28話
「殺された……!」
衝撃の事実に、一歩も動けない悠輝。聞いていない過去だからだ。
「ええ、俺はちょうど外に出ていて助かったんですが、家の中では誰かが来てたらしく入ったら、家族の遺体が……」
少しずつ廿月の目から涙が出てくる。量は多い、悠輝の口は少し開いていた。
「……嘘だろ」
「そのとき母は生きていましたが、俺が手を差し伸べた瞬間……」
「瞬間……」
「母は体が爆発し、遺体残らず消えました」
廿月の瞳は真剣、ニゴりなく本当のこと伝えている。
悠輝は銀髪の顔をみて、震わせながら唇を動かす。
「爆発? もしかして」
「えぇ、父、兄、妹も全員爆発して体残らずいなくなりました」
視線をそらし、肩を落とす悠輝、廿月の顔を見てられない。彼女の心に負担がきていた。
「どうりでニュースでもやってないわけだ。遺体がないから」
「警察に話しても信じてもらえず……。俺は……、俺は……」
廿月はまた大粒の涙を流した。孤独に生きた証拠だったからだ。
「まぁまぁ落ち着けよ、はっきー。お前は頑張ったんだ。誇りに思った方が良いぜ」
「……ありがとうございます」
「ったく、犯人わからないなんて、つらいな。心が痛くなるぜ。大丈夫! はっきーにはオレちゃんがいるから……」
「実は犯人はわかっているんです」
「わかっている?」
「一瞬でしたが、俺が家に帰ろうとした瞬間、家のドア前で、すれ違ったんです」
「すれ違ったんだ。いったい誰だ?」
「名前はわかりませんが、顔はひげの生えた男性でした。多分三十~四十代です」
「そうか、犯人の姿がわかっているなら話が早いが、なにせ証拠がないから」
「でもいいんです。今は気にしてませんので、犯人捜しするのもなんだかな……と」
「まてまて、家族が殺されたんだぞ。恨まないのか?」
「それはしょうがないことだとおもって切り替えています。おかげさまで師匠にも会えましたし」
「……なんかはっきーの覚悟が怖いな」
廿月の開き直りが、不気味に聞こえる悠輝。
彼は気にせず、話し続ける。
「弟殺された方がショックだったので」
「……それでも。まぁ本人がそうならないいいんだ。悪かったなこんな話を思い出させてしまって」
「いいんですよ。過ぎたことですし、それに一ノ瀬さんや霧山さんと話すことが楽しいし」
「そういう問題かな。まぁ、本人がそう考えているならそれでいいんだ」
「……そろそろ上がりますね。一ノ瀬さんも水着取りたいでしょうし」
「そんなことはないけど。はっきーが、のぼせる前にあがってもいいな」
「それじゃ。俺はこの辺で。ありがとうございました」
廿月は浴槽から出る。悠輝は見ないようにしていた。
「あいつに重い過去があったとは……」
悠輝は水着を取りながら、彼を心配する。
廿月は髪の毛を乾かし、寝巻きに着替え、布団に入る。
「思い出すな。あの光景が」
廿月のあの時のコトを思い出す。
事件の日。当時、その日は雨が降り出しそうな曇天。
高校生の廿月は、制服に雨水がかかる前に、ギリギリ帰ってきた。
廿月の家は一軒家で、普通より広い家。そこに帰ってきた。
「遅くなったな。お父さん怒るだろうな」
廿月はお父さんのお叱りを心配していた。すると、すれ違いざまに、ひげの生えた男性が、廿月の横を通る。
男は深くキャップをかぶっていたから目は見えないが、ひげが生えているのは、廿月の肉眼でも確認できた。
「あの人は誰だろう」と廿月はつぶやく。
そんなことは気にせず、家の玄関へ向かった。
「ただいま」
帰ったと同時に、廿月の母が見える。彼女は声を荒げながら、廿月の肩を両手で掴む。
「はーちゃん! 助けて! 助けて!」
「お、お母さん。どうしたの」
「私死にたくない! 生きたいよ」
「どうした。ゆっくり喋って」
廿月のお母さんは、呼吸を整える。その直後口を開いた。
「家族が殺された」
「え?」
その後、母親は急に倒れる。廿月は焦っていた。彼は急いで家族を探す。
そこには、父親、兄、妹が無残な姿の遺体が発見された。父は浴槽に、兄と妹はリビングで血を出しながら冷たい体になっていた。
「……お、お母さん!」
廿月は体を震わせながら、母親がいる場所まで戻る。
廿月は、じっくり母親の姿を見る、少し顔の皮が剥けただけで怪我はしていなかった。それを見て安心する。
「……よかった、お母さんは軽傷なんですね」
「いや、ちがう。わたしはそろそろ死ぬ」
「え? どうして!」
「わからない! でもそんな感じがする!」
母の言っていることが理解できない廿月。少し頭が混乱しそう。
廿月の母は、感情を込めながら言葉を吐く。
「何で優秀な私達がこんな目に! 私達は才能ある……」
瞬間、廿月の母親は爆発して体残らず散っていった。
その爆発は急だったので、廿月は返り血も浴びてない。
ただ、音も熱さも感じてない、不思議な爆発だ。
「お、お母さん……」
すると、他の場所で小さな爆発が起こっていた。
「?! お父さん! みんな」
遺体の場所に行くと、残骸すらなかった。全部、家族の冷たい体は消えていた。
「……全部ない。家族の体が何一つ……」
「ははは、あっはははははは!!」
狂ったように声を出している廿月。家族が全員消されたのか、おかしくなっていた。
――外では雨がポツリと降り出してきた、何も癒せない雨粒がどんどん多くなる。
ただ、何事もなく降り続ける――。
「……あのとき、どうすればよかったんだろう」
少しして、現実に戻る廿月。いま何でも屋で働いている廿月の時間になっていた。
「お母さん……。俺は成長できたかな」
廿月は涙ぐみながら横になる。廿月にとってお母さんの死は苦しかった。
あぁ、今夜も月が鋭く光る。象牙のような純白。白く光る。
この白さは廿月にとって眩しすぎた。
眩しすぎて、水晶体の奥では、黒く染まりそうだ。




