
二人で一緒に飲み明かそ。
そして二人で枯れましょう。
そして二人で眠りましょう。
そして二人で泣きましょう。
音を立てずに泣きましょう。
炬燵不貞寝で腕が熱い。
渇いた喉で目が覚める。
太陽真上で苦笑い。
涙腺連動お腹鳴く。
牛乳レンジで温めて。
トースト焼いてマーガリン。
チーズを乗せて豪華さ増して。
乳製品は安らぐ香り。
気休め程度の娯楽食。
気分は憂鬱鼻啜る。
掛かる髪の毛眼に刺さる。
月並み行動髪切ろう。
裁ち鋏があった筈。
ばさり想いを断ち切るか。
肩に掛かった髪先さよなら。
暖簾無くなり首筋寒い。
冬風絡む肌締まる。
少しは憂鬱消えたかどうか。
軽く錯覚起こして私。
鏡見つめて俯く私。
炬燵におでこを乗せ唸る。
後悔、祭り、外出拒否。
早く美容室行かなくちゃ。
今日は眼の隈、明日行こ。
髪の毛さえも私を笑う。
髪の重さって気付かないものね。
この肩の軽さに慣れるのはいつなんだろう。
一人に慣れる方が先なんだろうか。
乾いた爪が痛々しい。
半月小さく逆剥け一つ。
見知らぬ傷が新しい。
小指の爪が欠けている。
気分転換爪切ろう。
両手両足ヤスリも掛けて。
自慢の指に仕上げる孤独。
蛇が来るのは口笛だっけ。
小雪舞ってる午後二時半。
雪が舞うのは風のせい。
雪雲私を見放した。
青空私に何か用?
晴々お空が私を見下す。
同情するなら雪雲呼んで。
一緒に淀んで冷え切るわ。
そして涙を凍らせて。
二度と涙を流させないで・・・。
なんて願いは二十歳までね。
今の私は二十五歳・・・酒で心を暖める。
ああ、じっとしてると涙が出てくる。
雪はどうやら止んだようね。
帽子被って外に出る。
近所の神社で雪だるまでも作っか。
意味は無いけど、今は身体を動かしたい。
まずは人気ないのを確認。
そして雪の質を確認。
うん、雪だるまを作るには絶好の湿り具合の雪。
一心不乱に雪だるま。
独り雪祭りね。
よし、我ながら上出来。
なかなか可愛く出来たんじゃない・・・・?
・・・・。
・・・・。
なんで・・・別れるの・・・。
どうして・・・いなくなっちゃうの・・・。
こんなに好きなのに・・・。
行き場の無い想い。
やりきれない想い。
急に雪だるまが憎くなる。
だるま殴って心晴れやか。
蹴って壊してすっとする。
余韻そのまま立ち尽くす。
そして再びだるまを作る。
だるま殴って心爽やか。
蹴って壊してすっとする。
余韻そのまま立ち尽くす。
そして三度とだるまを作る。
だるまの前で膝を付く。
頭を下げて息荒れる。
鼻孔の空気が冷たく刺さる。
毛糸の手袋濡れていた。
達磨のの凹凸目鼻に見えた。
そして私を見下ろした。
笑ってるの?
泣いてるの?
許してくれる?
ひどい事してごめんね。
学校帰りの小学生。
雪玉空に投げている。
つらら取ろうと雪玉投げる。
そしてつららを舐めている。
いつの時代もする事同じ。
でもね。
私のようにはならないで。
哀しい女は辛いから。
大人の私もつらら取る。
私は背伸びでつらら折る。
唇滑らせ軋む肌。
水晶つらら虹光。
汚いなんて思わない。
思わない。
去年の今頃二人切り。
四季の変化はいらない二人。
いつも春風纏う人。
私はそよいでタンポポ羽毛。
あなた想いに実を結ぶ。
なのに今では極寒酷寒。
慣れない寒さに思考が狂う。
大学卒業就職二人。
一年たったらあなたは転勤。
私は札幌、あなたは函館。
そして一年、今の有様。
大丈夫だと思ったのに。
絶対だと信じてたのに。
二人だけは特別だと思ってたのに。
結局あなたも普通の男。
だけど普通でいいから離れたくない。
本音。
正直。
今でも好きだから。
私を励ます優しい友達。
みんな優しく肩叩く。
応援してると励まして。
裏では破局と噂する。
私は負けじと拳を握り。
見返す力を持続力。
愛で埋めた孤独の空間。
意地で埋めた孤独の空間。
結局無意味な孤独の空間。
いつしか私は道化の女。
あなたは他の女と一緒になった。
毎夜の電話が原因かしら。
それとも寂しい心に負けた?
普通に私が嫌いになった?
普通に相手を好きになった?
どれでもいいや。
どれでも結果は変わらない。
もしも普通に付き合ってたら。
やっぱり別れてしまったかしら。
原因遠恋と言い聞かす。
逢えない事が束縛だった。
寧ろ自制の力が増した。
常にあなたの視線が見張る。
遠いあなたの視線が届く。
私は清楚に慎ましく。
合コン誘われ拒否する私。
孤独解消と優しい友人。
だけどあなたの影見える。
私は一人で家路を歩く。
紛らわすよりも寂しさ選ぶ。
きっとあなたも辛い筈。
二人で辛さを分かちましょう。
だなんて結局一人芝居。
馬鹿な女の良い見本。
私だけが、律儀にあなたを信じてたのにね。
一人で笑って瞳が歪む。
一人夕方家路を歩く。
濡れた手袋身体が冷える。
湯冷め昼寝で熱っぽい。
部屋に入って服を脱ぐ。
悴む指先ひび割れる。
震える歯音が右脳に籠もる。
雪を含んだ靴下捨てる。
紅い小指は縮こまる。
お風呂に入ろう小指は言う。
私は小指を揉みつつく。
湯溜める間シャワーで繋ぐ。
軽い頭が清々しい。
髪切ったのは大正解。
そう自分に言い聞かす。
曇る鏡に指平当てる。
左右に動かし顔を見る。
朱染まり頬はまだ寒い。
奥歯近くに一つの乳歯。
虫歯も無くて少し自慢。
だけど振られちゃ無意味なだけで。
歯並び良くても意味が無い。
あなたがいないなら意味が無い。
体育座りで湯船に浸かる。
どこかの温泉粉入れる。
多分いい香りだと思うけど。
鼻の感覚水溜まり。
私は俯く水面に。
無意味に息止め眼を瞑る。
三十秒の無呼吸自虐。
そして二酸化炭素を廃棄して。
肺に酸素を送り吸う。
ゆっくり腰を下にずらして。
目だけ出して潜望鏡。
何かが変わる訳無いけれど。
何もしないと泣き出しそう。
耳に侵入温泉湯。
鈍い聴覚心地良い。
体の中まで温めて。
湯船在住小一時間。
ただただただただ何もせず。
のぼせてふらつき快感目指す。
視界が揺らいで限界私。
用心深く腰上げる。
滑って頭を打たないように。
ここで死んだら笑い種。
葬儀にあなたは来るのかな?
少しは泣いてくれるかな?
あなたの心に居座れるかな?
だけど裸で死ぬのは止めておこう。
髪の乾きいつもより早い。
でも。
瞳の乾きはまだ掛かりそう。
全然あなたを見つめてる。
忘れられる日来るのかな。
だけど。
忘れられなくても別にいいよね。
そんな選択があったって。
あったって・・・。
炬燵入って足解す。
少しは心が落ち着いた。
お風呂の力は絶大ね。
も少し気持ちを和らげよう。
アロマテラピーでもしてみよう。
一回しか使ってないけれど、やっと日の目が出たみたい。
湿気ってなければいいけれど。
変な香りで酔わないように。
一体どこに仕舞ったか。
引出の中だと思ったけれど。
けれど。
そう思った時にはもう遅い。
あなたの写真と眼があった。
私と二人腕組んで。
私のピースが痛々しい。
あなたの写真を全部出す。
一枚一枚見返す私。
指輪とピアスと腕時計。
全ての想い出ぶり返す。
想い出浸って湯冷めする。
哀しくなるから捨てなくちゃ。
ゴミの仕訳も後でしよう。
こんな日なんて。
こんな日なんて。
想い出涙も仕訳しよ。
炬燵に入って仰向け私。
お腹の具合が寂しい気分。
心と食欲神経別ね。
ご飯作る気失せる夜。
カップラーメン寂しい晩餐。
哀しい状況増す現状。
せめて飲み物洒落てみよ。
赤ワインがあった筈。
ワイングラスでソムリエ気分。
逆に侘びしいこの組み合わせ。
全部あなたのせいなんだから。
一気に進む酒の誘惑。
ちびちび飲むのは柄じゃない。
喉越し荒く咳き込む一人。
腹式呼吸で息整える。
何故か唇緩む夜。
酔いに任せて火照る肩。
故意に酔狂、身を委ね。
座った瞳で遠く見る。
西南函館あなたの場所を。
携帯向けてコールする。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・はい」
「こんばんわー」
「・・・・・・こんばんわ」
「今、どこ?」
「・・・部屋だけど」
「今、何してるのー?」
「今は・・・テレビ見てた」
「一人で?」
「うん・・・・一人で」
「そーなんだ、私ねー髪切ったんだけど、見たくない?」
「・・・いや、今はいいよ」
「そー・・・調子はどう?」
「調子・・・少し、風邪気味かな」
「そー・・・お大事にね。お風呂入って、温かく厚着して、すぐに寝て、汗かいたら良くなるわよー」
「ああ、わかった。そうする。そっちはどうだ?寒くないか?」
「まーまー。今日なんて暖かくって、雪達磨作っちゃった・・・」
「・・・そっか・・・・今・・・飲んでるのか・・・?」
「あーちょっとだけね・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・ごめんな」
「ああ・・・いいのいいの、最後にあなたの声を聞きたかっただけだから。ま、ちょっとお酒の力も借りたけどね、全然気にしてないから、ほんと・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なんで・・・・なんで、なんで?理由はなんなの・・・・・」
「・・・・・・好きな人が出来た、んだ」
「それは昨日聞いたー・・・聞きたいのは、もし、別れないでずっと付き合ってても・・・いつかは私と別れてた?」
「それは・・・わからないよ」
「わか、らない・・・・・・・」
「でも・・・別れなかったと思う」
「寂しかったの?」
「・・・・そりゃ・・・」
「毎日電話してたのに?」
「・・・・・」
「だったら・・・私がそこに行けば、寂しくなくなるのかなー・・・・別の人と付き合って寂しさを紛らわさなくても良くなるのかなあー・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「うそつき」
携帯切って首落とす。
炬燵に額を押し付ける。
両腕伸ばして炬燵を抱いた。
瞳を覆う涙膜。
画面泳いで文字見えず。
操作は指が覚えてる。
メール着信全消去。
メール送信全消去。
あなたのメモリー削除する。
あなたのアドレス削除する。
嘘吐き。
嘘吐き。
嘘吐き。
嘘吐き。
一人でテレビ見てるって?
風邪気味?
看病して貰ってるくせに。
肩寄り添ってるくせに。
CMの間キスしてるくせに。
耳掻きして貰ってるくせに。
一緒にお風呂入ってるくせに。
私としたように。
私の知らない人と。
二日連続服着て睡眠。
炬燵の電気そのまま熟睡。
嫌な寝汗が背筋に溜まる。
幾ら猫でも起きるでしょう。
不精な私は寝返り打つだけ。
私はそのまま丸くなる。
赤外線が私を包む。
乾いた白目に瞼が重い。
泣き雪小雪笑って捨てよ。
日曜朝九時電話鳴る。
憂鬱、面倒、相手見る。
名前確認ふと思う。
あ、買い物の約束忘れてた。
「はい、」
「あ、美香?今日、何時にする?」
「・・・・」
「・・・ん?どーしたの?」
「振られた」
「振られたって・・・井上君と?」
「うん・・・」
「そっか・・・大丈夫?」
「まー二晩泣いたら少しはね・・・・」
「やけ酒は済んだ?」
「うん・・・おいしくて一本飲んじゃった」
「それじゃ今日は、やけ買い物とやけ食いに付き合おうか?」
「・・・・・・・・・・そーね、じゃ・・・お願いしようかな・・・」
「じゃ、お昼に駅前で」
「ん・・・」
そんな気持ちじゃなかったけれど。
少しは気晴らしになればいい。
昼食おごって貰おうか。
取り敢えずお風呂に入ろうか。
洗面台で顔を見る。
たった二日で窶れたものね。
出掛けるとは言ったものの・・・眼の隈が私を追い詰める。
不揃いの髪も忘れてた。
化粧濃くして帽子でも被って、色眼鏡でもして出掛けるか。
冷たい水で顔洗う。
頬を叩いて引き締める。
瞼の裏に何見える。
あなたがいなけりゃいいけれど。
まだ閉じこめたままなら解放しよう。
私の檻から逃げさせよ。
「おはよ」
「うん、おはよ、調子は?」
「最悪」
「その格好見たらそんな感じね」
「わかる?」
「そりゃね。昨日は何してたの?一日中泣き崩れてた?」
「いや・・・・雪達磨作って、つらら舐めてた」
「・・・・何か、大変だったみたいね・・・でも雪達磨はまだしも、つらら舐めるのは汚いから止めた方がいいかも。子供じゃあないんだから」
「でも、子供の頃なめなかった?」
「そりゃ、したけどね・・・だけど、大人はしちゃだめよ」
「そーかな?」
「そ。だって大人にはシャーベットがあるんだもの。わざわざ、つららを舐めなくてもいいでしょ?」
「アイスもチョコもあるしね」
「ブランデーかかってるやつをね」
「冬だけど食べに行く?」
「賛成」
多少は晴れ間が刺す気配。
お菓子の力は絶大ね。
冬道歩く私の心。
信号点滅小走りブーツ。
転ばなければ良い事起きれ。
人ごみ交差横断歩道。
子供の手を取る母親通る。
すれ違いに子供の手見る。
雪玉丸めて持ち歩く。
そうだ。
私も雪玉作ろう。
固く握って光沢乗せて。
泥入り石入り攻撃的に。
厳選二つの玉持って。
あなたと、彼女共々ぶつけてやるわ。
その日までは楽しくしてたら?
私はじっくり機会を待つから。
今はまだ冬、冷える風。
揺れる睫毛と戯れる。
胸に残した雪だるま。
あなたを想う雪だるま。
早く、この雪だるま融かさなくちゃね。
早く春風舞ってこい。
でもそれまでは・・・つららを舐めて待機する。
雪玉を握って待機する。
雪だるまも作っておこうか。
雪玉ぶつける練習台としてね。
何体作れば春が来る?
ま、それは今度考えようか。
「パフェも食べる?」
「勿論。花火のついたやつね」