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47話

 士門の意思を無視したかのようなその挙動に、ヤラの時と同じようなことがまた起きたのかと内心焦る。

 が、首筋に微かに感じた悪寒がそれを否定する。

 背後にも、何者かがいる。

 そう悟るまで刹那と時間はかからない。


 伸びた左腕が掴んだのは、金属特有の冷たさを持つ物体。

 研ぎ澄まされた触覚がそれをナイフと断定する。


 前からは剣を振るうグルヴァが未だ健在。

 音速のその剣を右手が左右から難なく掴み取り、その場で回転。


「な、ん……!?」


「……っ!」


 前後から驚愕の声が聞こえた。

 背後の声に、微かな聞き覚え。

 およそ人物を判別できないほどに殺されたものではあったが、マリンの聴覚がそれを見逃さない。

 首筋を狙った何者かの正体が特定される。


 半回転までしたところで左手で掴んでいたナイフを握る何者かごと放り投げ、残るグルヴァの剣を引き寄せる。

 『適応』によって跳ね上がった膂力で以て行われた、転移にすら似た刹那の運搬。


「が、あぁっ!」


 グルヴァは、しかしそれに対応した。

 意地か、それとも別の何かか。

 何にしろ、目前の男は引き寄せられた剣を手放すではなく、むしろ自らの方へと引き寄せる。


 となれば、当然引き寄せられる方向はより力の強い方――考えるまでもなく士門の方向。

 グルヴァの行動は引き寄せられた結果自身と士門との間に出来る距離を、更に縮める行為に他ならない。


「うおらぁ!」


 それこそが狙いだった。

 抵抗する間もなく放り出された空中。踏ん張りは利かない。それでもグルヴァは剣を持たぬ拳を振るう。

 縮めたからこそ届く、ギリギリの間合い。


 ――『適応』。


 その一撃が、士門の顔面に突き刺さる直前。

 腹部に鈍い激痛が走る。

 苦悶の声を上げる間もなく、続けざまに後頭部へ硬い感触。

 受け身を取ることもせずにグルヴァの顔面は地面に叩きつけられた。


「っ!」


 次の瞬間には、死角から先程放り投げた何者かがナイフでの刺突を試みる。


 が――『適応』。


 苦もなく不意は削り取られ、差し向けたナイフは再び掴み取られる。

 すぐさま新たな得物を取り出す何者かは、流れるように連撃を繰り出した。


 士門はその全てに『適応』し、数多の線を片手で止めた。

 ラエスタルに比べれば、バラムと比較すれば、余りに鈍い。

 恐らくは、標的に気づかれた状態での戦闘にはそれほど慣れていない。

 それは偏に。


「――暗殺者でしたか、サヴァ―リさん」


 士門の命を刈り取らんとする少女の分野故。


 無感動にその全てを迎え撃つ士門が口を開き、その名を呼べば攻撃の手は僅かに緩まる。

 その隙を見逃す『魔女』ではない。

 三度ナイフを掴み取り、力の限り投げ飛ばした。


「っ…………いつから」


「つい先程です。聞こえた声が、サヴァ―リさんのものでしたので」


 その言葉に、士門の耳は息を呑む音を拾う。

 次いで、諦念を含んだ声色で。


「人を超えた耳をお持ちですね、マリン様。この状況で尚、そこまでの余裕をお持ちですか」


「余裕なんてありませんよ。それに、多少心配していましたがね」


「心配、ですか?」


 赤い瞳を向け、サヴァ―リを見やる。

 そこには二日前に見たものと同じ給仕服を身に纏い、ホワイトプリムを装着した藍色の髪の少女の、『魔女』の証たる瞳を向けられ身を震わせながらもそれを悟らせぬように懸命に隠して小首をかしげる姿があった。


「バラム様との決闘の余波で怪我をしたと聞きましたから。恐らくは虚偽だろうと言われましたが、頭の隅でそれなりに」


「それは光栄にございます。ですが見ての通りですのでご安心を」


「はい、それは良かった」


「早速で申し訳ありませんがマリン様。その御身体、捕らえさせて頂きたく」


 ナイフを構え、こちらへ殺気を向けるサヴァ―リに、しかし士門は動揺しない。

 もとより敵として認識していたからか、それとも士門の中で、マームが殺された瞬間に何かが切れたからか。

 どちらにしろ、命を狙われている感覚とやらが酷く欠如していた。

 だからこそ出た言葉だろう。


「どうぞご自由に」


 次の瞬間、士門が感じ取った殺気は二つ。

 正面の少女と、後方下の地面近く。

 後者がグルヴァであることを察知し、即座に察知し。


 ――『適応』――


「――っ!?」


 走った違和感は一瞬。

 微細そのものだと言っていい。


 だが、それはこれまで一度たりとも感じていなかった異常。

 故に、士門の動きが鈍る。


 サヴァ―リがそれに気づき、身体の限界を酷使して接近する。

 倒れていたグルヴァが本能で感じ取り、一瞬で立ち上がり剣を振るう。


 鈍った身体を自覚した士門は、『適応』しての完全回避を諦める。

 再度違和感を感じて更に動きを鈍らせては、予想以上の傷を追いかねない。

 マリンの身体能力に物を言わせて、士門自身の技量での回避を敢行する。


 攻撃が来る方向は二つ。

 後ろ斜め下と、それ以外のどこか。

 グルヴァの攻撃は読めている。脳に喰らった一撃が、それ以外の軌道を考えることを許さないだろう。半ば本能が動き繰り出した一撃に他ならない。

 しかしサヴァ―リはそうではない。余裕がある。士門が見せた動きの鈍りがそれを生んだ。どこからでも攻撃を仕掛けるだけの余裕を。


 士門が取ったのは、


「――――」


 限界まで攻撃を引きつけてからの回避であった。

 勘で動いたところで、当てにならない未来が見える。

 信じるべきは、現状唯一の手札。マリン・モーガンル・ラドルグホープの身体能力。

 肌で感じ取り、反射的に回避する。


 勝負は一瞬。

 緩めることなく、張り巡らせる感覚で警戒する。


 分かったのは、その次の瞬間。

 首筋に、何度目かの悪寒。


 ここで、両者の狙いが士門の首であることが判明する。

 即座に回避行動を思考し、行動に移す。

 背後から迫る一閃を振り向くように回避。


 続く攻撃を首を捻って――


 ――そこで思考が待ったをかけた。

 サヴァ―リが暗殺者であるのなら、読んだ攻撃はフェイクでは、と。


 逡巡は刹那。

 その待ったを精査するのに必要だった微かな時間を経て新たな回避行動を決定する。


「――っ!」


 同時に、サヴァ―リは士門にナイフを一閃。

 行動を決定し、即座に移した士門の左肩を鋭く切り裂くに至った。


「ぐっ……!?」


 初めての痛みに表情を歪ませながら、それでもひとまず距離を取らんと足を動かす。

 が。


「逃がしません」


 暗殺者が、追いかける。


 戦闘経験において、サヴァ―リと士門とでは圧倒的にサヴァ―リに軍配が上がる。

 その上で、士門に使える手であったマリンの身体能力だけでの回避は行動決定権を持つ者が士門であるが故に扱い切れず、頼みの綱であった『適応』は行使に些かの不安を残す。


 アレーナに来てまたも初めての、命を狙われる感覚。

 正しく感じ取れたそれを前にしながら、サヴァ―リのナイフの行き先を半ば無意識に追いかけ――

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