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5.異部交流


 新入部員の挨拶も早々に練習に入った。さすがは強豪校だ。




と、感心していた時期が俺にもありました。




「悪い、うちの主将が」

「本当にね。ごめん、迷惑かけるよ」


 西川伊月、朝比奈杜和と名乗った2人はそれぞれ疲労や呆れを顔ににじませて、申し訳なさそうに頭を下げる。2人は俺と同じ高等部1年で、西川がD組、朝比奈がA組だそうだ。俺たち1年はギャーギャー騒ぐ先輩方をどうすることもできず、立ちつくすほかなかった。


 しかし2年の山垣やまがきさんは、呆れて先輩を眺めていた朝比奈を連れて部員に指示を出し始める。もう先輩の馬鹿さ加減には慣れたということらしい。行動が早い。都築さんの説教が続く横で各自練習に入り、俺たちもそれに倣った。なぜ朝比奈を連れていったのかはわからないが、大方、冷静で主将より役に立ちそうだと思ったからだろう。


「おまえ強いな! 面白れぇ!」

「さすがに、本職には負けるけどね」


 朝比奈は佐伯が認める強さを持っていた。さすがに佐伯にはバカスカ打ち込まれているが、何とかついていけている。本人が言うにはどんなスポーツもこなしてしまう幼馴染に練習を付き合わされ、いつのまにかできるようになっていたという。クッソうらやましい。


 朝比奈は細かなコントロールもスピードも上手い。器用なんだな。ここの2年の一部に勝るくらいには。しかしやはり強豪なので朝比奈が勝てる人間は少なかったが、それでも彼が強いことがよく分かった。


「おまっ おまえがっ おかしいんだよ!」


 冗談じゃない。素人にそんなにホイホイ負けてたまるかってんだ。俺はよく冷静だとか落ち着いているだとか言われる側だが、今回ばかりはぶれないわけにはいかなかった。つまるところ俺は通常以外では平常心でいられない性質なのだ。......それが本来、普通と呼ばれるものじゃなかったっけ? 朝比奈たちといると感覚が狂うな。やはり桐ノ谷学園は面白い才能が集まるところのようだ。進学できて本当に良かった。


「いや、そんなこと言われても」


無表情ながら困惑している様子の彼に試合を申し込む。絶対に敗けられない。俺の目に炎が宿った。


「やれやれー! 朝比奈をぶっ飛ばせー!」


ラケットをメガホンに見立てて佐伯たちが囃す。


 小さく息を吸って、右足を軽く引く。俺のサーブのルーティンだ。余裕なのか焦っているのか判断のつかない表情で構える朝比奈のコートへ打ち込む。ネットの向こう側の、ラインギリギリへ。


「ッ!」


 間一髪で朝比奈のラケットがシャトルを拾う。いきなりの攻めた攻撃に驚いたらしい。悪いな。俺はガンガン行こうぜタイプなんだ。そのまま高く上がった羽根は大きな山を描いて俺のコートへ入る。落ちどころをちゃんと見なければラケットのどこに当たるかわかったもんじゃない。佐伯なんかは感覚でわかるらしいが、俺は堅実だから、よく目を凝らす。コンタクトがズレないことを祈るよ。


「オラッ!」


 思いっきり腕をスイングして、朝比奈側へ叩きつける。腕を振るのは何もハンド部やバレー部の特権ではない。俺たちラケット競技だって立派な攻撃手段として用いるのだ。ネット越しに朝比奈が小さく目を見張るのが見えた。今日はそれで満足だ。


「やるなぁ! 桜庭!」

「すっげー」


 感心している佐伯たち外野の声援で、俺の気分はさらに良くなる。なんと数名の先輩方も見てくれていた。チラッとオーディエンスを見て、朝比奈のラケットを握る力が強くなる。


「これは負けてられないね」


彼は負けず嫌いなのかもしれない。



***


 試合が終わって、軽く息を乱す俺は、マネージャーの広瀬さんからスクイズボトルを受け取ってドリンクを流し込んだ。いい試合だった。俺が狙ったところを即座に反応した朝比奈がカバーする。当然、逆もあった。だが、素人のくせに上手いのだ。敵視していたはずなのに、思わず握手を求めてしまった。


「すげぇな、朝比奈」


 眼の色を変えた彼はさっきまでの動きとは明らかに違っていた。ラインギリギリだろうがなんだろうが落ちてないなら勝敗は決まっていないと言わんばかりに、どこまでも追いかけてこちら側へ打ち返してくる。さすが強豪にいるだけはある。勝利に貪欲だった。広瀬さんが渡そうとしたスクイズボトルを断って、Tシャツで汗を拭く朝比奈。バレー部で鍛え上げられているからか、俺よりは幾分か楽そうだった。バレー部の練習はハードだと、中学時代の友達が言っていたのを覚えている。


「桜庭のほうこそ」


 佐伯や西川も寄ってきてワイワイと感想を言い合う。まるで4人ともバドミントン部に入っているみたいで、むずがゆかった。


「あ、朝比奈君だよね。これよかったら使って」


 頬を染めた北沢が上目遣いで朝比奈にタオルを差し出す。彼女の身長は150センチ程度。対して朝比奈は1年のくせに180はあるだろう高身長。近づいたら首が折れそうだ。よくそんなに近づけるな。


「ああ、ありがとう。でも大丈夫。そろそろ戻るから、自分のを使うよ」


 北沢、あえなく撃沈。うまくのみ込めていないらしい。マヌケにも口をぽかんと開けて俺たちを見上げる。西川が肩を震わせて、笑いを堪えている。まあそのつもりなのだろうが残念ながら口がかなりにやけており、鼻が膨らんでいるから周囲にはバレバレ。おまけに朝比奈におかしなやつと思われて叩かれる始末。かわいそうに。


 あとから西川に聞いたことだが、朝比奈はかなりモテるほうらしい。本人にそんな自覚は一切ないが、女子からアプローチを受けまくっているとか。滅べ、朝比奈。確かに顔は整っているし、さりげなく得点係に回ったりするなど気が利く。スポーツをしているところなんてかっこよくて、惚れたくなるのもわかる。だがしかし、許せない。

 

 というのは冗談だ。俺は特に女子にモテたいとか、そんなことは思ってない。が、佐伯は違うらしい。


「お、俺、北沢ちゃん、ケッコー好きなのに」


 朝比奈を涙目で見つめる。昨日出会ったばかりだが、コイツのことはなんとなくわかってきたと思う。単純なやつ、というのが俺の見解だが、おそらく強豪のマネージャーという肩書の効果で彼女に好意を持っているだけだ。つまりは勘違い。俺は『ドンマイ』と肩をたたくだけにとどめておいた。朝比奈も同じようなことをしていたから、他人の恋愛ごとはわかるらしい。朝比奈に関してはまだよくわからない。


 いつのまにかハンド部とバレー部から副主将が到着していたようで、主将連中は首根っこをつかまれていた。都築さんに頭を下げて両部の幹部は体育館の扉をくぐる。


「副主将来てくれたし、もう戻るよ」

「じゃーなー!」


 その様子を疲れた目で見つめていた西川と、相も変わらず真顔を貫き通した朝比奈は、先輩に続いて嵐のように去っていった。







桜庭「おまえは本当に許さん、朝比奈」

朝比奈「いやそんなこと言われてもさ、ね?」

小倉「俺も許せねぇ。途中から登場したくせに俺よりも出番があるなんて」

佐伯「北沢ちゃん......」

西川「(笑)」

朝比奈「収拾がつかない」


苦労しますね、朝比奈さん。


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