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4.後輩  視点:都築


「冴島中出身、桜庭悠然です。実績は特にありません」


 俺はこの1年の発言を疑問に思った。コイツの試合を観たことがあったから。


 去年のいつだったか忘れてしまったが、体育館の修理で部活が休みになったとき、近所で中学バドミントンの試合をやっていると聞いて足を運んだ先にいたのだ。ダブルスだった。

 考えてプレーする、頭脳型の選手。相手の視線や動線を見て、シャトルを巧みに相手コートの嫌な位置に打ち込み、敵選手を操る姿を見た。また相方にもよく気を配りフォローしていた。敵に回すのは嫌だと思った選手の一人だった。


 優勝は無理でも、それなりの順位にはこぎつけていた。関東地区でのし上がるのは難しかっただろう。それでもその名を噂される程度にはちゃんと強いのだ。しかし桜庭はその結果を見せることなく、能力不足だと言う。謙遜しているのか、はたまた目標が高すぎるのか。後者であればずいぶんな完璧主義者だ。


 俺は冷めた目でぼーっとしている桜庭が少し気になった。けれどもそれよりも彼の隣に立つに目を奪われてしまった。


「次」

「福神中出身、佐伯徹! デス! 大会優勝経験がある! あ、いや、アリマス!」


 佐伯徹だ。中学3年の最後の試合で俺はこいつとあたって負けた。強い選手だ。それほどの強豪でもない桐ノ谷に来るなんて思ってなかった。もっと強いところへ行くものと。


 2,3年も佐伯がわかるのだろう。目に見えて落胆する者や、表情を輝かす者、それぞれだ。


 見学に来た1年17名中、俺が気になったのは桜庭と佐伯の2人だった。よく名を聞いた者もいたが、俺は2人の選手に釘付けだった。


桜庭の目を見た。また冷めた様子なら面白くないと思いながら。


 ところが、今度は違った。


 激しく燃えていた。火事場の炎のように。先程までは見えなかったその闘志。俺は陳腐な表現だが、魂が震え上がる心地がした。俄然興味がわいた。さっきまで佐伯に奪われていたそれが桜庭ただ一人に集中する。


有望な1年だ。必ずや強いプレーヤーに育ててみせる。


 入部希望の1年たちの挨拶が終わると、主将である柳田が背中のほうにいる少女のほうを向きながら話し出した。


「あと1年でマネ希望が、」

北沢きたさわもも、1年です! よろしくお願いします!」


 彼女は柳田の声にかぶせるように声を張り上げ、一歩前に踏み出した。女子の甲高い声は耳が痛む。同じタイミングで顔をしかめた桜庭も同意見なのだろう。

そして北沢は俺の足を踏んだ。


踏んだ。


「......ちょっといい?」


 多分、俺の顔はかなり怖かったと思う。普段散々おびえている後輩や同輩が顔を青くさせたのが見えた。


だって仕方がないだろう。



彼女は()()()俺の足を踏んだのだから。



気づかないとでも思ったか? 



 北沢は俺が気づいたことに気づいて震えているが、こちらは腹が立っている。誰が好きこのんで足を踏まれたいと思うのか。そういうのは柳田にやってやれ。悦ぶから。

 調子に乗った3年には外周・筋トレ5セットの罰を追加しておいた。ちなみにこれは1セットがかなりハードな代物だ。マネージャーの笠井の顔が引きつっているが気にしない。



***


「都築さん。足、大丈夫でしたか?」


マネージャーの広瀬がスポドリを運びながら、俺に問いかけてくる。


「大丈夫。ていうかアレ、注意しといてくれる? 面倒だから」

「はい」


 彼女はよく見ている。笠井が厳しいとみられがちだが―――実際そうだが―――広瀬もなかなか手厳しい。先程の北沢のことも見ていたのだろう。俺の言いたいことが伝わったらしい。ちなみに3年連中への罰を彼女だけはニコニコ笑ってノートに書きこんでいた。彼女とは気が合うと思う。


「サンキュ」


スポドリをすべて受け取って途中で見かけた柳田に押し付け、俺も練習に戻る。


「俺の扱い、ひどくない? ツヅキノコ」

「黙れ、ヤナギダイコン」



 その矢先、体育館の入り口の扉が”バアァァァァァン!!”とでかい音を立てて開かれた。白い煙のエフェクトがあるように見えるが幻覚だろう。そこには腕組みをしてふんぞり返る同輩が2人と、申し訳なさそうにしている後輩と先輩を呆れた目で見つめる後輩が立っていた。


「オウオウオウオーウ バド部さんよぉ。お宅の体育館をちょいと貸してやくれんかね?」

「何言ってるんだい? 元々うちが借りる予定だったんだよ? お失せ申し上げろ、オットセイが」


 彼らはお調子者のハンドボール部主将・高村たかむらと、少々丁寧口調がぶれているバレーボール部主将・園田そのだだ。そのオットセイは動物園の檻にでもぶち込んでおけ。そして似非坊ちゃん、おまえはタウンハウスにでも帰れ。


「ほーう ウチにどの面さげて頼みに来てんだ、ハンド部さんにバレー部さんよ?」


 この桐ノ谷学園において、運動部の強豪といえば代表格はバレー部である。次いでハンド部、バドミントン部。卓球部なんかもそうだ。卓球部は個別の卓球場という練習場所があるが、バレー部とハンド部は同じ体育館を使っており、まれにバド部も一緒にしようさててもらうことがある。そのためか、ただ主将同士の気が合うだけか何なのか知らないが、まれにこうして訪ねてきては、柳田が悪ノリするのだ。たまに柳田も両部の活動場所に行くことがある。うっとうしい。


「ごめん兄ちゃん。先輩たち、言うこと聞いてくれなかった」

「すみません。あのばk、あh、......あのfool、止められませんでした」


 ションと落ち込んでいる男子生徒、西川にしかわ伊月いつきは俺の従弟だ。本来止める側の3年が後輩に頭を下げられるなんぞ、情けないことこの上ない。


 そして伊月に続いて頭を下げたのはバレー部に所属している1年の朝比奈あさひな杜和とわだ。彼は後輩に優しい人間で、バレー部内でひそかに行われているという好きな先輩ランキングでは2位と圧倒的な差をつけて1位に君臨する人間だが、先輩には辛辣だった。これは今1年の彼が中等部のバレー部にいたころの話だが、来年後輩ができた際には同じ現象が見られるだろう。

 

 なぜ俺が2つ下の彼のことについて知っているかというと、彼が中等部1年だったときからの付き合いだからだ。俺はこの学校に中等部から入ったのだが、お互いにちょっかいの掛け合いをする柳田バカ園田(fool)などのせいで苦労人枠に収まっていた朝比奈と話が合ったのだ。言い直したほうがひどいことになってるぞ。かわいそうだろ。もっとやれ。


「柳田、高村、園田。そこに座れ」


そろそろ練習の邪魔になるだろうから、声をかけに行く。


「ハァ~? 都築君じゃあないっすか。お宅の主将を説得してくれません?」

「そうだね。僕的にも、ぜひともお願いしたいかな」

「え、ちょっとなんでだよ! 明らかにおまえらのほうが悪いだろ!?」

「座れ」

「「「ウッス」」」


ようやく黙った3人を横一列に並べ、正座させる。足が痛い? 知るか。


「高村、園田。練習は? 県体近いんだぞ?」

「いや、その、ほら、休息必要じゃん?」

「一応、僕らも休憩時間に来ているよ?」

「そうだろうよ。じゃなきゃ、朝比奈が許すはずがねぇ」

「ウグ」


 自主練の鬼である朝比奈が通常の部活を放り出すわけがないのだ。本当に強豪校の主将なのか疑いたくなる奴らである。


「そもそもバレー部に貸す予定なんぞなかったし、おまえらハンド部に貸し出すスペースならなおさらねーんだよ」

「おいおい都築~。そう固いこと言うなよ~」

「俺らは歓迎だぜ~? な、近森ちかもり!」

「おうよ、ダーウィン!」


 幾人かの同輩であるバドミントン部員がやってくる。頭の痛い案件が増えた。近森もダーウィンこと鈴木すずきもふざけるのが大好きなのだ。収拾がつかなくなってきた。


「だろう!? お前らもそう思うよなぁ!!」


 そう口にしたのは誰だったか。俺は北沢にわざと足を踏まれたのもあってふつふつと怒りがこみあげてきた。額には青筋が立っているに違いない。


「おい、テメーら、覚悟はできてんだろうな?」




 その後、各部の副主将が迎えに来るまでしばらく俺の説教が続いた。後輩たちはウチの2年や朝比奈に指示を出され、みんなで仲良くバドミントンの試合をしていた。ちなみにシングルスで。


伊月は苦手らしい。今度の休みに特訓だな。そこの朝比奈に負けた2年、居残り確定な。





遅くなり、大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

だって進まないんだもん......


都築「やかましいわ」

小倉「厳しいコメントー」

桜庭「出番......」

佐伯「おまえには言われたくないだろ」

朝比奈「どうも」

桜庭「テメェ朝比奈ァ」

西川「煽るなよ朝比奈」

桜庭「俺とキャラ被りしてんじゃねーよ」

西川「そこぉ!?」

朝比奈「かぶせてないよ。先にキャラができたのは俺だし」

桜庭「......」

小倉「桜庭撃沈ー!!」

佐伯「勝者、朝比奈ー!」

朝比奈「うぇーい」

都築「まあ、かぶせようにもかぶれないだろ」

西川「どういうこと?」

都築「根っからの真面目君の桜庭と」

西川「うん」

都築「苦労人の皮をかぶった愉快犯・朝比奈」

小倉「あー。しかも朝比奈は無表情がデフォというオプション付き」

西川「......勝てないな」

佐伯「ドンマイ、桜庭」

桜庭「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

朝比奈「ハハ」




※西川=@、朝比奈=*です。気づかれましたか?


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