96:捕まえたぞ!
「お前だけが新たなステージに至ったなどと!」
「暴君らしい傲慢さだが!」
「こちとらお前の予想なんざちょくちょく踏み越えてきてんだ!」
「この程度で驚くだなんていまさらだなデモドリフト!!」
三角錐を描いてエネルギーラインで結ばれた俺たちは、循環するエネルギーを増幅させていく。巡り巡るその都度に膨張するこのエネルギーラインが粒子と化したデモドリフトを閉じ込める牢獄となっているって寸法だ。
「ふん! 分解してやっても繋がりが生かせるとはな。たしかに意表を突かれたのは認める。だがなッ!」
網か格子を破ろうというのか、凄む思念と共に圧力が放たれる。
真空であってもしかし、俺たちのエネルギーで閉じられ、ヤツのパワーで満たされたこの空間は嵐のようにかき回される。だが――
「バカな!? 押し流しただけだと?」
力任せに破ろうとしたエネルギーの膨張は、たしかに三角錐の頂点にある俺たちを吹き飛ばした。吹き飛ばして、距離を開けただけだ。俺たちの結びつきが作る封印、名づけてエネルギープリズンには微塵のほころびも無い。文字通り、粒子となった暴君の一粒が抜け出せるような隙間も出来ていない。
「何故だ? たしかに強固な縛りではある。だがまったくに、秒も、ミリも揺るがないほどのものでは……」
「ハンッ! こっちを認めるとか言っときながら、ソイツは見下してた本心のお漏らしってもんじゃないの?」
「無限に広がる、広げられる網が、ただ押し流しただけで破れるワケが無いだろう?」
「なん……だと……?」
そう。暴力的に押し広げれば破れるというのは、それがどれだけ強固であっても限界があるからだ。俺たちの作るこの檻はブリードとイクスビークルの、そしてそれを操る俺たちの心の結びつきがある限り、距離が意味を持たない。これではどれだけの力で押し広げようがただの徒労。柳に風ってヤツだ。
デモドリフトとしては合体できないように遠く引き離し、有利な位置関係を作ったつもりなんだろう。だが結局は逆に遠ざけた事で広々とした牢獄に捕らえられる形になったってワケだ。
「……フン。無限に、か……そんなモノがあるはずが無いだろう。仮に囲いそのものはそうであったとして、その要である貴様らがバラバラであることに代わりは無いッ!!」
すぐに気を立て直したデモドリフトは、三角錐の結界の頂点に位置する俺たちそれぞれの前に。
粒子を収束させた四つのデモドリフト。その刃がイクスブリード形態のみんなと俺に、同時に剣を叩きつけに。
「見た目だけはね」
俺か、三人娘の誰かか、あるいは全員か。冷ややかなまでに落ち着いた呟きに続いて俺は腕を動かす。
「……なんだと?」
粒子を束ねてのヴァンキッシュ四つ。これは残らず俺たちの前で静止する。
受け止めたのは俺たちそれぞれの纏うエネルギーから飛び出した光……いや、クリスのランドの場合はランスカノンのクリスタルだったが。とにかく俺たちは全員が、実体かどうかは別にしてランスカノンを盾に真っ向から防いで見せたんだ。
これに続いて俺たちの纏うエネルギーはそのシルエットをハッキリとさせる。
それはもちろんドラゴン。俺たち全員が合体して生み出す当方最大戦力のシルエットだ。
「ハッハハッ! ご機嫌じゃあないかッ!!」
ルーナが景気のいい笑い声を上げ、シー以外のと破損しての不足分をエネルギー体で補ったドラゴンが腕を横一閃。受け止めていた剣とその持ち主のシルエットを吹き飛ばす。
ほぼ同時にクリスとファル、そして俺もまた正面のデモドリフトシルエットを振り払って駆け出す。
動き回る俺たちを頂点に、狭まり広がってを繰り返す三角錐の結界。しかし柔軟でありながら強度の揺るがないそれは、閉じ込めた粒子を逃すことなくかき回していく。
「お、おのれッ!!」
シルエットを煎餅のように押し潰されながらも、エネルギーを爆発的に広げて俺たちに大開きの機動を取らせてくる。
だがそこから続く斬撃には俺とクリスは槍と砲撃を合わせ、ファルとルーナはカウンターに得意の蹴りとエネルギーストームを。
それでもほぼ実体の無いデモドリフトは粒子の中からエネルギーを放射してくる。が、ドラゴンのいずれも苦し紛れにばらまいたパワーでよろめくような事はない!
「な、何故だッ!? バラバラに分離していて、何故こんなッ!? 我輩とて四つに分かれていては本来の力は……」
「答えは単純」
「私たちは分離などしていない」
ファルのスカイドラゴン、そしてクリスのランドドラゴンが結界の内側を焼く砲撃と共にデモドリフトの疑問への答えを。
彼女らの言う通り。俺たちも誤解していたが、物理的な合体解除はもう俺たちにとって本質的な断絶じゃあない。だから機体そのものが分離していようがドラゴンには変わりなく、実質デモドリフトは俺たちの内側に封じ込められた形になっているって寸法だ。
「なんということだ……そんなことがあり得るのか?」
「あり得るあり得ないとか知らないね! ただ目の前で起きてる現象を認めた方が楽なのと違う?」
困惑するデモドリフトに軽口を返しながら、ルーナの駆るシードラゴンは、エネルギー体を細長くうねらせて加速。引っ張るエネルギーストームで結界の内部をかき回す。
「がああッ!? く……な、なるほど、実際に囲まれてしまっている以上はそれが現実か……」
「それじゃあ観念したらどうだろうか? 現状を認められる潔さがあるならさ」
強がるようにルーナの言い分を噛み締めるデモドリフトの顔面を俺はランスカノンで吹き飛ばす。しかし粒子の寄せ集めであるデモドリフトの顔はすぐさまにその形を再構築させる。
「いいや、その必要は無いだろう。取り囲まれているのは確かだが、抜け穴を作ればいいだけなのだからな」
勝利宣言のつもりにも聞こえるこのひと言。これに続いてデモドリフトの粒子がエネルギーを放出。そうして俺たちの囲いを押し広げて作った空間にリングを作る。
そうして産み出された輪っかの内側には時空の歪み、ゲートが作り出される。
「我輩の粒子を逃さぬように囲んだのは偶然あってとはいえ見事! だが一粒でも別世界に逃れたのなら、現地の資源を食らって復活してくれる!」
デモドリフトはこの捨て台詞を置いてゲートへ。しかし歪みの中へ滑りこんだ粒子の群れはしかし、ただ輪潜りしたように逆側から抜け出てくる。
「なん、だとッ!? バカな! たしかにゲートはあの世界に、コイツらの母星に繋いでいたはずッ!?」
「いや、だから言ったよね? この結界の内側は私たちの、イクスブリード・ドラゴンの中みたいなもんなんだって」
「外へ抜けられるようにしてあるはずが無いだろうに」
この即席ゲートが奥の手だったのだろう。デモドリフトはがく然と乱れたリズムで明滅する。そこへ俺たちは全辺が等しい間隔で三角錐を描く。そしてまったくの同じスピードで中心点へ。
「こんな……こんなことがッ!? ゲートが、数多の世界を統べてきたこの力が封じられるだなどと……ッ!?」
「たしかにすげえし、とんでもない力だったよ」
「だがどれほどの力だったとしても、永久に破られないなんて事はあり得ないさ」
今度こそ逃がすものか。
これまで、四幹部の時からさんざんにしてやられた逃走手段を封じたこのチャンスに仕留める。その思いでひとつになった心に導かれるままに、俺たちは四つの機体をその内側の空間を押し潰しながら再びひとつに束ねるのであった。




