16話
数日後。廿月たちはバイト面接をあっさり合格し、予定しているバイト当日になった。
バイト先へ足を運ぶ廿月と悠輝。何でも屋から徒歩30分で行ける距離、少し遠い場所だ。
ひたすら歩き、ダラダラと汗をかいている。やっとシュペルノヴァという保育園へ辿り着く。
「ここか、シュペルノヴァという場所は。なかなか広いな」
あっけにとられていた悠輝、呆然としていた。
シュペルノヴァの施設はとても大きく、ゾウやキリンが何頭も住めそうな広さ。色は白く、正方形のような形をしていた。かべには子供達の書いたイラストが載っている。よく見ると歴史があるのか、全体に色あせているところも何ヵ所かあった。
二人は静かに建物を見ている。銀髪の彼に向けて話しかける悠輝。
「アイツが行っていた通りなら、ここに事件が……」
「たしか、俺達はここで黒い噂を確認することが目標だった……ですよね」
「らしいな、親友。掃除しながら様子を見る。それで証拠があれば」
すると、悠輝の携帯から着信が鳴る。彼女は荷物から急いで取り出そうとする。
「はっきー。ちょっと待ってて。もしもし」
そう廿月に伝え、誰かと話していた彼女。数分後、通話が終わる。
「はっきー。大変だ。別のところも合格したぞ」
「別の?」
廿月は悠輝の方を見て首をかしげた。彼が質問する前に金髪の女性が口を開ける。
「あぁ、バイト募集のついでに、アイドル事務所にも応募したんだけど。それが通ったんだ」
「?!!」
「多分、一週間後になるけど、屋内遊園地で集合みたいだ。最高だぜ」
内心喜ぶ廿月。だが彼は違和感を覚えていた。
「……なんでアイドル合格したのに、現地集合なんですか?」
「まぁ、そう言う事務所なんでしょう」
「……まさか、情報を知らずに応募したわけじゃないですよね」
廿月はジト目で質問する。半分疑っていた。
目を丸くして驚愕している悠輝。「いやいやいや」と声に出し、廿月の発言を否定する。
「……まーさか。そんなはずはないぜー」
「一ノ瀬さんが違うならそれでもいいんだけど。早速チャイム鳴らしますね」
保育園の前にあるチャイムを鳴らした廿月。「はい」としゃがれた声が彼らの鼓膜に響いた。
「すいません。僕たちは倉庫バイトできました明烏です。宝蓮さんはいらっしゃいますか?」
「はい、私が宝蓮です。バイトさんですね。少々お待ちを」
ガチャとインターホンとの接続が切れる。廿月達はしばらくまっていた。
「はっきー、ここのリモート面接して思ったんだけど」突如、悠輝は話し出す。
「宝蓮奏とかいて『ほうれんそう』というの珍しいよな」
「そうですね。まぁ俺みたいなものだし」
「確かに、廿月も珍しいな」
「俺はこの名前気に入っているんですけど……話すと長くなるからいいか」
「あっはっは! 話さないんだ。面白いなー、はっきー」
廿月達がしばらく話していると、門の奥から園長が現れた。
園長の見た目は白く長い髭を生えており、子供に受けそうなパスカル色の青い服を着ている。
「どうも、バイトさん達。働きに来てくれてありがとう」
園長は深くお辞儀をした。ここに来た二人も頭を下げ、同じ動作をする。
「お疲れ様です。ご苦労だったね」
「初めまして、僕達は倉庫掃除のバイトしに来たものです」
「君たちのことは大体把握しているよ。さぁさぁ、こちらへどうぞ」
廿月達を招くように園長は園内へ案内する。
園内はとても広く、大人が走っても満足するぐらいのグラウンドの大きさだった。子どもなら一日中走っても心を弾ませながら遊べるだろう。
廿月達の目には、子ども達が元気そうにはしゃいでいる姿が見える。
友達と話しながらジャングルジムで遊ぶ子。すべり台を順番待ちしている子。グラウンドで鬼ごっこしている子。いろんな子ども達がいた。
彼らは優しそうに見守っている。
銀髪の男は亡くなった弟のことを思い出す。少し心がしんどくなるが、必死に耐えた。
門から倉庫の場所まで十分ぐらいかかるみたいだ。
その間に彼らは雑談をしながら目的地まで歩いている。
「ここ広いですね……。アイドル会場として使っても問題なさそうなぐらいに」
彼女なりの冗談を吐き出す。園長は柔らかくほほえんでいた。
「ははは、面白いこと言いますね」
「ここの保育園は墨現市内で大きいところだからね。ワシが子供たちのために設立して今もやっているわけ」
「へー、いつぐらいからやってますか?」
「うーん。今年で七十年だね」
「七十年もやっていたんですか! はぁ、ずいぶんと歴史があるんですね」
「あぁ、あとは赤ちゃんポストに近いことをしていて」
「というと?」
「親のいない赤ちゃんや子供も育てているんですよ」
「それは関心ですね」
彼女は笑顔になりながら話す。すると、園長は深刻そうな表情でこう伝える。
「昔からアニメの子を産んで育てられない人が多くてね」
「アニメ……え? アニメの子供も育てるんですか?!」
「そうです。全く無責任な親だこと。推しの赤ちゃんが欲しくて楽しんだのに生まれたらすぐ捨てますから」
その話を聞いたとたん、嫌そうな顔をしている悠輝。かけがえのない命を侮辱しているからだ。
「なんて残酷だ。でもアニメキャラって魅力的ですからね」
悠輝は皮肉まじりに怒りを伝える。だが、宝蓮はそれに気づかず、淡々と口を動かす。
「だとしても、捨てるのはいささかどうだろうか? 私はよくないと思って、二次元と三次元の子供を育てているんだ」
「なんて素敵な人なんだろうか。オレちゃんも園長さんに学ばないと」
「あっはっは。私から学ぶことなんてないですよ。ただの良心ですから」
彼女は安心した。この人にはちゃんと倫理観があると感じたからだ。
二人の会話を声を出さずに聞いている廿月。
「リョウシン……」
『リョウシン』の言葉に反応する廿月。彼の表情が曇りだす。何か悪いことを思い出すようだ。




