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51話

「どうするんですか」


「既に言っていることだが、俺はあの皇帝を好かん。故に奴が死のうが、奴が統べた国が崩れようが知ったことではない」


「…………」


「だが、俺がここで死ぬことはない。よって逃亡する。奴らの革命とやらが収束するまで、な」


「逃亡って、どこに……」


 逃げるアテが、そうあるとは思えない。

 そもそもカイセルトの身分は第五皇子。つまり、『反乱軍』に狙われる存在だ。

 当然のように命を狙ってくる『反乱軍』はいるはずだ。

 逃げる素振りを見せたとなれば、どのように照準を合わせているのかは不明だが、『殲禍』の的にされる可能性だってあり得る。

 着弾と同時に広範囲に被害を齎すあの兵器が目前に落ちれば、その衝撃で、命を落とすことは十二分にある。


 その上で、士門は聞いていないが、カイセルトの口ぶりを加味すれば、士門とカイセルトは皇帝直々に捕らえよとの命令が出ている様子。

 『破滅への十三』への対策として講じられた兵器を向けられている状態で尚、皇帝は士門たちを優先した。

 つまり、王族に関わる者も追手として士門たちを狙うということになる。


 現状の敵二つが、ものの見事に士門たちを標的として定めてしまっている。

 そんな状態で取れる選択肢は、やはりそう多くないだろう。

 あるとすれば、真っ先に上がるのは国外逃亡。

 ラドルグ帝国の影響を受けない場所まで高飛びすること。ここに来てカイセルトの言っていた、マリンの中身が士門だと露呈した場合の策として例に出したものが浮かんでくる。


 とはいえ、だ。

 この世界の地図の知識を引っ張り出し考えても、そう言った場所は海の向こう側。

 しかもそのうちの一つは『魔人族』と関係を違える『人間族』の国、ノウラス王国であり、一つは『人間族』と良好な関係を築く『獣人族』の国、シャンガ連邦。

 まず士門たちを受け入れてはくれないだろう。しかし街を使わなければ、どう考えても限界がある。

 残る一つ、『耳長族』が息づくホウライ共和国だが、他四つの国とは中立を維持している以上、やはり受け入れてもらうのは厳しいように思える。


 魔法の中には空を飛ぶものはあるため、移動はさほど難しくないとして、そこから先が立ち行かない。

 やはり逃亡先は無いように思えてしまうが――


「――決まっているだろう。奴らの踏み入れぬ、魔境だ」


「は?」


「貴様のその身体の出処よ」


「いや、ま、まさか……!?」


「ああ、これから俺たちが目指すは『破滅への十三』の内の一つ、『胎造せし二』。人の生きれぬ異常地帯だ」


 絶句。


 それ以外に出来ることなど、士門は持ち合わせていなかった。

 余りにも無茶。余りにも無謀。余りにも荒唐無稽。

 子供の発想の方が幾ばくかマシな行き先を導き出しそうなほどに、カイセルトの一言は士門にとって想像の埒外であった。


「不可能だと思うか?」


「あ、当たり前だろ!?」


 思わず敬語を取り払って自分の中の本音を吐き出せば、カイセルトは初めてこちらを向いて、言葉を紡ぐ。

 表情には、当然のように嘲笑を浮かべて。


「阿呆か貴様は。よほど物が見えていないようだ」


「な、なん……」


「唯一あの場所で生き抜き、この国へ足を踏み入れた異常は、貴様が一番身近であろうが」


「…………あ」


 言われてようやく、カイセルトの考えを悟る。

 いや。

 いや、だが。

 幾らなんでも考えが浅はか過ぎる。

 これまでの他人を見下すほどの叡智は、一体どこへ消えたのか。

 未だこちらへ嘲笑を浮かべるカイセルトとかいう糞皇子が、士門には馬鹿に見えて仕方がない。


 何故なら、理屈としては『そこで生きてた奴いるし、そいつ連れてったら大丈夫なんじゃね』なのだから。

 鼻をほじるカイセルトが馬鹿面でそう言っているのが目に浮かんで仕方ない。


 士門は『胎造せし二』のことなど、あくまでも知識でしか知らない。

 そこで生きたらしいマリンの記憶は無く、その場所が奪った命の数も、危険性もとんと分からない。

 だが、である。


「――いや、それで済んだら世界を滅ぼす厄災じゃないだろ!?」


 もう敬語だの、身分がどうだのを考慮している余裕はない。

 士門が出し得る限りの正論で以て、命を捨てに行く馬鹿糞皇子を止めにかかる。

 どう考えても、そんな阿呆丸出しの考えで『胎造せし二』に向かい、生き残れるはずがない。

 それこそ、先の士門の発言通り。

 それで済んだらあんな大層な呼び名は必要ないのである。


 しかし、士門の方が正論を言っているはずだというのに、カイセルトが退くことはない。


「少しは考えろ愚図が。貴様がそう思うということは、つまり我らを追う奴らもまたそう考えるということだ」


「考えとしちゃ間違ってないと思いますけど、命の保障が無いのが一番の問題でしょう」


「『反乱軍』が勝ればどうせ殺され、『反乱軍』が敗れればいずれ露呈しかねない儀式の全貌を隠し通す生活に戻る、いや、それ以上の苦痛が待っているというのにか? 分かるか、逃げて魔境へ行こうが逃げずにこの場に残ろうが、命の保障は無い」


「…………それは、そうですが」


 すぐに正論は圧し潰された。

 結局舌戦でカイセルトに士門が勝つことはできない。

 確かに、この場に残って士門に出来ることと言えば、王族を支援するか、或いは『反乱軍』を支援することの二択。

 そして、どちらにしろ士門に命の保障はない。

 グルヴァには『反乱軍』に来ないか、などと言われたが、建前の可能性だって考えられる。

 王族に肩入れしたところで言わずもがな。


 そう考えれば確かに、カイセルトの言っていることも必ずしも間違いではないことになる。

 『適応』した時に感じた違和感が今後強くなり、いずれは使えなくなることだって考えられるのだ。マリンの死因が分かっていない以上、いつまでもある力だと過信することは難しい。


 つまるところ。

 士門に選択権などありはしない。


「理解したか鈍間」


「……は、い」


「チッ、随分と時間を浪費させたな。この負債は『胎造せし二』に踏み込んだ後に返してもらうぞ」


「はい」


 と、そんな具合に目的地の共有が行われたところで。


 士門はこの会話中、意識の片隅で気になっていたことを聞くこととする。

 問い掛ける相手は、


「ギメリアさん」


「はい。何か?」


 士門とカイセルトの間で移動を続ける、第五皇子お付き、ギメリアにだ。

 カイセルトと違い、問うた士門に視線を向け、そのまま器用に疾走しながら用件を尋ねるギメリア。


 そうしてこちらを向いたギメリアを見て、士門は疑問をさらに強める。

 明らかにおかしいと、確信に近い感情が生まれたのを感じた。


「その、何かしましたか?」


「? と、言いますと? 現在進行形で走ってますけれど」


「いえ、そういうことではなく」


 少なくとも態度はいつものまま。

 お付きであるかは正直疑わしいレベルで親しげだ。

 だが。


「身体から、おかしな魔力が漏れているのが見えていまして」


「…………」

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