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99:閉ざされてたまるものか

「が、ああ……ッ!?」


「リードくんッ!? いったい、何がどうして?」


「俺の事より……三人とも、ホントに無事? データに異常無いけど……それにエキドナ、母艦のみんなは?」


「アタシらの事より自分の事を心配しなっての! 全員無事で、アンタの見てるバイタルにバグは出てないって!」


「急に道が閉じ始めて……でもエキドナと避難したオルトロスのクルーたちは、ドラゴンの広げたバリアの中にいたからどうにか無事みたい」


 息苦しいまでの重圧。反射的に拡大させたバリアにかかるそれに、俺は歯を食いしばる気持ちで、クリス達からの返事などから現状を確認する。

 今も正面に見えている青い出口。見えた瞬間から多少狭まったものの、これを認識したところを狙い済ましたかのように起きた世界を繋ぐ道の収束。

 俺達イクスブリード・ドラゴンが広げたバリアが支えになった事で、エキドナは今大急ぎで僚艦を脱出してきた仲間たちの収容を続けている。それは何より。だが――


「……で、このいきなりな異常は、やっぱりアイツの……」


「正確には我々の、だな」


 予測していた聞き覚えのある声。

 これに俺は特に重圧のかかってくる方角へ意識を。するとそこには光の濃淡で作られた顔が。


「スクリーマーッ!」


「レイダークロウを陽動にして、アンタが仕掛ける二段構えってか!?」


「どっちもしぶとい……しつこすぎるくらいに!」


 終わったと思ったところを狙っての執拗な襲撃。これに対する憤りを束ねて、三人娘は俺の中に力を満たす。これがバリアで強引に支えているゲートをこじ開け、同時に歪みと障壁の間にいるのだろう四幹部の残留物を押し潰す。


「しつこいと言われるのは否定は出来んな。お前たちの感想だからな。だが、レイダークロウを陽動に……と、いうのは見当違いだぞ?」


「そうよ。ワタシだってみすみす囮に使われてやるだけだなんてまっぴらだわよ」


「な!? バカなッ!?」


 スクリーマーの声に続いて別方向からバリアに響いてきた声に、俺たちは揃ってギョッとさせられた。そこにはたしかに、メカオネエの顔を作った光が瞬いていたのだから。


「やったはずだって言いたいんだろ? そりゃあそうだろ。俺たちだってそうなるだろうさ」


「だがなぁ。俺たちが何だったか忘れたのか?」


「我々は全て我輩デモドリフトの分身。四つの心全てがデモドリフトそのものなのだ!」


 レッドプール、クラッシュゲイト。先の二つとはまた別方向に懐かしい顔が浮かんだかと思いきや、四つの顔すべてが同時に同じ顔、鋼鉄暴君のそれに変わる。

 ああ、そうだったな。だからやたらにしぶとくてしつこいんだったよ。


「忘れてはいないさ!」


「デモドリフトに戻ってた段階で、今さら出てくるとは思ってなかったからな!」


「ましてや自分の本体を出し抜こうとしてたヤツなんてよぉ!」


 三人の啖呵に合わせて俺は機体に満ちたパワーを放出。今度こそと拡げにかかった俺たちのフィールドはまるで膨らまない。それどころか逆に収縮。それに伴って押し返されたエネルギーが機体を焼く。


「がッ!? そんな……ッ!?」


「リードくんッ!?」


「フハハハッ! 不思議か? 四つの心を束ねて我輩を凌いだ貴様らの力が通じなくなっていることが?」


「何もおかしくは無いわよ? アンタたちが四つの心を重ねてるって言うなら……」


「オレたちは五つの心を一つにしてるんだからよ!」


 軋み、赤い警告灯の明滅するコックピットの中にデモドリフトらの嘲笑交じりのタネ明かしが。

 しかし奴ら、自慢げに語っているがその理屈はおかしいだろ!?


「元々一つだったのを分離しただけのクセしてなにを言ってやがるッ!?」


 俺たち全員を代表したルーナの叫びに合わせ、俺は失ったランスカノンの片割れをエネルギー体で構築。ダブルカノンをぶっぱなす!

 これまでの戦いで消耗したエネルギー。その残るすべてを賭した、活路を切り開く願いを込めた全身全霊。四匹の竜の絡まりあった姿を思わせる超砲撃は、時空の歪みを揺さぶるものの弾き飛ばされる。


「ハッ! ざまぁねえなッ!?」


「そう言うな。威力が恐ろしい程であるのは間違いない。が、そんな力業で俺たちのコントロールするゲートを押し拡げよう……などというのは浅はかであるが、な」


 笑うなら笑え。俺たちがこじ開けようってのはもっと別。なんなら壁には跳ね返ってくれて良いんだから。


「……って、これまさかッ!」


「出口を狙ってたのかッ!?」


 察したようだがもう遅い。ゲートを狭める速度を早めようが!


「お前らだってそっちに行きたいんだもんなッ!!」


 ヤツらにとっても再起の足掛かりへの道。それを完全に閉ざす事は無いだろう。ヤツらが潜るために残すはずの粒子一粒ほどの綻びさえあればそこから!

 果たして狙いどおり。俺たちの放ったエネルギーは閉ざされつつあったゲートに再びの大口を開けさせる。


「エキドナ、いっけぇええええッ!!」


 同時に筒状の道にほとばしるエネルギーの嵐の中、エキドナがスラスターを全開。もげる部品に構わず、ギリギリのサイズで待っている門へ滑り込みに。

 そんなすべてを振り切る勢いでもって母艦が横を抜けていく一方、俺たちは動くことも出来なくなっていた。

 さっきの一撃が正真正銘の全力で、心に応じて無限に燃えてきた四つの動力炉も、まるで決定的なところが焼ききれてしまったかのように冷えていってしまっている。

 そうしてコックピットの中も生命維持が最優先に、明かりを絞って暗くなって。


「まさに精魂尽き果てたってところかね」


「すまないみんな……」


「謝らないでくれリードくん。ここで全力を尽くした事に後悔は無い」


「それに諦めるにはまだ早いぞ」


 この状況にあってなお光を宿したファルたちの言葉に続いて、ドラゴンの機体にグンと力がかかる。

 それはエキドナから伸びたワイヤーだ。イクスブリード・ドラゴンにからまったそれが、俺たちを引きずるようにして故郷への道を進ませてくれている。


「ここで君たちを見捨ててなどいけるか!」


「そんな潔さはゴミ箱にでも捨てといて!」


「……マスター。大丈夫です! 共に、必ず……!」


 ワイヤーを通して励ましてくれるエキドナのみんな。これに力づけられて、俺たちの口元には自然と笑みが。

 そうして部品を散らしながらゲートを潜り抜けたエキドナ引っ張られるままに、俺たちも遅れて故郷へ飛び出して――は、行けなかった。


「逃がさん」


 ゲートを半ば潜ったその瞬間、ドラゴンに掴み引き留める手が。

 大小様々。粒子を集めて作ったこの手は一対二対と数を増し、俺たちを時空の狭間に引きずり戻そうと。当然それは先に離脱したエキドナを含めての話だ。

 引っかけ、削れ、いくつものパーツを失っていたエキドナは、それで推進力を落としていたのが逆に良かったのか、これで船体が引きちぎられるような事は無かった。だが、落ちた推力では振り切るどころか引きずり込まれてしまれる流れだ。

 これでもなお母艦の側では、俺たちに引っかけたワイヤーをコントロールし、俺たちと共に帰ろうとしてくれている。

 しかしその間にもゲートは狭まり続け、もう俺に触れるか触れないかというところにまで。


「クッ!! なんとか、なんとか出来ないかッ!?」


「こんなところでぇッ!」


「死んでたまるかってんだよッ!!」


 だが俺たちの誰も生きる事を諦めてはいない。動かない機体を動かそうと、懸命に足を、翼を振り回してもがいている。

 そんな俺たちを、ついに閉じゆくゲートが食いつく。

 ドラゴンの機体が圧潰するこの瞬間。俺はその中で折り畳んでいた機体をチェンジ。伸ばした腕で三つのコックピットを掴んで前に。

 そうして砕けるボディをぶち破って、俺は青い星の、故郷の成層圏に身を投げ出す。


「ここで、本当にさようならだ!」


 そしてイクスブリードのボディを粉砕して閉じたゲートから零れ出た粒子へ、ブリードガンのマグナムショットをくれてやった。

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