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Phantom Rat  作者: タペペ
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第2章 錆びた金庫と電子の亡霊

《THE WISH》

匿名投票型の民意サイト。

誰もが“怪盗ラットに何を盗ませたいか”を一票で決める。登録も資格も不要、ただの一票。

それだけで、ひとつの犯罪が、ひとつの正義へと変わる。


だが誰も知らない。

その裏側を動かしているのが、たった二人

怪盗ラットこと辰平(たつひら)と、天才ハッカーWISHだということを。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


記憶チップ事件の報道が終わる頃には、サイトは炎上寸前のアクセスを記録していた。

「ラットが盗むなら、もっと派手なものを!」

「腐った企業を叩き潰せ!」

「税金を食う連中から奪え!」

……そんなコメントが、電子の海に渦を巻く


その週のトップ投票―《オフショア口座の暗号鍵》。

 ターゲットは、国家とも深く結びつく巨大企業〈ユナイト・リンク社〉。汚職と賄賂の温床と噂されるその金の流れを、可視化しろというのが民意だった。


_______________________

「なぁ、WISH。これ……本気でやるのか?」

辰平は、マントを脱ぎながらぼやいた。薄暗いアジトの空間に、ホログラムが浮かび上がる。白い仮面のようなシルエットが、ノイズ混じりに現れた。


『もちろん。本気じゃなかったら、投票数の意味がない』

合成された声。低く中性的なトーン。まるで男でも女でもない“電子の亡霊”が語るような声だ。


「いや、そうなんだけどさ。……今回はデカすぎる。

企業の金庫ってレベルじゃねぇ、国家の懐に触るぞ」


『ラット。あなたが怪盗を名乗るなら、怖じけるな』

「……口が悪ぃな、今日も」


辰平は苦笑して、デジタルマップを睨みつける。

標的のデータサーバーは、東京湾に浮かぶ人工島〈ミラージュ・ベイ〉。見かけは観光複合施設だが、地下には軍用級のセキュリティが張り巡らされている。


『ルートは用意した。

あなたが屋上から侵入して、あたしが——』

「“あたし”?

『……俺が、だ。忘れて』

「おいおい、今なんて?」

『気のせい』


ノイズが混じって一瞬映像が乱れた。

辰平は笑いながらも、その一瞬に妙な違和感を覚えた。


____________________________


その夜。

東京湾を照らす無数のホログラム広告の下、

黒い影が一筋、風を切る。


 怪盗ラット、再び。


屋上に静かに着地。バイザー越しに情報が流れる。

 〈侵入検知システム:動作中〉

 〈内部温度監視:AI監査モード〉

すべて、電子の眼だ。


「WISH、今どのセンサーが生きてる?」

『音響センサーをスリープ中。熱感知は稼働してる。』

「ってことは、赤外線レーザーの海か……。

いつも通り、楽しいね」


辰平はマントの裾を払う。微細な金属糸が一瞬だけ光る。WISH特製の反射干渉マント。レーザーを検知して軌跡を“ずらす”。


『タイミング、今。』

「了解っと……!」


彼はまるで重力を裏切るように宙へ跳んだ。

レーザーの網を紙一重で抜け、サーバールームの通気孔に滑り込む。息を潜める。心臓の鼓動だけが響いた。


「……お前、よくこんな構造図見つけたな」

『古い都市開発データを漁った。

 誰も使ってない道ほど、使えるものはない』


「まったく、お前の頭ん中どうなってんだ」

『褒め言葉として受け取っておく』



 サーバールーム。

青い光が無数に瞬く。

中央に鎮座する黒い金庫のような装置が、“口座の鍵”そのものだった。


「さぁ、踊ろうか」

 辰平は端末を接続し、コードを走らせる。


指先が光る。

暗号がほどけ、電子の鎖が崩れていく。

だが——


『ラット、待って。トラップだ。』

「知ってる。こういうのは、最後に噛みつくんだよな」


金庫の奥で、別のウイルスが動き出す。

逆侵入検知プログラム。

ラットの存在を逆探知しようとするAIだ。


「WISH、迎撃準備!」

『プロトコルγ、起動!』


 二人の声が重なった瞬間、画面が光に包まれた。

 AIとAIの衝突。

 数兆単位の命令が電光のように走る。


 数秒後――静寂。


『……完了。口座データ、コピー済み。』

「ナイスだ、相棒」

『ま、いつも通りね』


その声に、少しだけ笑みが混ざっていた。

電子の向こうで笑う誰かの気配。

その正体を、辰平はまだ知らない。



翌朝、ニュースサイトの見出しが世界を駆けた。


【速報】ユナイト・リンク社、オフショア資産が流出

匿名サイト《THE WISH》に投稿されたデータ、真偽を巡り物議


ラットの名は、再びネットの炎を駆け抜ける。


だが、夜の闇の奥で――

ひとつの新しい投票テーマが、静かに浮上していた。


 「次に盗んでほしいのは、――〈真実〉」

1話ごとの読み応えが無いかもしれませんがご了承ください。何せ初めてなもので。というわけでポンポン進んで行きますので楽しんでください。

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