父はヒーロー
『ヒーロー』と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
私の父はヒーローである。
いや、コミックのような世界を守るヒーローとか、警察など社会を守るヒーローと言う意味ではなく。
父は我が家のキッチンに現れる悪の親玉
──母の手料理の数々から、父自身の胃を守るヒーローである。
その歴史は、父と母がまだ「〇〇ちゃん♡」とか呼び合ってたような付き合い始めた頃から始まった。
ある日、一人暮らしの父のアパートに母が来て昼食を作ってくれることになった。
メニューは餃子、手作りではなく冷凍品をフライパンで温めるアレだ。綺麗なキツネ色をした餃子を「〇〇ちゃんどーぞ♡」と出された父は、デレデレ(娘の想像)しながら口に運んだ。
中が生だった。
それ以降、母から出される餃子は必ず事前に箸で割り、中を確認するようになった。
母は流石に反省したものの、料理の改善には至らなかった。
その後、両親が結婚し、娘が生まれ、学校に行くようになっても、母の料理は改善されない。
親子3人が揃う、ある休みの日。母が野菜炒めを作った。
なんてことはない、ただ冷蔵庫の整理のため、余った野菜を切って炒めただけのよくあるやつだ。
味が無かった。
一体どんな味付けをしたのか、素材そのものの味すらなかった。ただ食材の食感だけが存在した。ついでに玉ねぎは黒焦げ、人参はほぼ生だった。
父は抗議する母を退け、全員分の野菜炒めを回収し、無事な野菜をフライパンに放り込んだ。ついでに卵を足して調味料も加えた。
数分後、食卓には美味しい野菜炒めが並んだ。
これが我が家のいつもの光景である。
父は母が料理を始めたことに気が付くと寄ってきて、キッチンとリビングの間にある柱の陰からジッと母を監視するのだ。
そして我慢できなくなると母から包丁やらフライパンやらを奪い、自分で作ってしまう。
母は「大丈夫なのに」と不満気だが、時たま帰省する娘の胃の平和を守ることにも繋がってるので、父には是非頑張ってほしい。
母に任せず、父が最初から作ればいいんじゃないかとも思うが、それも違うらしい。
理由については「う〜ん…… (答える気がないやつ) 」としか返ってこなかった。真相は本人のみぞ知る。
そしてつい先日、母からLINEで「ホットケーキが上手く焼けた」と写真が送られてきた。
厚さも焼き加減も均一、切り口からもふっくらと焼けたことがわかる、美味しそうなホットケーキだった。
綺麗に焼けたね、と褒めたところ、父から追伸が来た。
中が生だったから3分追加で焼いた。
知ってた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
これは『ヒーロー』というお題を見て、ふと思い浮かんだエピソードです。
何の変哲もない日常でも、ひとつ視点を変えればいつもと違った風景が見えるかもしれません。
あなたの日常に潜むヒーローはどんな人ですか?




