19話
「ほー、君たちは何でも屋で働いているんですね。でも、わざわざここへいかなくても」
「そうなんですよ。でもお金が足らなくて、仕事を探していたらここを見つけて」
「それは大変でしたね。だとしたら働かざるおえないです。働くって大事ですからね」
「働くのは大事です。ところでマイクさんが働く理由を聞いても良いですか?」
急に話題を変えてきた廿月。それに対して怪しんでいるマイクベアー。
「……なにか話をそらそうとしていそうですが、いいですよ。ぼくはやっぱり子ども達のために働いているんです」
「保育園ですからね」
「ただ、他の保育士と違って、ぼくは子どもを守りたいと思っているんですよ」
「子どもを守る? 一見普通のことのように思えますが……」
「……ここは赤ちゃんポストも兼ねていると園長さんから聞きましたか?」
「ええ、そうですけど」
「親の身勝手で子を産み、それを捨てる。それが許せないんですよ」
力強く握り拳を作るオーバーオールのクマ。本当にむかついているみたいだ。
廿月はうなずき、共感している。
「そうですね。僕も同じです」
「正直その親の命を刈り取りたいとも思っています。ですが、子どもには何も悪くないと思っておりまして、ぼくはその罪なき子どもを守りたいと決めています。そのために働いてますね。子ども達に、この世で生きていいんだと遠回しで伝えるために」
マイクベアーの答えに、悠輝は心打たれた。彼女は声に出す。
「へー、立派な理由ですね」
「そうですよね。一ノ瀬さん」
「なので、ぼくは子どものためなら、自分を犠牲にしてもいいと考えています。もちろん、別の保育士が曲がった考え方をしていても、その人を犠牲にしても良い。そういう立派な考え方です」
「……犠牲に」
マイクベアーの思考に違和感を覚える廿月。まるでシンギュラリティが起こった人工知能システムの機械のようだ。何か不気味さが現れていると肌で感じる。どこか狂っているような……そんな感じだ。
「これはあくまでも持論ですが、子どもを守れない人は、人の道からそれていると考えています。例えば幼い兄弟がいるとして、小さな弟を守れない兄など存在してはいけないんです。そんな兄は人ではない。それは姉妹でも同じ事です」
「人ではない……」
会話になにかが引っかかる廿月。マイクベアーは何かに気がついてのか、急に頭を九十度まで下げる。
「すみません。つい熱くなりまして。それではぼくは子ども達と遊んでます。ここに来た理由は特にないですからね」
そのまま、倉庫から去るクマのキャラクター。
悠輝は安心したのか、「ふー」を息を漏らす。
「なんだか曲がった思考のアニメキャラだったな。まぁ、オレちゃん。そういうキャラは面白いからいいけど」
「何か不気味さがありましたね」
「でもはっきーすごいな。とっさにバイト応募した理由の嘘をつけるなんて」
彼の背中にバンバンと叩く金髪の女性。
「正直に話したら、怪しまれるんじゃないかと思って」
「そうなんだよな。あの曲がった考え方をしていたし、変に怪しまれたら困るからね」
「うん……。そろそろ、エレン達を出すね。幻想奇譚」
彼は再び能力を出す。また、絵本のゾウさんが出現した。
「やったー、また、はつきおにいちゃんとてつだえるよー。これでもっとよいこになれるー」
「エレン。どんなことがあっても俺が守るからね」
「だいじょうぶ。ぼくヒーローだから、つよいよ。ぎゃくに、はつきおにいちゃんたちのことを、まもるからね」
「……ありがとうエレン」
「良い心がけだな。オレちゃんもはっきー達のことを守るからな。自分が犠牲になっても」
悠輝はそう約束する。本心から願っている言葉だった。
倉庫からグラウンドまで着いたマイクベアー。目には楽しく遊んでいる子どもの姿が映っている。彼の表情はにこやかだ。
「よかった。あのバイトさん達はシロだ。子どもについて悪いことを考えていない。だから正義側だ。悪側だったら、ぼくが命を刈り取っていたかも」
その笑顔は恐ろしく不気味だった。なにかをたくらんでいるような感じ。今にも誰かを襲いそうな笑顔だ。
「子どもの心を痛めつけるやつはどんな人であれ許さない。たとえ園長さんでも……」
マイクベアーは曲がった思考を持ちながら、子ども達のいるグラウンドへ足を運んだ。彼にとってかわいそうな子供達を近くで見たいからだ。
その後、しばらく倉庫掃除をしていた能力者達。順調であと五分ですべての仕事が終わりそうだ。
廿月はマイクベアーの発言を思い出していた。彼にとってなぜか引っかかる言葉だから。
「子どもを守れない人は存在してはいけない……。俺もそうなのかな……。弟守れなかったし」
銀髪の男性はあの事件を思い出す。ショッピングモールで弟を亡くした事件だ。
「小象……」
数分、作業をしていると、急に廿月は倒れて泣き出してしまった。
「う……」
「……! どうしたんだよはっきー!」
倒れ込んでいる親友に対して危惧している悠輝。彼の涙は止まらなかった。




