第1章 白い願い
初めまして、タペペです。
気楽に読んで出来れば感想をいただけると嬉しいです^^
夜の東京は、もう空を手放していた。
ネオンの光が雲を照らし、星の代わりにホログラム広告が瞬く。ビルの屋上に立つ男の影が、雨に滲んだ街を見下ろしていた。
黒のシルクハット。長いコート。右目に埋め込まれた義眼が、電子ノイズのように微かに光る。
ーファントム・ラットー
この国で最も有名な怪盗にして、最も正体のわからない存在
彼のターゲットは、誰が決めるわけでもない。
いや、正確には“国民”が決める。
数時間前、
《THE WISH》に新しい“願い”が受理された。
政府顧問・藤堂源一郎。盗むものは“記憶チップ”。
辰平はポケットの中で、小さく笑った。
「…政治屋の記憶か。今夜はちょっと重そうだな。」
耳の奥で、低い電子音が一度だけ鳴る。
続いて、機械のフィルターを通したような声が流れた。
「準備は?」
「とっくに終わってる。ターゲットはオフィスビルの最上階、セキュリティは七層構造。」
「甘い。実質八層。七層目の監視AIは予備システムだ。」
「お前ってほんとに優秀だな。たまには褒めてほしいもんだ。」
「じゃあ、死なずに帰ってきたら考える。」
ノイズ混じりの通信が切れ、夜風の音だけが残る。
辰平はひとつ息を吐いて、帽子のツバを軽く下げた。
──跳んだ。
雨を切り裂くように、ビルからビルへ。
足元を滑る水面が、彼の影を無数に増やしていく。
藤堂のオフィスは、国家機密級の防壁に囲まれていた。窓ガラスは生体認証連動、内部は空気圧制御。
けれど、ラットにとって扉は“開けるもの”ではなく、
“すり抜けるもの”だ。
彼の義眼が光を反射する。
視界に浮かぶのは、ハッカー《WISH》が送った侵入ルートのARライン。まるで都市の血管の中を流れるように、彼は静かにビルへ潜り込んだ。
─数分後、最上階。
デスクの上には、透明な小箱。
中には、青白く光る小さなチップ。
それが、藤堂の“記憶”。
金で消せる罪の断片。
辰平は指先で軽く箱を撫でた。
「思い出ってのは、意外と軽いもんだな。」
その瞬間、イヤーデバイスが再び震えた。
「ラット。時間切れ。ドローンが再起動する。」
「もう少しロマンチックに言えない?」
「……退路を開いた。北側の窓から二十秒。」
「了解、ウィッシュ。」
初めて、その名を口にする。
それが声なのか、AIなのか、女なのか。
ラット自身にも、まだわからなかった。
彼は記憶チップを懐に滑り込ませ、夜の空気へと跳び出す。背中のマントが風を裂き、ネオンの海を舞い下りていく。
雨は冷たく、だが妙に心地よかった。
ラットの唇が、皮肉めいた笑みを描く。
「さて──今夜も、誰かの“願い”を叶えたわけだ。」
遠くで警報が鳴り響く。
それを背に、怪盗は闇の中へと消えていった。
読んで頂きありがとうございます。
どうしても怪盗ものを小説にしたくて書き始めました。
良ければこんな展開欲しいなどあればコメントください、参考にしたいと考えております。
気楽に読み続けて頂けたら幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
ファントム・ラットはじまりはじまり〜




