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Page 3

「……なれるんじゃないの?ボーカル」

「え…?」

「え、じゃないでしょ。わるくないわよ。あんたのうた」


アクア素直(すなお)じゃないわ。

こういう時は、悪くない、じゃなくて、すてきな声ねって言ってあげればいいのよ。この子が、アクアの夢をすてきだねって言ってくれたみたいに。


「…ありがとう。でもね、先生に言われた事があるんだ。もっと、元気良く歌いましょうねって…」

「なにそれ?」

「僕は、一所懸命(いっしょけんめい)歌ってるんだけど…声が小さいから、もっと出しましょうねって」


そういえば、何かっていうと、元気よくとか、大きな声でって言われるんだったわ。アクア、もともと元気だから、気にしたことなかったけど。


「そーね。おべんとうのときの、いただきますも、みんなさけんじゃってるわよね。アーメンまででっかいわよね。バカなおとこのこが、ラーメンっていっててせんせいにおこられてるわよね」

「あはは、そうだね」

「でも、ラーメンはどーでもいーわ。アクアは、あんたのこえ、……けっこう、すきよ」

「…………」

「す、すきなのは、あんたのことじゃないからね!!あんたのこえ!こえよっ!うたよっ!!」


アクアは、ラーメンよりもでっかく叫んじゃって、すぐに後悔した。

好きなのは、あんたじゃないって、言っちゃったこと…

でも、その子は、笑ってくれた。


「ありがとう。初めて()めてもらったよ」

「ふぅん…そう。あんたのゆめ、きっとかなうわよ。アクアは、あんたのかんきゃくだい1ごうなのよ。ちゃんとしんじてよね!」

「……うん」


そこで、鐘が鳴った。

もう、午前中のお遊びタイムはおしまいっていうお知らせ。これからお弁当。


「あ…時間だね。じゃあね」

「ちょっと!」


むんずと未来のボーカルの襟首(えりくび)をつかまえた。


「なまえくらい、おしえなさいよっ!」

「え…?知ってると思ってた」

「なんでよ。あんた、デビューまえなのに、もうゆうめいじんなの?」

「名札に書いてあるから……」

「…………………………………」


アクア、元気だからよく叫ぶのよ。


「アクアはね!ねんしょうさんなのよっ!ひらがなは、しょうがっこうでならうのよ───っ!!」

「ご、ごめんね。僕は、山積(やまつみ)里玖(りく)

「読めるみたいだけど、アクアマリンよ。アクアでいいわ。おぼえておきなさいっ!」


……負けた悪役みたいなこと言っちゃったわ。


その日、ブルーベルはおうちに帰って、お兄ちゃんに頼んでみた。

「やまつみりく、ってかいてみて?」


おにいちゃんは、にっこにこに笑った。


「ボーイフレンド?」

「ち、ちちちちがうわよっ!ゆりぐみのボーカルよっ!!」

「ボーカル?」

「アクアが、かんきゃくだい1ごうになってあげただけよ」

「ファン第1号になってあげたら?」

「プロデビューしたらかんがえてあげるわっ!!」


お兄ちゃんは、紙にきれいなひらがなで書いてくれた。


 やまつみ りく


アクアは、何度もそのお名前を書いてみた。


「むぅ~…みみずだわ」


でも、「アクアマリン」っていう名前だって、何回も練習したら、みみずじゃなくなったんだもの。「やまつみりく」も頑張ればそうなるわ。


次の日、また何か歌ってもらおうって思ってたら、ちょうどリクの園バスが来て、登園してきたところだった。先生が、バスを降りてきた子たちに声をかける。


「おはよう、りく君」

「…おはようございます」

「もっと元気を出そうね!」

「…………」


何も答えないリク。

反抗してるんじゃないわ。リクは、元気にとか、大きな声でって言われると傷付いて、フリーズしてしまうんだわ。


「ちょっとっ!せんせいっ!!!」


アクアは、選手宣誓(せんしゅせんせい)みたいな声で言ってやった。


「なんで、げんきいっぱいなこえじゃないとダメなのっ!?ホントにげんきじゃなかったら、リクはおうちのベッドでねてるわよっ!!アクアのところからだって、リクのこえはちゃんときこえたわ!せんせいは、えんちょうせんせいにあいさつするとき、せんしゅせんせいみたいなでっかいこえでいってるのっ?ちがうでしょ!!リクのあいさつは、おとなっぽくて、ただしいのよっ!!」


先生も、リクも、びっくりした顔してたけど、アクアは(かま)わずにリクの手首を引っ(つか)んで、ぐいぐい園舎(えんしゃ)の裏に引っ張ってった。

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