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34話

「えぇ、残念ながら」


 肩を竦めたようにギメリアは言うと、眼鏡の奥にある両目の内、片目を閉じて、不意に片手を広げた状態で士門の方に伸ばした。

 意図が分からず、内心で首を傾げていると。


「――ほっ、と」


 どこか腑抜けたその声と共にギメリアの伸ばされた掌に現れたのは、火、水、風、土。それぞれを凝縮した小さな球体。

 それが魔法であることは、特別製らしいマリンの瞳が魔力を捉えることで分かった。


「属性の分類は大きく五つ。この四つと、それ以外です」


「…………」


「分かりますよ。それ以外って投げやりが過ぎるだろ。幾らなんでも雑だな。そう思ったことでしょう」


「……そういうスキルとか持ってたりしませんか」


「ちなみに今しがたの言葉は全て私のものです。シモン様も同じようだったので幸いですね」


 スキルはそう言うたぐいのものではないと言外に否定される。

 つまり、このこちらの考えを読むかのような発言は、あくまでもギメリアが持つ技術ということになる。超能力もかくやというレベルの見事なものだ。

 カイセルト――『稀代の神童』と謳われた男の傍に仕える者の不気味な底知れなさに微かな感嘆を感じつつ。


 それにしても大雑把な分類分けだと士門は頭の中でツッコんだ。

 ギメリアの言うことはズバリ、士門の心境を言い当てていた。

 それ以外。火と水と土と風、それ以外。

 余りに広すぎる分け方であることは覆しようがない。


「まー、戸惑うのも呆れるのも無理ないとは思うんですけど、一応これにも理由がありまして。どういうわけか、この四つの属性、俗に四大属性と言われるものとそれ以外――特殊属性って、明確に線引きがあるのですよ」


「と、言いますと?」


「五大種族の特性についてはご存じですよね? 『魔人族』は支配属性魔法が使える、『獣人族』は身体機能が異常に高く名前の通り獣の特徴を身体に宿す、『小人族』はモノ作りに長けている。そんな感じに」


「はい」


 その辺りはサヴァ―リから話を聞いている士門。

 首を縦に振り、ギメリアが述べなかった残り二つの種族の特徴を言おうとして――


「――あれ?」


 違和感に気づく。


「察しが良くて助かります。そ、『耳長族』の種族特性は五つある魔法の属性を全て扱えること。不思議ですね、これだと他の種族は四大属性と特殊属性を両方使えるわけではないことになります」


「確かに……」


 言われてみればその通り。

 何故サヴァ―リとの会話で、その違和感に気づけなかったのか。

 いや、恐らくはその時点では士門が魔法に関する知識に乏しかったことが大きいだろう。

 そして、それを後押しするかのように。

 士門は、いやマリンは四大属性と特殊属性、そのどちらもを使えていた。


 頭の中で勝手に、『耳長族』は五つある魔法の属性を全て扱える、のではなく、五つある魔法の属性を全て上手く扱える、という解釈に差し替えてしまった可能性は高い。

 王族側への警戒をしつつだったあの状況の、過去の自分を責めるのはさすがに酷だろう。ただでさえ身体が女になって不安定に――言うほどなっていない。


「…………」


 ひとまず保留。


 耳を傾けて、ギメリアの更なる言葉を待つ。


「シモン様のお察しの通り。『耳長族』以外は四大属性か特殊属性、どちらかしか使えません。四大属性を使える誰かが特殊属性の魔法……例えば光属性の魔法を使おうとしても、どう頑張っても使えないんですよ。理由は分かりませんけれど」


「えぇと、それは必ずなのでしょうか?」


 またも明かされるマリンの異質さに、思わず他に例外はいないのかと問うも、返ってきたのは眼鏡で反射した光と、


「例外はマリン様以外にはいませんよ」


 容赦ない一言だった。

 ぐぅの音も出ない返しである。

 現時点で見ても、不信点が多すぎる。

 マリン・モーガンル・ラドルグホープという女の全貌は、未だ尚計り知れず、読み切れない。


「そこは今の話には関係ないので、ひとまず置いておいて。こういう理由で、あんなアバウトな分類なのですよ。何故四つとそれ以外という括りなのかも不明です。特殊属性に含まれている属性の総数も。ま、出来ることの自由度で言えば五分なので別にどっち使えても不便はありませんけどね」


「そういうものですか」


「ちなみに私は見ての通り四大属性の方です。轟級までは使えますよ。絶級は無理です」


「ギメリアさんも凄い人なんですね」


 ラドルグ帝国に何人の『魔人族』がいるのかは分からないが、その中の千人に入っているというのは素直に賞賛できることだ。

 と、自分が絶級魔法を軽々と行使したことを一瞬だけ完全に忘却した状態で告げた士門。


 その言葉に、ギメリアは髪色と同じ茶色の角を触りながら、いやーと呟き。


「王族に仕える者の中ではそれなりの位置にいる自負はありますが、それでも一番じゃないんですよねぇ。やっぱり皇帝陛下の給仕の皆々様が余りにも強くて」


「そう、なんですか」


「そうなんですよ。ま、カイセルト様が今第五皇子なので気楽にやってますがね。

 ――と、そんな具合でひとまず魔法の基本的な概要は以上ですかね。質問とかあります?」


 話を一度締めくくったギメリアに視線を向けられ、士門は少しの間思考を巡らせる。

 説明はまあ分かりやすいものではあった。呑み込み切れない部分は幾つかあったが、それは恐らく士門が異世界のお約束とかウェブ小説の鉄板ネタとか、そういうものに慣れ親しんでいないためだろう。

 ここにファンタジー好きの友人がいれば、ギメリアの説明に凄まじい理解を示していたかもしれない。興奮しながらすぐにでも実践に移そうとする友人の姿が目に浮かぶ。


 これまでに出てきた魔法の情報を統合し、何かないかと整理を続けると、ふと浮かんだものがあった。

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