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【完結】天才令嬢は時戻りを繰り返す~溺愛してくる幼馴染の年上伯爵に伝えたいこと~  作者: イトカワジンカイ


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24.『誰か』のために

フレッドとは以前と「幼馴染」という関係に戻った。


クロエはまだダニエルとのことを割り切って考えることができず、フレッドの気持ちを受け入れられないでいる。


だが、少しずつ以前と同様に「幼馴染」という関係に戻り、少しずつお茶会をするようになっていった。


今日は久しぶりにアルドリッジ伯爵家を訪れていた。


今まではコンサバトリーでお茶をしていたが、今日はフレッドと初めて会ったバラ園のガゼボでアフタヌーンティーを楽しむことになった。


テーブルにはクロエの好きな焼き立てスコーンや薔薇の紅茶が並べられる。こうしてアルドリッジ伯爵家でお茶をするのも随分と久しぶりだ。


夏の日差しは厳しいが、吹き抜ける風は心地よい。


以前と同様にフレッドとの時間を楽しんでいるのだが、今まで向かいに座っていたフレッドは、今はクロエの隣に座っている。


肩が触れあう程近く、その距離になんとなくソワソワとしてしまう。

加えて先ほどからフレッドはクロエの顔を見つめて、微笑んでいる。


今までも優しい微笑みを向けてくれてはいたが、今は愛しさと共に甘さも含んでいて、胸の奥がこそばゆい。


「そんなに見られると恥ずかしいです」

「愛する女性の顔を見て何か悪いのか?」


その時不意にクロエの唇に柔らかいものが掠めた。

キスされたのだと気づいた瞬間、かあっと頬が朱に染まる。


「い、今キスを」

「うん、したね」

「ここは外ですよ?」

「でも誰もいないよ」

「私とお兄様は恋人ではありません。そう言うのは止めてください」

「今は恋人じゃないだけだよ。それに、あの時も言ったじゃないか。『大人しくは待ってない。絶対にお前が俺を受け入れるようにしてみせる』ってね」


そう言ってフレッドは悪びれもなく言うと、再びクロエの唇を食んだ。


「もう! お兄様、止めてください!」


羞恥で顔が上げられない。思わず俯くクロエを見たフレッドは、クククと笑い声を漏らした。


「だって可愛いのだから仕方ないよ。側にいたらずっとキスしてしまいそうだ」

「そんなことをおっしゃるのなら、一生顔を上げませんからね」

「それは困ったな。妖精のような愛らしいお前の顔を見れなくなるのは困る」


そう言ったフレッドは今度はクロエの手をそっと握ると、甘えるように寄りかかってきた。

クロエのほっそりとした指に、自らのそれを絡めて弄ぶ。かと思うと甘えるように肩にもたれかかってきた。


「お兄様?」

「少し、疲れてるんだ。癒してくれ」

「こんなので癒しになるのであれば、いくらでもします」

「はは、それは嬉しいな。お前の肩が居心地がいいし、それにいい香りがする」


フレッドはそう言いながらゆっくりと目を閉じた。

金糸のようなサラサラとした前髪が、フレッドの頬に掛かっている。

よほど疲れているのだろう。

これまでクロエの夢のために、奔走してくれていたことを思い出す。


(お兄様、本当にありがとう)


クロエの肩に頭を預けるフレッドは手を離さない。それがもう二度とクロエと離れたくないという意志の表れのようにも感じた。


だから、クロエも感謝とフレッドへの愛が伝わるように、想いを込めて繋がれた手に少しだけ力を込めた。


その時、クロエの手を握るフレッドの手に包帯が巻かれているのが気になった。


「お兄様、実はこの間から気になっていたのですが、その手、怪我でもされたんですか?」


クロエの問いにフレッドはゆっくりと瞼をあけると、本人も今気づいたというように答える。


「いや、怪我じゃないんだ。実は、以前ぶつけた内出血が治らなくてね。見ていてあまり気持ちのいいものじゃないだろう? だからこうして隠してる」

「それって、夜会の時にもあった痣ですか?」

「あぁ、そうだよ」


夜会からもう二ヶ月は経っている。それなのに、痣が消えないというのはどういうことだろうか?

クロエは違和感を覚えた。

以前は手首だけに痣があった。

だが、今フレッドは手の甲を包み込むように包帯を巻いている。


「もしかして、包帯の下は全部痣なのですか?」

「まぁね」


夜会の時には明らかに具合が悪そうだった。

それにこうやって至近距離でフレッドを見ると、心なしか顔色が悪いようにも見える。


クロエの胸に一抹の不安がよぎった。

何か良くないことが起こるのではないか。そんな不安だ。


それを察したフレッドは、カラリと笑った。


「そんな顔しないでくれ。痛みもないし、大丈夫だよ。それよりも、俺をもっと癒してくれるかい?」


クロエが否とも諾とも言う前に、フレッドの顔が至近距離に迫る。

キスされる。


そう瞬間的に思い、恥ずかしくて思わず下を向こうとしたクロエの頬を固定するように、フレッドの大きな手が頬を包む。


スカイブルーの瞳には仄かな熱が見えている。

逃げられないことを悟ったクロエだったが、一瞬だけ視線を下げた。


視線の先に見えたのはフレッドの首元。そこには襟に隠されてはいたが、紫の痣があった。

しかも以前見た小さなものでは無く、首元を覆うように広がっている。


(え?)


その痣の意味を問う前に、フレッドが囁く。


「目を閉じて」


甘いささやきはまるで魔法のようだ。

魔法に掛けられたかのようにクロエは瞼を下ろす。同時にフレッドの唇がクロエの唇に触れる。


柔らかな感触を確かめるように、フレッドはクロエの唇を啄むようにキスをした。



フレッドの屋敷に行った翌朝。

クロエはいつものように目を覚まして、身支度を整えようと鏡台の前に座った。

髪を梳かそうとして鏡に映った顔を見ると、不意に自分の唇に目がいく。

気づくとそっと唇に触れていた。


(お兄様の唇に触れたのよね)


いくらクロエがフレッドに恋人ではないと言っても、フレッドは構わず何度もキスをしてくる。

隙を見せるとすぐにキスをしたがるし、手を握ったりとスキンシップが激しいのだ。


これから先もあのようなことをされては、心臓が持たない。


「もう少し、節度を持って接してもらわないと!」


その時、クロエはふとフレッドの手にあった内出血の事を思い出した。


あの時はキスで誤魔化されてしまったが、やはりフレッドの体調が気になる。


(消えない内出血。しかもそれが大きくなっている。加えて肺に異常があるような不自然な咳、胸の痛み、取れない疲れ……)


クロエの脳裏に一つの病名——クレープス病の文字が思い浮かんだ。

だが、それは非常に稀な病気だ。


(まさかね……)


クロエは頭を振ってその考えを追い出した。

そしていつものように研究所に向かおうとした時、クロエの名前が呼ばれると同時にドアが開いた。


そこには血相を変えた父ジェレミーの姿があった。


「どうなさったのですか?」


了承も得ず部屋に入ってくるような父ではない。

驚いて尋ねるクロエに対し、ジェレミーは息を切らしている。

その様子からただ事ではないことが察せられた。


嫌な予感がする。

ぜいぜいという呼吸を整えつつジェレミーは口を開いた。


「フレッド君が倒れた」

「え……? どういうことですか!?」

「とにかく、詳しいことは後だ。早く病院に向かうぞ。クロエも急いで来なさい!」


クロエは取るものもとりあえず、部屋を飛び出して病院に向かった。


フレッドの屋敷に行った翌朝。

クロエはいつものように目を覚まして、身支度を整えようと鏡台の前に座った。


髪を梳かそうとして鏡に映った顔を見ると、不意に自分の唇に目がいく。

気づくとそっと唇に触れていた。


(お兄様の唇に触れたのよね)


いくらクロエがフレッドに恋人ではないと言っても、フレッドは構わず何度もキスをしてくる。


隙を見せるとすぐにキスをしたがるし、手を握ったりとスキンシップが激しいのだ。

これから先もあのようなことをされては、心臓が持たない。


「もう少し、節度を持って接してもらわないと!」


その時、クロエはふとフレッドの手にあった内出血の事を思い出した。


あの時はキスで誤魔化されてしまったが、やはりフレッドの体調が気になる。


(消えない内出血。しかもそれが大きくなっている。加えて肺に異常があるような不自然な咳、胸の痛み、取れない疲れ……)


クロエの脳裏に一つの病名——クレープス病の文字が思い浮かんだ。

だが、それは非常に稀な病気だ。


(まさかね……)


クロエは頭を振ってその考えを追い出した。

そしていつものように研究所に向かおうとした時、クロエの名前が呼ばれると同時にドアが開いた。


そこには血相を変えた父ジェレミーの姿があった。


「どうなさったのですか?」


了承も得ず部屋に入ってくるような父ではない。

驚いて尋ねるクロエに対し、ジェレミーは息を切らしている。


その様子からただ事ではないことが察せられた。

嫌な予感がする。


ぜいぜいという呼吸を整えつつジェレミーは口を開いた。


「フレッド君が倒れた」

「え……? どういうことですか!?」

「とにかく、詳しいことは後だ。早く病院に向かうぞ。クロエも急いで来なさい!」


クロエは取るものもとりあえず、部屋を飛び出して病院に向かった。



馬車が病院に着くと同時に、乱暴にドアを開けて病室に向かって全速力で駆けた。

廊下を行き交う人々が驚き、目を見開いているがそんなことには構っていられない。


(何か嫌な予感がする)


父はただフレッドが倒れた、とだけ告げた。

だから、立ち眩みを起こしただけかもしれないし、ただの過労かもしれない。


それでもクロエの心は不安でいっぱいだった。


「お兄様!」


病室のドアをノックもせずに開く。

そして目に飛び込んできた光景を見て、クロエは小さく息を呑んだ。


フレッドはベッドで眠っていた。

だが、その顔は蒼白で、それに対比するように、顔の半分が赤紫の痣に覆われていた。


その症状は……、まぎれもないクレープス病の症状だった。


「まさか……そんな……」


クロエは目の前の光景が信じられず、小さく首を振りながら否定の言葉を漏らしたが、それは余りにも小さく、弱々しいものとなってしまった。


「ウソよ……」


固く閉じられた目、蒼白な顔。

このように寝台の上に横たわるフレッドの姿を、以前にも見たような既視感がクロエを襲った。


その時、突如としてクロエの脳内を様々な映像が駆け抜ける。

燃えるような真紅の髪に金の瞳の青年にクロエは懇願したのを思い出した。


『アロイス、お願い! もう一度私の時を戻して! 今度こそ、フレッドお兄様を助けて見せるから!』

『もう既に5回目も時を戻している。さすがに俺の力も限界に近い』


『お願い、アロイス。私ができることなら何でもするわ。フレッドお兄様を助けた後、私の命をあげてもいいの。お願い!』

『なら、お前の代償として記憶を貰う。それでもいいか?』


『ええ。フレッドお兄様のことも、お兄様を助けるということも絶対に思い出す』

『分かった。…………じゃあ、最後だ。お前の時を戻そう』


青年――アロイスとの会話が鮮明に蘇った。


何故自分がこんなにも医療魔術の研究をしたいと思ったのかも、焦燥感に駆られて必死に研究をしたのかも、クロエは全て思い出した。


(あぁ、そういうことだったんだわ……)


クロエは『誰か』のために病気を医療魔術を研究していた。

その『誰か』こそがフレッドだったのだ。


フレッドの病を治すためにクロエは時戻りを繰り返していたのだ。


(キスマークだと勘違いしていたけど、あの時の首筋の痣はクレープス病の症状だったんだわ……)


勝手にロザリーの残した所有印だと決めつけてしまっていた。


もしあの時にフレッドにロザリーとの関係を聞き、痣の正体に気づいていれば。


いや、クロエがもっと早く記憶を取り戻していれば、ここまで深刻な状態にはならなかったかもしれない。


アロイスに『お兄様を助けるということも絶対に思い出す』などと豪語したのに、結果はこれである。


「私がもっと早く気づいていれば」


悔やんでも悔やみきれない。

グッと唇を噛みしめていると、フレッドの長い睫毛がふるりと揺れ、ゆっくりとスカイブルーの瞳が現れた。


「お兄様……」

「クロエ……」

「お兄様目を覚ましたんですね! 良かった」

「はは、こんな醜い姿お前に見せたくなかったな」


フレッドは力なく笑った。

そして一拍置いて、クロエを悲し気に目を細めて見つめた。


「クロエには、俺の病気が何なのか分かっているのだろう?」


何と答えていいのか、クロエが言葉を詰まらせているとフレッドは紫に変色した手を見つめてぽつりと呟くように言った。


「君の父上から聞いたよ。クレープス病という難病だってね。言葉を濁らせていたが、治療法は今はないんだろう? ……クロエを幸せにしたかったな」


最後は自分に言い聞かせるように呟いた言葉を聞いたクロエは、堪えていた涙が溢れた。

同時に、フレッドの手を固く握りしめて真っ直ぐに見つめる。


「クロエ?」

「きっと信じられないことかもしれないけど……お兄様、聞いてくださる?」


ただならぬ空気を纏ったクロエに、フレッドは一瞬驚いた表情を浮かべたが、小さく頷いた。

クロエは一旦深呼吸をしてから、自分が思い出した時戻りの事を伝えることにした。


クロエは時の神アロイスの力を借りて、フレッドを救うために5回の時戻りをしていること。


クロエが研究を続ける『誰か』というのはフレッドだったこと。


「たぶん、私が生まれながらに医療魔術の知識を持っていたのは、以前時戻りをした5回分の知識があったからだと思うんです」


クロエは医療魔術の文献を読むたびに、遠い昔の記憶を思い出すような感覚に襲われていた。

だから、その推察は当たっているはずだと確信が持てた。


「だからお兄様の病気を治す薬を作ります。私を、信じてください」


フレッドにとって、クロエの話は突拍子もないものに聞こえるだろう。


その証拠にフレッドは黙ったままだった。だが次の瞬間、フレッドはすっとクロエの髪を撫で、優しい瞳で見つめた。


「クロエを信じるよ」

「信じてくださるの?」

「もちろんだよ」


そうしてフレッドはクロエの手を引くと、自分の胸に抱いた。

フレッドの心音がクロエの耳に響く。

鼓動はまだフレッドが生きている証であるように思え、クロエもフレッドの体をきつく抱きしめた。


「ありがとう。俺を助けるために時戻りをしてくれて……」


その言葉に鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうになる。

だがクロエは涙が零れる前に、ぐっと目元を拭った。


泣いている暇はないのだ。

記憶を取り戻した今、一刻も早くフレッドの病を治す方法を見つけなくては。


(この時戻りが最後だわ。絶対に、お兄様を救ってみせる)


クロエはフレッドの心音を聞きながら、そう決意した。



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