62話
着弾、同時に轟音、衝撃。
目を閉じる間もなく視界は砂塵に覆われ、全身は衝撃で宙に攫われる。
そして間髪入れずに飛び交う第二の衝撃が皮膚を食い千切り。
三で骨。
四で内臓。
五で四肢。
ここで本能的に行った魔法での回復が間に合――六で再び目。
七で皮膚。
八で骨。
九で内臓。
十で四肢。
命中した球は一発たりとて無い。
全てが士門たちのいた場所から離れた、貧民街に降り注いだ。
にも拘らず、この余波。
相手どる敵を考えれば、当然とも言える威力だ。
対『破滅への十三』専用物理砲『殲禍』。その砲身は、たかが人三人と、『魔女』に向けられたのだ。
――意識を保ち、およそ全身、重傷でないところがない状態ではありながらも命を繋げたのは、偏にマリンの肉体だったからに過ぎない。
人を外れた耐久力が、士門の命を助けていた。
「生命属性、轟級……魔法『完全回復』……」
知り得る、パッと出てくる魔法で己を癒す。
欠損し、破壊された身体の全てが治癒されていく。
が、当たり前だが、服など疾うに吹き飛んでいる。
この世界に来た直後のように、今士門は全裸であった。
「何が起きて……いや、分かってる。『殲禍』だ……」
しかも、恐らくは『反乱軍』が所有するものではない。
射線が違う。短時間で移動させられるものではないと言っていたカイセルトの言葉を信じるならば、これだけの被害を出した『殲禍』は城にあったものと考えるのが妥当だろう。
二十門あったそれらのうち、残っただけを撃ってきたのか、それとも十門だけを差し向けたのか。
どちらにしろ、こちらへのダメージは十分以上のものと言える。
「くそ……他には……誰かいないか?」
未だ砂塵舞う周囲を見回し、他に生存者がいないかと探す。
素足のままで足を動かし、少しでも探索範囲を広げながら。
「エユクル! ギメリアさん! ……いないのか?」
不安が士門を包み込む。
当然あり得る。
士門が生き残れたのは『魔女』の身体であったからだと。
ただの人には耐えきれないものだったと。
焦燥感に駆られ、士門は思わず声を荒げる。
高いソプラノ声で、汚い言葉を吐き出す。
「返事してくれ、糞皇子!」
「……誰が、糞皇子だ。その口は不要か?」
「っ!」
声。
すぐに聞こえた方向に視線をやる。
砂塵の先に、人影が見えた。
すぐに走ってその場所へ。
捲りあがった地表が素足を裂くが、そんなことはどうでもいい。
生存者がいることへの喜びが、遥かに勝る。
辿り着いた場所にいたのは、果たして。
片膝をついて忌々しそうな表情を浮かべるカイセルトと、地面に座るギメリアだった。
「――良かったっ!」
「口は飾りで目は節穴か貴様は。めでたい異常思考はそこまでにしろ」
「……やー、やー……シモン様。結構、無事ですよこっち、は。なんせ我らが『稀代の神童』が……咄嗟に、護ってくれたもんですからね」
「……ギメリアさん?」
息も絶え絶えのその返答に、思わず眉を顰める。
何かあったのではと、疑いを向ける環境は綺麗に揃っていた。まさにおあつらえ向きだ。
嫌な予感がした。
すぐに座り込むギメリアに近づき、その体のどこかに怪我がないかと確認する。
そして、思わず息を呑んだ。
「……脚が」
「吹き飛びましたねぇ、ははは。生命属性魔法使えたら楽なんですけど、私使えるのが四大の方なもので」
「っ、俺が治します!」
魔力を巡らせ、即座に魔法を発動させようとする士門。
しかし、他でもないギメリアの待ったで、その行動は中断される。
「いえ、それよりエユクル様を探すのが先では? 私はカイセルト様に護っていただきましたが、エユクル様は違うでしょう」
「! すいません、探してきます!」
「はい、それまでは……精々死なないように、頑張りますよ」
そんなギメリアの言葉を背中に受けながら、士門は再度砂塵の残るこの場所を駆けまわる。
仮に死んでいたら、それは士門の責任だ。
マリンの身体の変調に気づけず、『適応』できなかった士門の責任なのだ。
それはいい。責任は負う。
けれど、だ。
異世界で初めての友人には、生きていてほしいに決まっている。
「エユクル! エユクル! 返事しろ、おい!?」
自分が身勝手な無理難題を言っている自覚はある。
重傷だったら、喉が潰れていたら、声を届けられない状況だったら。
そも、死んでいたら。
エユクルが士門に返事をすることはない。
けれど、今士門に出来ることは、呼んで、返事を待つことだけだった。
「時間がかかりすぎる……他に、何か良い方法は……!」
記憶を漁り、この状況で使える魔法を探す。
混乱し、焦る頭をフル回転させて導き出した結果。
「――空間属性中級魔法『周囲探知』」
周囲の状況を知るのに、最も適した魔法を探し当てることに成功する。
これでエユクルがどこにいるのか、見つけ出すことができ――
「――あ」
見つかったと、そう言って、果たしていいものか。
少なくとも士門にとって、その結果は間違いなく。
「死、んでる?」




