20話
「おい、どうしたんだよ! はっきー!」
金髪の女性が廿月の方へ向かう。能力のアニメキャラも心配そうに、足を運んだ。
「はつきおにいちゃん。だいじょうぶ? おなかすいちゃった?」
「わー! ハツキが泣いちゃった! どうしよう! ボク悪いことしたかも!」
三人は懸念している。銀髪の男性は泣き止み、ゆっくりと唇を動かす。
「本当に……本当に何でもないんだ。ちょっと昔のことを思い出して……」
「昔のこと?」
悠輝は何のことかわからない。少し涙声になりながら話し続ける廿月。
「前に弟の話しましたっけ?」
「あぁ、亡くなった弟の話だろう? 初めて出会って二週間で聞いたな。あのとき、しつこく家族のことを聞いてすまなかった」
「さっきマイクさんの話を聞いていたら、俺が情けなくなってきて」
「おいおいおい! あんな面白思考の話を真に受けるなよ。それでしんどかったら、よくないぜ」
彼女は一生懸命なだめている。彼が泣くことは滅多にないからだ。
赤ん坊をあやすように声をかけた悠輝。
だが、廿月はどんどん心が暗くなる。
「そうなんだけどさ。だけど……俺の弟は……」
どんどん大粒の水滴を目から流れ出る廿月。本人もこの姿は情けないと感じているが、止まらなかった。
彼には大切な弟を守れなかったショックがデカかったのだ。
「ごめんよ。なさけないお兄ちゃんで……。俺が守れなかったから弟は……」
「はっきー……。ふぅ、しょうがないな」
悠輝は廿月をやさしく体を抱きしめる。仕事中だったが、もう少しで終わりそうだったので、時間に余裕はある。だから、抱きしめた。
「大丈夫だはっきー。お前は頑張ったんだ。あの事件があってもお前は臆しなかった。十分勇敢だったぞ」
「そうだよ。ボクよりは勇敢だよ。ハツキの話はユウキから直接聞いている。だから安心して」
オオカミのキャラクターは会話を割り込む。
「何言っているんだ。ウィンピィも勇敢なキャラだ。お前のおかげであのとき助かったんだ」
悠輝は過去を振り返る。親友の出会いを思い出していた。
廿月自身はその出来事を今でも覚えている。本当に奇跡的な出会いだからだ。
――廿月が墨現市猫黒区に来たばかりの話。
当時、銀髪の男性は、霧山という人の仕事場を探していた。
彼には技を教えてくれる師匠がいる。名前は村上と名乗っていた。初老の男性だが、顔は若々しく、ファンキーな見た目。ファッションも現代を取り入れている。
その人が言うには「お前は学校にも行っておらん、ワシも働いていない。このままでは困るだろう。俺の弟子で何でも屋で働いているやつがいる。そいつの仕事場へ行って働いてこい。なに、衣食住は充実しており、結構儲かっているのか、お小遣いもくれるだろう。ここでいるより裕福な生活ができる」と話していた。
言われるがまま、彼はアニメキャラが存在している町にやってきたのだ。
だが、廿月は小さい頃行ったことあるが、ほとんど知らない街だ。駅に出るまでも大変だった。
やっとの思いで駅の外に出たのは良いが、霧山さんの仕事場はどこにあるか詳しくわからない。師匠は弟子に連絡したが、場所を伝え忘れたのだ。
師匠は携帯電話みたいな電子機器が苦手で、連絡ができなかった。
彼と話す手段がもうない。しょうがないので、警官や周りの人達に聞きながら回っていた。
教えてくれたものは良いものの、肝心の場所が複雑すぎて、廿月は迷っていた。
一度止まって、腕を組み、また歩き出す。その繰り返し。
ひたすら歩んでいると誰も見てない場所で、運悪く、チンピラのような人にぶつかってしまう。
「おいごりゃ! どこみているんだ! われ!」
「す、すみません。俺が悪かったです」
チンピラは目をギラギラさせながら、感情を出している。
廿月は軽くパニックになっていた。体の震えも止まらない。
「あ? てめえが悪くなかったら、誰が悪いんだよ! しゃあねぇな! 幻想奇譚!」
悪そうな人は幻想鼠を発動した。彼も能力者のようだ。
黒い塊からリーゼントヘアーのキャラを出したチンピラ。
見た目はヤンキー漫画のキャラ。いかつい文字の入った紫の上着に、腰パン。
目を合わせるだけでも、相手を殴りそうな性格。目を合わせるだけで威圧する顔面をしている。
「おいおいおいおいおい! こいつがお前をどついた男か。弱っちぃそうだな」
相手のキャラの言葉はドスが効いていた。
その発言しても、廿月自身はびくともせず冷静になっている。
(……この人も能力者だったのか。だったら、エレンを出すか?)
彼はこの頃から能力者で、いざ攻撃されたら、即発動できるのだ。
だが、廿月は迷っていた。能力を持っているとはいえ、ぶつかってきた自分が悪い。
だったら、面倒ごとは起こさず、やられっぱなしで解決した方が良いじゃないかと考えている。
彼は優しかった。あとは自分が能力者だとバレたら、相手が驚くと思って発動するのをやめている。
覚悟は決める廿月。自分の責任だし、おとなしく殴られようと決断した。
「何やっているんだ!」
すると、廿月達の鼓膜から、女性のような声が聞こえる。
チンピラは声にする方角へ向く。誰か気になって仕方ない。
「なんだ?」
「喧嘩をふっかけるな! この男性がかわいそうだろ!」
現れたのは一ノ瀬悠輝。髪は金に染まって、毛先が青い。
どこか豊満ながらもスタイルも良い。この女の人が呼び止めたのだ。
彼女は非常に露出している格好をしていた。胸元、お腹、足。まるで男をおびき寄せるようなファッションだ。
「るっせーぞ。小娘! まてよ。こいつ異様に露出しているな。おい! 姉ちゃんお茶しようぜ。やましいことはしない」
悪そうな男性は切り替えが早いのか、速攻でナンパする。頭の中はピンク色で染まっているだろう。
まるで弱いウサギのような色欲を出すチンピラ。
悠輝は目を鋭く尖らせながら、口を動かす。
「そうか? オレちゃん。アイドル志望だから体を傷つけることはやめてほしいな」
「ほう、なおさら気に入った。アイドル志望なら無理やりするのも悪くねぇ! 映奏奇譚!」
男性は能力の影響か、紫の上着を着ている。オッドアイになり、喧嘩する準備はできていた。
金髪の彼女は冷然としていた。この状況を打破する考えがあったからだ。
「そっちも能力者なら。幻想奇譚……ウィンピィいくぞ」
そう強く声に出し、発現させた悠輝。インクの塊は次第に海外アニメ調のオオカミに変貌する。
名前はウィンピィ。彼女の愛したアニメーションの主人公。
ウィンピィは素早く口を開ける。
「ユウキ、なんで喧嘩を売るのー!」
出てきて早速、彼女に突っ込んだ。彼は臆病なので、行動に理解ができなかったからだ。
「オレちゃんがナンパされているんだぞ。うれしい古参ファンだ。だが暴力的なのはオレちゃん許せなくてな。いやなら逃げても良いんだぜ」
彼女も淡々と説明する。悠輝にも事情があると知ったとたん、オオカミのキャラクターは体を震えながら返答。
「うー、逃げないよ。ボクも臆病だけどユウキを守りたい!」
「流石だな。ウィンピィ、それでこそオレちゃんを惚れさせたキャラクター。初恋の相手だからな」
「それは冗談きついよ。ユウキ」
ため息を漏らすウィンピィ。彼女は一笑している。
「ははは、じゃ。映奏奇譚……」
悠輝の首に毛皮のファーが巻かれる。目がオッドアイになった。
「早速だけど……オレちゃんの禁止事項ね」
相手の動きを封じ込めるように、最初は喉を手刀で素早く突いた。
その後、平手打ちで男性の腹部に強く攻撃する。
「ぐは!」
男は胃の中から液体を出す。それでも悠輝の攻撃は止まらなかった。打撃中心の攻撃だ。
「悪いけど、恋愛禁止なんだ。オレちゃんの古参ファンになりたいなら、マナー良くしてもらいたいな」
悠輝は追撃しながら、かっこつけてセリフを決めている。
自分自身のためなら、この辺で打撃をやめている。
だが、彼女からしてみれば、チンピラは銀髪の彼に何か危害を加えようとしていた。それをやめさせるためにも、お仕置きしている。
数分後。簡単に撃破し、その場で倒れているチンピラ。この場所に三人以外いないのか、悪い男性が一匹狼なのか誰も助けに来なさそうだ。
ウィンピィは悠輝に向かって、声を荒げながら話す。
「あー、やり過ぎだよ。ユウキ!」
「あ、やばい。相手が能力者だから、オレちゃんも能力出しちゃったよ。銀髪の人。悪いけど見なかったことにして、これはオレちゃんのモノじゃないから」
彼女はそう言い訳している。廿月はなんとも思っていなかった。
「……すみません。実は俺も能力者で……、幻想奇譚」
能力を解放する。一瞬で目に入れても痛くない、可愛いゾウさんが、彼女達の前に立つ。
「うわー、おねえちゃんとオオカミさんだ。こんにちは。ぼくのなまえはエレフン・パオンです」
エレフンはお辞儀をする。悠輝は心底驚いていた。冷や汗も若干かいている。
「……まさかオレちゃんと同じ能力者だったとは。一度に二人会えるなんて、驚きだぜ」
「はい……なのでこれは二人だけの秘密と言うことで」
「……ぷっ、ははは。なんだそれ、面白いなー。なんだか親友になれそうだ」
「親友。それは結構早いんじゃ」
「何か困ったことあったらオレちゃんに相談しろよな。電話番号教えて上げるよ」
「まってください。それはいくらなんでも早すぎますって」
「なんだ、女の子の電話番号は貴重だぜ? まぁいいか、ほかに困ったことないのか?」
「うーん。強いて言えば、今からいく場所ってどこかなと。知り合いから教えてもらったんですけど。霧山さんが経営しているところなんですが、何でも屋しかわからなくて」
「霧山……、もしかして、【何でも屋きりやー】のことか? そこはオレちゃんが仕事している場所なんだ。ちょうど良い、今から帰るから君も連れて行こう」
「あ、ありがとうございます。まさか働いている人だとは……」
「それはどこで知ったんだ?」
「はい、これは俺の師匠が教えてくれて。喜呑拳使いの村上さんという方で」
「あぁ、霧山さんが以前お世話になった人か。わかった。関係者なら喜んでいくしかないな」
「ところで名前はなんだ? オレちゃん、一ノ瀬悠輝というんだけど」
「明烏廿月です」
「アケガラスハツキか。よし、あだ名ははっきーだな。親友! よろしく」
「……よろしくお願いします」
「あ、オレちゃんのことなれなれしいと思っただろ? その通りなんだよな。まぁしばらくしたら、慣れるから気にするな」
「……はい」
銀髪の男性は悠輝について行く。場所を案内するように目的地まで進める二人。
歩きながら廿月は歓喜していた。つい口角が上がりそうだ。
(この人なれなれしいけど、なんだか優しそうな人だな……母性があって、安心する。自分に姉がいたらこんな感じなのかな?)
廿月は謎の安心感を抱く。まるで近所の優しいお姉さんのような。そういう気持ちを覚える。
悠輝といると心が落ち着いている。心臓の奥底から温かい感情があふれていた。
この人と一緒に働けると考えるだけで、嬉し涙がでてくる。
彼にとっては奇跡的な出会い。今でも廿月は覚えている。
――これが彼らの出会いの話。今も良好な関係性は続いている。
廿月が気がつくと、ハグをしながら、悠輝の目を見ていた。




