21話
「……あのときはありがとうございました。俺とてもうれしかったです」
「まぁ、あれはオレちゃんも、襲われる危機があったから、結果的に助けたみたいだけどね。もちろんはっきーを助ける事も考えていたよ」
笑顔がこぼれる悠輝の姿。銀髪の男性は相手の目を合わせる。
「……」
彼は口を石のように動かさず、しばらく無言の時間が続く。絵本のゾウさんが話しかけてきた。
「だいじょうぶ? はつきにいちゃん。 ぼくもだきしめるよー」
エレフンも子どもながら強く抱きしめる。表情筋が緩む廿月。
一歩も動かずじっとみているウィンピィ。「うーう」と声を漏らす。
「何この流れ。ボクもやった方が良いの? 倉庫掃除は?」
「安心しろ。ウィンピィ達のおかげで大体は終わっている。君もやろうぜ」
「うーう。バレたらクビにされそうだけど……。よし!」
ウィンピィも廿月に抱き寄せ、彼を励ますようにした。
アニメキャラと金髪の姿を静かに見つめている廿月。
「みんなありがとうございます。だけど中々熱いですね」
「まぁ、みんなでぎゅっとしているから、体温で熱くなるのはしょうがない。我慢できるか?」
悠輝は彼を心配する。銀髪は気にしてなかったのか話を続ける。
「我慢はできますが、そろそろ良いですよ。だいぶ心が楽になりました」
「そうか。それなら良かった。あのくまさんのことはわすれろ。そういうキャラだからな」
「そうかもしれませんね」
「それに今生きているだけでも、弟は喜んでくれるだろう。前を向こうぜ」
「……わかりました」
「そうだ、つらいなら」
悠輝は廿月と一緒に窓のある場所まで向かう。
廿月の目に映っていたのは、元気そうに遊んでいる子ども達だ。
先ほど会ったアニメキャラが見守っている。
「この子ども達をみて、喜ぼうぜ。生きることがどんだけ美しいかわかるから」
「……つまり子ども達の笑顔を見るって事ですよね?」
「そういうこと。回りくどくてごめんな。だけど、子ども達はとても可愛いぞー」
「そうですね。可愛いです」
元気な子を見てあの事件をまた思い出す。それはポジティブな意味で考えていた。
事件で襲われた小象含める子ども達を守れなかった悔しさ。
廿月にはそれを力に変えたら、弟も喜ぶと感じる。
銀髪の男性はエレフンのようなヒーローなろうと……魂がつぶやく。
(俺も誰かを守るヒーローのような存在にならないとな。いや無理して、ならなくてもいい。俺は近くにいる人を助けるぐらいの小さなヒーローでもいいんだ。一番大事なのは今を一生懸命生きること。亡くなった弟もそう思っているだろう)
「そうか……俺には何も目的を持たず生きていた……。だったら今決めても良いな」
彼は深呼吸を一回だけして、心を落ち着かせる。
「何を決めるんだ。はっきー」
金髪の女性は彼の目を合わせる。廿月はほほえんでいた。
「俺は手が届く距離の命を助ける。無理のない範囲でな」
「どうして?」
「俺は弟がいた、しかしある事件で助けられなかった。だったら目の前に困っている人を俺が助けたい、というふわっとした理由さ」
「ふわっとね……。それでもいいんじゃないかな。助けるのに理由はいらないさ」
「もちろん。一ノ瀬さんも守る。ウインピィに、一番大切なキャラのエレン……」
「無理すむなよ。親友の亡骸を背負いたくない」
悠輝は冗談交じりに発言して、廿月の肩を強くたたく。彼はまんざらでもないみたいだ。
彼女のおかげでさみしい気持ちがどんどん薄れている。出会ったことに心から感謝していた。
「一ノ瀬さん。命を助けると言いましたけど、俺にとって一番大切なことは、今を一生懸命生きること。それを軸に考えながら助けます」
「ははは、なんだよその補足。面白いな」
「そうかもしれませんね」
さっきとは違い、笑顔になっていた。悩みは吹き飛んだんだろう。
彼らは作業を再開して、ひたすら進める。一五分経った頃、倉庫内の片付けが終わった。
仕事が終わったのか、エレフンはウィンピィの毛づくろいをしている。
気持ちよさそうにオオカミは喜んでいた。
一方、廿月と悠輝は座りながら、会話を始める。
「さてと、仕事も終わったことだし、黒い噂もないし、報告して帰りますか。はっきー」
「一ノ瀬さん、そうですね。何もなくて良かったです」
「いやいや、はっきー泣いていたでしょ!」
「そうでしたね。すみません」
「いや待てよ。最終確認してないや。それからでもいいか?」
「ええ、いいですよ。平和に終わって良かったですね」
廿月達は心から楽しく笑っていた。最終確認がすんだら、倉庫から出るつもりだ。
同時刻、グラウンドにて。
クマのマイクベアーはレートリオンと一緒に子どもを見守っていた。
近くには園児達と一緒に遊んでいるちゃちゃとキッザ。
レートリオンは何かかったるそうな態度をしている。
「ねえねえ、レートリオンは子ども達のことどう思っている?」
突如話しかけるマイク。エセライオンはだるそうに返答する。
「……別にどうも思ってないけど」
「……ほら、この子ども達は勝手に親に捨てられて、ひどい目に遭っているとか」
「いや、普通に親が育てられなく、ここに預かってもらっているだけだと……」
「それって、子どもがかわいそうだと思わないのか!」
マイクは声を荒げた。目の焦点があってない、狂気を孕んでいる。
だけど、レートリオンは肝が据わっていた。冷静に話を続ける。
「マイクベアー……。かわいそうだけど、別にどうも。オレ様たちはただの保育士だからな。そこは干渉しない。それに保育園だから親から預けてもらって決められた時間で引き取りに来ているから、どうも子がかわいそうだと思わないな」
「はなしをそらすな!」
「そらしてねーよ。ここは保育園でもあり、赤ちゃんポストでもあるけど、どっちみち子どものオアシスだ。楽しんでたら良いだろう。むしろ子どもが保育園に行きたくないと言っているときもある。だから俺はどうでも良いと感じている。ただ子ども達にはまっとうに生きてほしいなとは思っているけど」
その言葉にうろたえるマイクベアー。顔に手を置き、うつむく。彼はひどく落ち込んでいる。
「……ダメだ。レートリオンとわかり合えない……」
ポツリとつぶやくクマのキャラクター。レートリオンはつかさず反論をした。
「わからなくてもいい、どうせ人はわかり合えない。気にするな。お前の考え方も正しいと思っているぞ。ただ強制はするな。支配してたらもっとわかり合えなくなる」
マイクは深くため息をついた。本気で呆れている。そういう素振りをレートリオンにみせるクマのキャラ。
「なぁ、ぼくはこの場所の人たちに絶望している」
「……どうしてだ」
「だって……いや、これ以上言いたくない」
「……だったら言うなよ。オレ様めんどくさいよ」
「噂も立っている。保育士が別フォルムになって、戦っていると」
「……あぁ、そうかもな」
「だったらさ、もうぼく自身変わってもいいよね。子どもを守るためなら」
「どういうことかわからん。子ども守っているじゃん」
「そうじゃない。考え方が曲がっている園長や君たちを倒すってことだ!」
クマのキャラクターは両手を前に出し構える。相手に対して敵意むき出し。
戦闘態勢に入っていた。
彼の目は本気だ。鋭い目。本気でレートリオン含めた保育士を始末する目をしている。
「序奏牙!」
マイクベアーは叫ぶ。その瞬間、彼の体が閃光した。
光が強すぎて姿が何もみえない。
一瞬、ステンドグラスのような膜ができる。
園児達は必死に目を隠す。ちゃちゃ、ギッサも子ども達を守っている。
「おい! 何やっているんだ」
レートリオンはとっさに子どもの目を覆い隠しながらマイクと話をする。しかし、話を聞いてくれなかった。
光は倉庫内まで届いて、廿月と悠輝もすぐ気づいた。
「?! なんだ! 今の光は! はっきー」
「?! 一ノ瀬さん!」
能力をしまっていなかったのか、エレフンとウィンピィは急いで目を手で隠した。
「まぶしー」
「ぎゃあああああ! 光に当たったら溶かされる!」
ゾウさんは少し焦り、オオカミは被害妄想をしている。
廿月と悠輝は光が弱まったのか、窓の方へ行く。
ガラスの向こうで得体の知れない人物がいると確認。
グラウンドにて。数秒後、マイクの姿が少しずつ変わる。
クマのキャラクターではない人間の大男になっていた。
顔は整っており、まるで若者に有名な男性アイドルのようだ。体つきは筋肉質でどことなく色気がある。
服装はオーバーオールを着ていない。代わりに緑の革ジャン、革のズボン、銀のネックレス。
他人から見て、独特なファッションをしていた。
「この力を使って思考が曲がったお前達の命を刈り取り、子ども達を守る!」
変わった姿のマイクを廿月は見つめている。金髪の女性も同じだ。
まるで擬人化したような格好をしていた。
「……なんだこの姿は」
廿月は思い出す。炭祢が話していた内容と類似していた。
マイクベアーは海外アニメではないが。動物キャラが人間体になり、美化していたからだ。
噂がほんとだったことに驚きを隠せない。




