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95:まだ早すぎる

「ガ、ガグガ……ガゴ……」


 ノイズ混じりのうめき声が重なる虚空。

 砕けた結晶と、ボロボロと崩れてゆく機械が漂うその空間の中心に俺たちはいた。


「はは……やった! とったぞッ! 大将首ッ!!」


「ああ……まさか、もしやと思っていたけれども、大正解だった」


「剣の側がデモドリフトをデモドリフトたらしめている核だったとはね」


 メットのバイザーを開いて喝采をあげるルーナに、酷使した翼の付け根を労るファル。そしてこの結果を手放さないようにと右手を握りしめるクリスエスポワール。

 彼女の動きに倣ってイクスブリード・ドラゴンもまた腕を持ち上げるが、その肘から先はもげてしまっている。

 ヴァンキッシュを打ち砕いた際の激突。そこに注ぎ込んだパワーと、相手の反発。このぶつかり合いの果てに打ち込んだランスカノンの側も砕けてしまっていたのだった。


「すまない、リードくん。無茶をした……痛むんじゃ無いか?」


「なに言ってるんだ。この結果の引き換えとしたら安いものじゃないか。それに、俺のやらかした無茶に比べたら、さ」


 モニターに映った失われた右腕、そして赤く点滅したドラゴンのコンディション表示。それを見て申し訳無さそうにするクリスに、俺は軽く返す。

 実際、デモドリフトを討ち取ったリスクとしてはメカの腕一本なんて軽い軽い。修理は出来る程度だし、後引く感じの犠牲でもない。


「そうそう。それこそブリードが削れるようなのとか、合体不能バグ起こすようなダメージに構わないようなのとは全然違うんだからよぉー」


「おおっと、こりゃ自分の脛の傷に触ってしまったか?」


 俺のやらかしを掘り起こしてのフォローに俺も乗っかる形で軽口を。

 ここまでやってようやく、無くなったドラゴンの右腕を見るクリスの目元が緩む。


「そう……だね。大したことはない……大したことではない、か」


「そうそう! そんなことより帰り支度しようぜ? これでもう平和になったんだからさぁ」


「ユーレカに凱旋……そうなったら祝勝会、ご馳走もたんまり……ってコトッ!?」


「ちょいとフライング気味だが、ソイツはテンションあがっちまうよな!?」


「ファルもリードくんも、それはちょいと現金過ぎやしないか? まあしかし、後始末が待ってると思えば、その前にガッツリと景気づけを挟んでおいた方がいいのかな」


 そう。それでいい。今のと、これまでの戦いで出た犠牲の数々。復興を含めてのこれから。正直手放しに浮かれていられるような状況じゃあない。だけれども今だけでも生き残れた事、勝ち取れたこれからを思ってはしゃいだって良いだろ。


「……たしかに、見事な力を示した貴様らにはその権利がある」


 幾重にも折り重なって響いた低い声。異様なまでにくっきりと機体からだに届いたこの声に身構えた瞬間、俺は引き裂かれた。


「うああああああッ!?」


 激痛に絞り出された三つの声。注がれ浴びせられるエネルギーに振り回されながら離されていくこれらを感じながら、俺もまた剥き出しにされたブリードの機体をエネルギーに貫かれる。


「よくも我輩の剣を砕いてくれた。その返礼として貴様らには絶望をくれてやろう」


「デモドリフト……だと? ど、どこだ? どこにいるッ!!」


 拠り所の無い宇宙に溺れながら、俺は声の主を探すが、それらしいモノはなにも見えない。だと言うのに、俺を貫くエネルギーは四方八方から襲いかかってる。

 倒したはず、要を砕いて姿を消したはず。それでも声と攻めの手が健在だというのはいったい?

 この謎を、仕掛けを見破らなくては。そう頭を巡らせようとするも、絶え間無く体を駆けめぐるダメージに集中が乱されてしまう。

 そうしてヂガヂカと視界が乱される中、俺の目から出る光を受けてか、細かく光を跳ね返すモノがちらつき始める。

 この光の粒の形作った角張った人型のシルエットは――!


「バカな! どうやって……グッ!?」


「あまり騒ぐな。ここまで追い詰めた貴様らに免じて種明かしくらいはしてやるとも」


 おとなしくしていろとばかりに突き入れられた、密度をました光の指。

 内外から機体を焼き続けるこれに、俺の口は溶接されてしまったように、うめき声しか出ない。そんな俺の姿に、光の粒で出来た鋼鉄暴君は満足げにうなずいて見せる。


「種明かしとは言ったが、なにも複雑怪奇な事はない。惑星デモドリフトそのものであり、星からすれば小さな鉄巨人でもある我輩は、より細やかな断片にまで意識を宿したと言うだけの事よ」


「そ、んな……じゃあ俺たちは、みすみす……」


「いや。そう気を落とす事はない。追い詰められたと言っただろう。我輩とて貴様らにヴァンキッシュを砕かれた時には決定的な柱を崩されたとゾッとしたぞ。貴様らの槍はたしかに我が中枢に届いたのだ。もっとも、それをきっかけにこうしてヴァンキッシュの破片、部品の一つ一つにまで意識を宿して目覚められたのだから、貴様らがこの事態を招いた事には相違ないか」


 指に刺さった俺を弄びながらのその言葉に、俺は何も返す言葉が無かった。過程はどうあれ、結局は俺たちとの戦いがデモドリフトを新たなステージへ押し上げてしまった事は事実なのだから。

 だから、俺が……俺たちが仕留めないと!


「ほう? これでまだ動けるか?」


 俺を貫いている拳を叩きつけようとするも、光のシルエットは散って空を切ってしまう。ならばと、腹を刺されたままで銃を抜いて光の塊にエネルギーの弾丸を。しかし細かな粒子の集まりとなっているデモドリフトには通じない。


「気が済むまで抵抗するといい。我輩は我輩でやることがある。機械が管理する整然とした理想郷を広めるという目的がな」


 俺に背中からもう一本エネルギーの杭を打ち込んで、デモドリフトはそのシルエットをさらりと崩す。


「おおそうだ。この状態ならば、より多くの世界を我が手に収めに行けるだろう。それこそ粒子の一つ一つが足掛かりになるようにな。怪我の功名と言うべきか、まさに貴様らのおかげだな」


 デモドリフトはこのままゲートを開いて、自分勝手な理想郷とやらを多くの押しつけに行くつもりなのか。絶望を与えてやろうと俺に企みを明かしてくる。

 そんなことをさせてたまるか。

 この気持ちは崩れず、たしかに俺の内にある。だがいたぶられ、刺し貫かれた機体からは血のようにエネルギーが漏れてしまって力が入らない。


「……行かせるものか!」


「……うん! 真っ先にやられるのは多分私たちの星!」


「そんなのメチャ許せんってもんだぜ!」


 だが俺から溢れたエネルギーを通して、三人娘の……クリス、ファル、ルーナの声がハッキリと伝わってくる。

 ああそうだ。俺たちは機体こそバラバラに分解されてしまっているけれども、繋がりはたしかに。それこそドラゴンでコックピットを一ヶ所に固めている時と同じように。


「なんだい、分離してんのはボディだけだって?」


「そうか……たしかにこの繋がり! 伝わってくるみんなのパワー!」


「これならば! まだ何かが出来るッ!!」


 絶望には程遠い。

 現状を正しく見つめ直した仲間たちの声に、俺の心にもより強い力が流れ込んでくる。いや、流れてきているのに気づいたと言うべきか。機体は別れてしまっていても俺は、俺たちは一人になったワケじゃあない。ドラゴンであるそのままなんだ!


「なんだ? 破損しているのに構わずに変形を? そんなことをしたところで……いや待て、何故半獣の形態になる? ブリードを取り込み合体してはじめて出来る変化のはず、ヤツはたしかにまだあの場に……!?」


 この俺たちの変化に理解不能と戸惑う暴君の気配を受け止めながら、俺たちは繋がった四つの心を燃え上がらせ続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大ピンチ、しかしブリードたちも負けていないようで…… 一体何が起きているんだ!?
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