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Page 4

「リク」

「…なに?」

「おはよ」

「…おはよう」

「おっきいこえじゃなくても、ちゃんときこえるわ。リクのうたも、おっきいこえじゃなくても、きれいだわ。どうしてもおっきくしなきゃいけないなら、マイクのボリュームあげればいーのよ」

「……うん」


リクの、おろおろした声がきこえた。

「アクア…泣かないで」

「ないてなにがわるいのっ!?くやしいときには、ないてもいいっておにいちゃんがいってたもんっ!」


…あれ?(くや)しいのはリクだと思うのに、どうしてアクアが泣いてるのよ。


「にんげんはね!くやしさをバネにがんばるいきものなのよっ!」

「……うん。頑張(がんば)ってみる」


リクが、ふんわり笑ってくれたから、アクアはまたほっぺたあかくなっちゃったかもしれない。


「アクアが悔しくなくなるように、僕もマイクのボリューム上げて頑張(がんば)って歌ってみるよ」

「……リクがうたってくれたら、なくのやめてあげるわ」


リクは、歌ってくれた。

アクアの、めそめそが終わるまで。


それから、アクアはやっぱり元気な子で、いっぱい外遊びをしていたけど、時々里玖を捕まえて、園舎の裏にひっぱってった。


「コンサートタイムよ」

「うん」


そうして、歌ってもらった。

何度も、何度も。

ブルーベルは、その時間が、里玖の歌が、とても好きだった。


でも、桜の花が咲く頃に、コンサートタイムは終わりになった。

里玖は年長さんだから、卒園していなくなって、ピカピカの1年生になるんだもの。


アクアは、さよならも言えなかったし、おめでとうも言えなかった。

お兄ちゃんは悲しい時には泣いていいんだよっていったけど、アクアがよくないのよ。


せっかく美少女なのに、里玖の最後の思い出のアクアが、泣いてる変顔のだなんて許せないわ。

里玖がいつか、幼稚園にいた生意気な小さな女の子なんて、忘れてしまうのだとしても。






「アクア、ファンレターだよ」

「お兄ちゃんってば、使いっ走り?そういうのは事務所に任せてあるのに」


16歳になったアクアは、世界中の大会で金メダルを取って、オリンピックの表彰台(ひょうしょうだい)にも上って《マーメイド・アクアマリン》なんてちょっと素敵な異名で報道されるようになっていた。


「ふふ、このファンレターは特別だから、僕が直接アクアに持って来たかったんだよ。…それと、僕からもおめでとうのプレゼントだよ」

お兄ちゃんが、いたずらっぽく笑ってCDをくれた。


「デビューアルバム。ロックミュージシャンじゃなくて、シンガーソングライターだけどね」

「え…?」


お兄ちゃんは、ひらっと片手を振ると部屋を出て行ってしまった。

特別って何だろう?って思って手紙を見たら、差出人は、


Riku(リク) Yamatumi(ヤマツミ)......」


アルバムのミュージシャンの名前も"Riku Yamatumi"で、アルバムの名前は


Aquamarine(アクアマリン)......


CDの説明文は全部英語表記だけど、もう世界の人魚姫マーメイド・アクアマリンなんだから英語くらい読めて当たり前よ。

里玖は、日本じゃなくて、アメリカで音楽活動をしていたんだわ。



 

 マーメイド・アクアマリンへ


 君はもう覚えていないと思うけれど、君に励ましてもらったから、僕は夢を(あきら)めずに歌手になる事ができました。


 夢は小さい頃と少し変わって、シンガーソングライターになりました。今は、自分で作った曲を自分の声で歌えることが嬉しくて、君にありがとうと伝えたいと思いました。


 もし、僕を覚えていたら、僕の初めてのコンサートでも、第1号のお客さんになってくれますか?


 それから、小さかった頃には言えなかったことがあります。僕は、君のことが――――






「ばか…。覚えてるわよ。何度、名前を練習したと思ってるの?」


山積里玖って、漢字で書けるくらい練習したのよ。

里玖、どうしてくれるの。アクアは人魚姫で美少女なのに、ぽろぽろ涙が止まらないわ。


「……行ってあげる。コンサートでもアクアが観客第1号よ」


アクアは、最前列の席のコンサートチケットを見て、泣きながら、笑った。

だって、そのファンレターは、初恋のひとからの、初めてのラブレターだったんだもの。




End.



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