27話
二人は何でも屋に戻ってくると、何でも屋の近くに桐生炭祢が立っていた。
依頼が終わった二人に、悪ぎれもない態度で、炭祢は挨拶する。
「よ、どうだった?」
彼の軽い挨拶に、悠輝はムッてなっている。彼女にとって不快な相手だからだ。
「あぁ、結論から話すとお前は勘違いするなってこと」
「は?」
生意気に返事をする炭祢、廿月が事情を伝える。
「あなたの情報はデマだったんです」
「……デマだったんだ。はっはっは、良かった良かった」
炭祢は相手に舐めた態度をしている。温厚の悠輝でもピリッとしていた。
「デマを流した本人がいうなよ」
「つまり、何も企んでなかったって事でしたってわけ?」
「そういうこと。こんどから、しっかり本当の情報か見極めてから依頼しろよな」
「わかったわかった。今日は助かったよ。また後日頼むから宜しく」
炭祢は心弾ませながら帰って行った。
「り……了解です。桐生さん」
廿月は呆然と見ていて、悠輝は彼の顔を見ないようにした。
「なにか変な人だったな」
「そうですね。そういう人もいるものだなー」
「はっきー! こういう人になるなよー」
悠輝は廿月を身体ごと掴むように抱きつく。
「や、やめてくださいよ」
「まぁまぁ、いいじゃないか! 親友だし」
「……ちょっと恥ずかしいです」
「なんだ? オレちゃんの体に当たっているからか? 気にするなよー。同じ人間の身体だぜー」
「一ノ瀬さんは女性じゃないですか」
「あー! もしかして、いやらしいこと考えてたのか! まぁいいじゃないかー。とりあえず帰ろう!」
悠輝は廿月に抱きついたまま、何でも屋へ向かう。
廿月は心の中で『……恥ずかしい。汗もかいているのに、異性と抱きついて少し困るな』と考えながら、そういう困った顔を見せている。
それから、霧山さんに依頼完了を伝え、何でも屋の中を楽しく掃除をしながら過ごしていた。
1日が終わり、月が光る夜。廿月はゆったりとお風呂に入っていた。
アニメコラボしている入浴剤を使ってお湯に浸かっている。
好きではないが、一週間前にワゴンセールであったので、もったいないから買ってきたのだ。
「……安いからと言ってつい買いすぎちゃったな…」
これは去年やってたアニメの入浴剤、『ガンマンスペード』。
原作はハードボイルド系だが、アニメでは主人公のスペードが食いしん坊で、美人に目がない性格になっている。
「原作見てないけど、この入浴剤は当たりかもね」
ふぅー、と息を出していく廿月。
「はぁ、ひどいことになったけど、無事依頼完了できて良かったけど」
廿月は今回の件を反省していた。
デマだと気づかず疑っていたこと、仕事中泣いてしまったこと、大切なアニメの保育士を勝手に懲らしめてしまったこと。それを湯船の中で頭を巡らせる。
すると、ノックの音が聞こえた。
「おーい、はっきー入っているか?」
「あ、一ノ瀬さん。はい、そうです。入ってますよ」
「ちょうどいい。オレちゃんも入るから待っていて」
廿月はドキッとしている。
異性同士で入るのは流石にまずい、必死で止めようとする廿月。
「ちょっと待ってください! さすがに男女同士で入るのは!」
「平気平気、どうせ親友になっているから良いだろう」
「よくないですって! 俺、全裸だし」
「そうかそうか。じゃ、はいるぞ」
湯船に入っている廿月は見ないように、手で目を隠す。
「大丈夫だ、目を開けてみろ」
三秒、相手の身体をゆっくりと手を下ろす。
悠輝は水着を着て入ってきた。
彼女の水着はビキニだが、布面積は大きく、谷間も見えない。
ウエスト周りはヘソが隠れていて、下も半ズボンのようなデザイン。
一緒にいても、ドキドキしない水着で、廿月は一安心する。
「良かった、水着を着て……」
「オレちゃんは別に全裸でも良かったけど、はっきーに、前買った水着を見てもらいたくてな。これ可愛くないか?」
「可愛いですけど……なんか、どっと疲れが出てきたよ」
「あれだけ、戦ったしな。じゃ、髪洗うか」
悠輝は髪をシャンプーで洗い、シャワーで流す。そしてトリートメントで丁寧に髪の手入れをしていた。
「この際だから人には言えないことでも話そうか」
急に悠輝は話しかける。湯船の中で、廿月は身体がひっくり返そうになった。
「急ですね…! どうして?」
「裸の付き合いってものがあるじゃん? そんな感じだよ」
「強制的の裸の付き合いですけどね……」
「まぁまぁ、いいじゃないか」
悠輝は気にすることなく、自分の恥ずかしい過去を話していく。
悠輝にとって、廿月は心を許している親友だからだ。
「まずはオレちゃんから。自分は小さい頃、好きだった男の子がいてさ、その子の性格がはっきーに似ていたんだよね。オレちゃん好きすぎて適当に拾った落ち葉をプレゼントしたことあったんだよ。いやー恥ずかしい」
「落ち葉プレゼントは恥ずかしいかもしれませんね」
「あとは『大好きチューして』のラブレターを上げていたり、パンモロしたり、いやー、黒歴史だぜー」
「ははは、ところでその子は俺よりもかっこよかったんですか?」
「それはもちろんかっこよかった……って言ったらはっきーに悪いか」
「いやいや、俺よりもかっこいい方が良いですからね」
「大丈夫だ。お前も十分かっこいいぞ。未来の売れっ子アイドル一ノ瀬悠輝が保証する」
「あははは、気持ちだけでも受け止めます」
「さて、はっきーの番だ。何か人に言えないことでもあるか?」
「とくになにも。つまらない人ですみません」
「なにか、失敗したエピソードとか」
「えーと、アルコール消毒液を間違えて飲んだこと、木から落ちたことですかね」
「……はっきーのエピソードって、極端だな」
悠輝は少し眉を下げ、心配をしている。
「それを同じ日に起こった話……とかですかね」
「……災難すぎない? もしかして真っ黒?」
「そんなこと、ないですよ。自分は真っ白ですし……。もうエピソードないかな?」
「えー、たとえば家族関連で恥ずかしいこと、人に言えないことあるんじゃ? てか、はっきーの家族構成ってどんなの」
湯船に浸かりながら、「うーん」と考えている廿月。
「……俺には両親、兄、妹、弟がいたんです。弟の事件以外は特にないですね」
「少し気になっていたんだけど、お前の弟の話は聞いたが、家族の話はしていないな。なんでだ?」
「それは詳しく言いたくないです」
「なんだ? 恥ずかしいのか? まぁ、家族のこと言いたくないのはわかるが、何かあるだろう?」
「本当に言いたくないんです。忘れたいことなので」
「なんだ? まさか家族が全員誘拐されて、“いなくなった”とか?」
「なんで、“家族がいなくなった”って知っているんですか!」
「……?! え、家族がいなくなった? オレちゃんの言葉は冗談だぞ」
「え?」
「……はっきー。お前の家族に何かあったかを教えてくれ。オレちゃんは心配でしょうがない」
「……これ以上内緒にしていても仕方ない。わかりました。俺の家族は――」
「俺が高校生の頃、何者かによって全員殺されました」




