35話
「あの……」
「はいはい、どうぞ」
「選定の間でバラム様が使っていた……確か儀式魔法。あれはどれに分類されるのでしょうか」
決闘でバラムが使用した『魔人之血戦』が、果たして四大属性と特殊属性、どちらに属するのか。
単純に疑問だっただけで、それが聞けたからどうこうと言う話ではないが、聞けるときに気になったことを聞いて悪いことは一つもない。
そんな士門の問いに、ギメリアは良い質問と言わんばかりに頬を緩め答えた。
「あれは特殊属性の魔法ですよ。中でも、まず使われない類のものですけど」
「え? でもバラム様は火属性の魔法を使っていましたよ?」
「そこでちょっと重要になるのが、きっとバラム様が『魔人之血戦』の発動直前に放った言葉ですね」
「あぁ……あの」
士門が詠唱とそう呼んだ前口上。
完全に初出のものだったためにどんな効果があるのかと驚いたが、儀式魔法と言う魔法を使うに当たって必要な行為のようである、以上の推測を立てることが出来なかった。
この流れで聞いてみようと思っていたのだが、まさかここで出てくるとは。
「あの……実際は何なんですか、あれは」
正直、無駄にしか見えない。
わざわざ魔法を使う前にあんなことを言う必要があるのなら、『魔人之血戦』という魔法は使い易さと言う点で余りに欠陥品だ。
効果が強力であることは間違いないが、敵に発動を声で知られてしまうというのはデメリットなのではないかと、戦いに関して素人ながらも士門は思ってしまう。
いやまあ、刺さる人には刺さる行動なのだろうが。士門の友人なんかがそれに当たるだろうか。
「先程言った通り、『魔人之血戦』は特殊属性魔法。それを使ったバラム殿下は四大属性を扱います。ここで焦点になるのが、どうしてバラム殿下が特殊属性を扱えたのか、ですが……これは簡単な話です」
「…………」
「恐らくは、バラム殿下が発動させたわけじゃないというだけです」
「はい?」
「ですから。バラム殿下は本来決闘においてしてはならないことをしたということですよ。自らに仕える給仕を使って、だと思います。『魔人之血戦』を給仕たちに発動させ、自身は何もせずに強化を、シモン様には弱化を施したというわけです」
つまるところ、イカサマである。
思ってもみなかった事実に、思わず士門は口を開けたまましばし固まった。
しかしそのままではいけないと何とか立て直しを計り、言葉を紡ぐ。
「そ、そんなことをする方には見えませんでしたけど……」
「それだけマリン様を憎んでいたという事でしょうね。まあ、十年前までを知っている私としてはそうなるのも無理はない気がしますけれど」
「えぇと……つまり、何でしょう。あの宣言に似た言葉は……」
「給仕たちへの合図だと思いますよ。ついでに自分へ注意を向け、本当の術者を悟らせないようにすることも。魔力が見えるマリン様の眼には意味ないですけど」
「…………」
そういえば、バラムを起点にした魔力の流れでは無かったような気も、今となってはするが。
まさか、そこまでしてくるかと士門は頭を押さえたくなる気持ちを溜息に乗せて外へと吐き出した。
口ぶりから、決闘においてイカサマはご法度らしい。
第一皇子ともなれば、その辺りを分かっていないはずがない。
分かった上で、尚それを使うことを選択させるほどにバラム・ラドグラーゼの、マリン・モーガンル・ラドルグホープへの恨みは凄まじいものだということ。
普通に怖い。
「……とりあえず話は一度ここで終わりにしましょうか。どうです? 魔法に関してはだいたい分かったでしょう」
本当に話はここで終わりと言うように、眼鏡を外したギメリアが、士門に問うてくる。
隠す必要もないので、忌憚なき、心からの意見を述べる。
「はい、分かりやすかったです」
「それは上々。正直、私が話している最中に魔法に関する知識全部思い出さないか心配だったんですよねぇ。そうなったら私お役御免ですし」
「そうはなりませんでしたね」
「いやはや良かった。じゃ、後は使える魔法を増やしていくだけですね。カイセルト様から魔法名さえ分かれば使えるようになることは聞いているので、これから私が知り得る全ての魔法をお教えいたしましょー」
「はい、よろしくお願いします」
チートにチートを重ねるようなレベル上げの敢行を宣言されてしまったが、バラムにまた絶級魔法向けられるかもしれないほどの恨みがあることが何となく透けたので拒否はしない。
承諾すると、ギメリアはほぼ予備動作無しで庭の地面に大の字に寝そべった。
「あの……ギメリアさん?」
「魔法名言うだけなんですから、どんな格好しててもどんな体勢でも関係ありませんよ。それで、今までに使った魔法はどんなもんです?」
「えぇと……」
『疑似視覚』『快治』『遡行』『双翼』『微風』『捩潮波魔』『風場』をそれぞれ挙げる。
そして、見たことのある『山牙』『突風』『魔人之血戦』『灼火煉獣』も追加。
ひとまずこの異世界で士門が触れた魔法全てを列挙する。
それにギメリアは少し考えるように間を置いてから。
「よーし、それでは行きましょうか。まず手始めに――」




