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10話

「このお城に、書物を集めた場所はありませんか? いつまでも記憶喪失のままというのは忍びありませんので、出来れば一般常識を身に着けたいのですが」


 詳しく言うなら、『魔人族』に関する情報がもう少し欲しい。

 主に『魔人族』の生態と国家の状況だ。

 本人たちに聞けば早いのかもしれないが、穿った意見が返ってくる可能性を否定できない。それにサヴァ―リはあくまでも第二皇子マガセル・ラドグラーゼの給仕であるため、虚偽の情報を渡される可能性も考えられる。

 客観的に書き記した書物があれば、そちらの方が好ましい。無い可能性も、勿論あるが。


 ついでに、あわよくば魔法に関して載った文献が読みたい。

 『疑似視覚』はその名称を聞いただけで、体が思い出したかのように魔法を行使できた。

 つまり、魔法名さえ分かれば、他にも使える魔法が増えるかもしれないと言う事。

 『反乱軍』なる組織も出てきたことだし、ただでさえカイセルトには皇帝と第四以上の皇子の手の者に気を付けろと言われている。

 出来れば自衛の手段は確保しておきたいところなのだ。


「……あー、えぇと……その」


「その?」


 しかし、どうにもサヴァ―リの様子がおかしい。

 困った様子で視線を僅かに彷徨わせ、行ったり来たりさせている。


 それから数秒の後。

 まるで今思いついたかのように、少女は言った。


「あ、あるにはあるのですが、現在立ち入り禁止なのです……」


「というと?」


「えぇと、あまり大きな声では言えないのですが、第九皇子が書庫に入った際に足を滑らせ、お怪我をなされまして。お付きの給仕の進言で一時閉鎖に……」


「そう、だったのですか。では仕方ありませんね」


「一般常識でしたら私がお教えいたしますのでご心配なく!」


「はい、ありがとうございます」


 心配するべきなのは今の自身の態度だと思いますけど、と心の中で付け足しながら、士門はサヴァ―リがマガセルに仰せつかった命令の内の一つを何となく把握する。

 大方、与える知識に制限をかけろ、と言ったところか。

 無論サヴァ―リの独断の可能性もある。先程の中級魔法の突然の行使を見せてしまったことで記憶が戻ることへの警戒心を強めた、と言うことも考えられる。


 ともあれ、今後サヴァ―リから出る情報にはある程度限りがあると見越して行動することがベストだろう。

 一定以上の情報を貰おうとすれば、その瞬間にぴしゃりと話を打ち切られることもあり得そうだ。

 有難かったのは、カイセルトに敵対する皇帝たち――王族側とでも言おうか――が差し向けた間者が想像以上に分かりやすく態度に情報を出してくれたことだ。その辺り素人の士門でも丸わかりの豹変ぶりである。


 と。

 敵の狙いを読む思考はこの辺りで止めにして。

 折角自分が教えると、そう言ってくれたのだから提案には乗っかろう。


「では早速なのですが――」


 ――そんな具合に、ある程度の線引きをして引き出せば、すんなりと情報は手に入れることが出来た。


 まずこの世界には『魔人族』以外に四つの種族があり、それぞれ繁殖力が高かったり、五つある魔法の属性全てを使うことが出来たり、身体能力が高かったりと特徴があるらしい。

 種族ごとに国があり、世界地図にすればど真ん中に一つ国があり、その左右に縦長の大陸が存在する。大陸を二つにそれぞれ分け、左上を『人間族』の国、ノウラス王国。左下を『獣人族』の国、シャンガ連邦。右上が『魔人族』の国、士門が現在いるラドルグ帝国。右下が『小人族』のフィンティル公国。そして、真ん中に位置するのが『耳長族』のホウライ共和国である。


 関係としては『人間族』と『獣人族』、『魔人族』と『小人族』がそれぞれ良好だが、『人間族』と『魔人族』の関係は悪いらしい。

 士門としては『魔人族』であるはずの現在の体では『人間族』と会うことはできなさそうだと意気消沈する結果となった。


 そして魔力に関してだが、どうやら生物には共通して魂なるものが存在し、その魂が生きるためのエネルギーを生成しているらしいのだ。

 内臓とかの働きはどうするんだ、栄養はどこ行くんだと士門は内心ツッコんだが、サヴァ―リ曰く、具体的には生きるための概念的なエネルギーを作り出しているらしく、内臓を動かすのもそのエネルギーが関係しているらしい。

 正直士門にはよく分からない世界だった。今までの常識が崩れ去ったため、当然と言える。もうそういうものと受け入れることに。


 そして、その生命活動に必要なエネルギーの余りが魔力なのだと言う。


 もう一つ、ファンタジーなものが存在し、名をスキルと言うらしい。

 どうやら一定以上の熟練度に達した技術や才能を、分かりやすく、且つ強力にしたものとのことだった。

 例えば剣を扱える人物がそれなりの鍛錬をすればスキルは手に入る、といった風に。

 誰しもが必ず一つは持っているそうだが、手に入るスキルには運が絡んでおり、欲しいスキルが手に入るかどうかはその人の運次第とのこと。才能が関係しているため仕方がないと言えばそうだが。『出来ること』と『やりたいこと』が一致しないのは士門の世界でもよくあることだった。

 ちなみにサヴァ―リのスキルは教えてもらえなかった。


 レアリティもあるらしく、高いほど効果が強力になると教えられたが、『レアリティ』『運次第』と言葉を並べられると、どうにもガチャガチャを思い浮かべてしまうのは士門だけではないはずだ。

 閑話休題。

 六段階に分かれているようで、現在一人として確認されていないレアリティ六ともなれば、神にすら匹敵する効果を誇ると言われているが、現状所持者がいない以上眉唾だとサヴァ―リは言っていた。


 と、そんな情報を、忘れないように頭に留めたところで。


「そろそろ昼食にいたしませんか?」


 喋り続きだったサヴァ―リが、息を整えながらそう言った。

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