15話
「別のフォルムとは……?」
恐る恐る聞いてみる廿月。炭祢はコップを置き、足を組む。
「たとえば、カートゥーンキャラが島国風アニメのようなキャラデザになっていると思えば良いな」
「つまり、美化されているって事ですか」
「早い話がそれだな。ただ美化されているわけじゃない。強化されているんだ」
「強化……?」
「そう、もしかしたら、そこの施設は何か企んでいるのではないかと思って、そのために調査してほしい」
「うーん。調査と言われても。私達は探偵じゃないですから」
霧山さんは、やんわり断る。無理もない、ただの何でも屋を経営しているだけの一般人だからだ。
「しょうがない。お金で解決するしかないか。依頼料は基本料金の六倍は払いますよ」
お金のジェスチャーをする炭祢。そのことで廿月は目が飛び出すほど仰天した。
「ろ、ろ、ろ、六倍?! やります! 自分達でよければ!」
返答した廿月に対し、非常に驚く悠輝。
「はっきー! オレちゃんも欲しいが、下品だぞ!」
金髪の彼女は強く突っ込んだ。
目玉から飛び出しそうなぐらい驚愕する廿月。
銀髪男のなさけない姿に、炭祢は笑いそうになる。
「あっはっは。なんだその顔。俺、その表情気に入った」
腹をかかえて依頼人は笑っていた。その姿はバカみたいだった。
「すみません。つい取り乱してしまい」
ペコリと謝る廿月。本当に申し訳ないと考えていた。
お腹を抱えている炭祢。彼は爆笑しながら廿月に伝えた。
「俺の仕事ちゃんとしているから、そのくらい出せるんだよ」
「……そうなんですね」
「まぁ、その代わりに忙しいんだけどな。時間を作れたから、依頼したわけ」
「はぁ……」
廿月は苦笑いをする。
「でも、基本料金の六倍か……。霧山さん、やってもいいんじゃないか?」
悠輝は悩んだ結果。依頼を受けるように霧山に話しかける。
「……うーん、なんだか怪しすぎて逆に受けたくないな」
霧山は悩んだ結果、断ろうと考えている。
「気持ちは分かるけど。お金は大事だぞ。それがないと事務所に送る履歴書さえ買えない」
「確かに、俺の好きな絵本も買えないな」
そう言うと廿月は言葉を返す。
炭祢自身、彼らの話を聞いていたのか、いきなり声をかけてきた。
「この年になって絵本を買うのか、ますます面白いな、君は」
かなり爆笑する炭祢。少しむかっ腹が立つ悠輝。彼女は腕を組みながら注意した。
「ちょっと、オレちゃんの親友の事を馬鹿にしすぎじゃないか?」
「だって、面白いですもの」
ケタケタと笑い続けている炭祢。
「あんまり調子のっていると、オレちゃんキレるぞ」
鋭い目つきで声を荒げる悠輝。廿月は「まぁまぁ」と肩を叩く。
「いいじゃないですか、一ノ瀬さん。面白いと言っているだけでも、嬉しいことですから」
廿月は金髪の女性をなだめる。その後、小声で話す銀髪の男性。
「それに、一ノ瀬さんだって絵凛ちゃんのことをからかっているじゃないですか」
「それは、えりりんが可愛いから、いじりたくて……」
「多分ですけど、彼は本気で俺のことを気に入っているんですよ」
「うーん、まぁ依頼料を渡す太い常連客として、来てもいいからな」
悠輝が感心していると、しびれを切らしたのか炭祢が話しかけきた。
「ん? 何話しているんですか、お二人さんは」
「いや、なんでもないさ。依頼だったな。オレちゃん達はなにすればいいんだ?」
「ははは、それはあなたたちがその保育園の倉庫掃除する前提で、そこの闇を暴ければ良いよ」
簡単そうに伝える炭祢、金髪の女性は半信半疑で耳を傾けていた。彼女は返答する。
「なるほど、そういうことか。でも、バイト募集しているか、わからないぞ」
「大丈夫。確認したら一日バイト募集していたし、なんなら人が少ないのか速攻で働けることも出来るぞ」
「……そうなんだ。それならいいんだけど」
どうも納得していない悠輝。都合が良すぎるからだ。それに対して廿月はうれしそうに口を開く。
「だったら、募集して、バイトとして行ってもよさそうですね」
ぽんと拳に手のひらを乗せる銀髪の男。その姿に爆笑する依頼主。
「何から何まで面白い人だ。……ということは、依頼を受けるってことだね。早速よろしく。これは前払い」
ドスンと厚さ二十ミリの封筒を机に置く。
「こ、こんなに……!」
「それじゃ」
炭祢は何でも屋から去っていく。
一瞬、無言の時間が生まれた。沈黙を破ったのは悠輝だ。
「なにかムカつく依頼人だな」
「一ノ瀬さんの気持ちもわかるけど、仕事は仕事だから」
「そうだよなはっきー、そう思うしかないよね。早速応募しますかー」
彼女は早速、ネットにアクセスして、募集を探す。
(お、アイドル募集あるじゃん。これも応募しよー)
「じゃあ俺も募集しますか」
廿月もやる気が上がったのか、そこの保育園の一日倉庫バイト募集記事を探す。
彼らは目的のバイトを見つけ、即応募した。このバイトはリモート面接をやっている。後日それをやるみたいだ。
「案外簡単だったな。はっきー」
「こんなに簡単でいいのでしょうか。ますます怪しい」
腕を組む廿月。心配でしょうがなかった。
銀髪の彼はずっと唸っている。
「怪しいけど、まぁ、目的はお金をもらうことではなく、調査だからな」
金髪の彼女はそういうと、調べ終えたのか携帯を置く。
「あ、そうだ」何かを思い出したかのように、彼に向けて声を出す。
「はっきー。聞いて聞いて。オレちゃんさ。新しい武器を持とうと思ったんだ」
「へー、どんなのですか?」
「待ってな」と悠輝は声に出して、奥でゴソゴソと何かを探していた。
探し終えて、廿月のいる場所まで戻る。
「これ、マイクなんだけど」
机の上にマイクを置く彼女。見た目は普通のマイクだ。とくに加工もしていない。
銀髪の彼はまじまじと見ている。
「マイク……見た目は違うけど、俺とおそろいだ」
「でしょでしょ? オレちゃんもアイドル志望なんだから、マイクを武器にしてもいいかなと思ってさ」
悠輝は目を輝かせながら、廿月の方を見ている。
銀髪の彼は「あー」と納得していた。彼女ならそうやると、理解できる行動だからだ。
「それもそうですね。俺だけマイクでも違和感ありますし、一旦出しますね。戎具奇譚」
彼も能力を取り出す。象の見た目をしたマイクが現れた。
「それだったらオレちゃんも戎具奇譚」
彼女も能力の武器を出す。剣が現れる。
剣をじっくりと観察している廿月。彼は問いかけた。
「少し気になっていたんですが、この剣の種類ってなんですか?」
「あ? これ? ロングソードという剣だ。ウェンピィはこれを使って悪い奴らを懲らしめていたんだ」
彼から見てもわかる、その剣はぱっと見て鋭く、肌に当たったら皮膚から赤い液体が流れそうだ。
「こんな危なそうな剣を?!」
「そうみえるか? 原作カートゥーンではおもちゃの剣に近いけどな。その割に結構切れるけど、まぁカートゥーンだし」
「そうなんですね」
廿月は腕を組み、ほうほうと声を漏らす。謎に納得感があったからだ。
カートゥーンなら鋭い剣でもおもちゃのように変化する。彼女にとって危険性はないみたい。
彼が納得していると、悠輝はあることに気がつく。銀髪の彼に向かって質問してみた。
「ところでこのマイクは原作に出ているのか?」
「一応出てくるけど、初期の絵本限定だね。中期の絵本からぜんぜん出てこなくなったんだ」
「意外だな。結構出てくると思っていたよ」
「実はこのマイクに秘密があって……う~」
持っているマイクが変形し、ハンマーになった。耳が大きくなった象の見た目をしており、攻撃したら相手がペチャンコになりそうだ。
「あれ? これマイクだけじゃなく、ハンマーもなるんだな」
「そうそう、メインはマイクで戦おうとしているけど、やばいと思ったらこのハンマーをサブとして使おうかなと」
「あったまいいなー。はっきー、これって原作でもあったか?」
「ありますよ。初期限定ですけど」
「マイク自体、初期登場だからな」
親指と人差し指をアゴに乗せる悠輝。彼女は廿月の能力に関心があった。
「そういえば、一ノ瀬さん。少し聞きたいことがあったのですが」
「なんだはっきー? 言ってみろ」
「俺たちの能力の件ですが、買い物しているときは能力を隠さなくてもいいと言ったのに、えりちゃん達には隠した方がいいと言ったんです?」
金髪女性はふたたびアゴに手を置き、唸る。しばらく唸っていると、彼女は口を動かす。
「あのときは人混みでいっぱいいたから、能力を出しても気づかれないと思っていたんだよ。アニメキャラも結構いたし」
「……その理由は納得いかないですよ」
「うーん……まぁいいじゃないか、はっきー。さて、オレちゃんはスーパー行こうかな。ウェンピィ行くか? 幻想奇譚」
彼女は能力を発動させる。具現化し、耳にピアスしているオオカミはビクビクしながら怖がっている。
「うーう、いくけど。今日もミルクガム買ってくれる?」
カートゥーンキャラはおびえながら金髪女性にお願いした。
表情を柔らかくして返答する悠輝。
「あぁ、少しぐらいな。はっきーも欲しいものあれば買ってくるけど」
「え? 別にそんなのは」
「それじゃ言ってくるよ。また」
金髪女性は駆け足気味に何でも屋の入り口から出た。
「……なんか逃げられた気がする」
廿月は愕然としていた。首を下げて呆れている。
「それにしても面接日が明後日……妙に早いな」
彼自身、その保育園のことを怪しんでいる。何か裏がありそうな予感もしていた。




