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94:譲れぬ意思を貫くのなら

 不意打ちに目を焼きにきた閃光。

 これに思わず守りの姿勢を取ったのが功を奏した。

 眩さに身構えた俺の機体をバリアごしにでも焙る熱量が叩きつけられたのだから。

 

「……何がッ?! 母艦、エキドナはッ!?」


 この怒涛に押し寄せた破壊エネルギーの津波を凌いですぐ、警告灯で赤く染まったクリスは同じ攻撃に晒されたかもしれない味方の安否を確かめに。

 それはレーダーに映った健在を示す三隻の反応と、火花を上げながらも虚空に浮かぶ船体の望遠映像を回すことで解決する。が、正面の事はそうはいかない。


「小……惑星デモドリフトぉ?」


 ルーナが訝しげに眉間を歪めて呼んだ球体は、まさしく小型化した惑星デモドリフトだった。観測できたデータによれば、直径はほぼエキドナ一隻程度にまで小さなモノになっているが。俺たちに向けられたクレーター状の大型砲台も、間違いなくあの機械惑星が備えていたモノだ。

 問題は、それが巨大化したデモドリフトのいた空間にあって、その大きさを増し続けていることだ。だってそうだろう? そうなってるってことはつまり――


「デモドリフトが変形して星をやってる……ってことッ!?」


「いやまさかそんな、いくら星も王様も揃って名前がデモドリフトだからって……」


「その通りだ。まあここまで見せれば自ずとたどり着くか」


 認めたくないと軽口まじりにファルの推測に返すルーナを遮って、惑星の表面が蠢く。そうして現れたのはデモドリフトの顔だった。


「この機械の星そのものが我輩であり、我輩こそが惑星デモドリフトなのだ。すなわち我が意思は……星の意思ッ!!」


 機械惑星すべてを支配しているとの宣言に続き、巨大な頭になったデモドリフトの目が眩く光る。

 これに俺たちは砲撃。さらに伸ばしたアンカーのエネルギーストーム、加えて本体のバリアの三つでもって受け流す。


「まるで、自分のすべてが自然の流れの中にあるかのようなッ!!」


「その通りだ。異界の原生生物よ。星が求めたから我輩はこの手を数多の世界に伸ばした。星が飢え、望むがままに我は動いた」


「そんな身勝手がッ!!」


 直撃を避けてなおドラゴンの機体を軋ませる攻撃に、しかしクリスは怯むこと無く反撃を。これは先に機械惑星に撃ったのとは異なり、容易く巨大顔面に穴を開ける。が、こじ開けた風穴はすぐに飛び込んだマシンに埋められてしまう。

 だが当然こんな事で諦める俺たちじゃぁない。ヤツが目から放つ破壊光をギャロップと羽ばたきで引き連れながら、二射三射とランスカノンを放ち続ける。

 ヤツの目がこっちに釘付けにできている分、母艦への攻撃は手薄になるってね。


「ふむ。身勝手か……その通りだ。我輩が我輩の理想郷を目指す身勝手さがこの力を、数多の世界に足がけするほどの力を産み出すに至ったのだ。それが自然と言うものだろうが」


「ならッ!! それに抗うのもまた自然だということだなッ!!」


「無論だ。自身と属する群衆の生存のために力を尽くす。それが自然のプログラムだ……そのために我輩由来の技術を取り込み、ここまで力をつけた貴様らには敬意を表する。が、その敬意故の協定を蹴り、生存闘争の継続を願ったのは貴様たちだ」


「責任転嫁をッ!? 敬意だなどと……本気で持っているのならつけるはずの無い条件を出しておいてッ!!」


「それも我輩側からの出来る限りの譲歩をした上でのもの。貴様ら側の事情だけを押し通すのなら、それこそお互い様の身勝手というものだろう」


「どこまでもッ!!」


 ああ言えばこう言うデモドリフトのデカ頭との言葉と砲撃の応酬が続く。

 しかし妙だ。

 ヤツの事だから集合体で本体の惑星デモドリフトと、分身体とでの挟み撃ちくらいはやってくるはず。


「まずいクリス! エキドナがッ!」


 なんて思っていたら案の定。艦隊側にデモドリフトの分身体が回り込んでる。


「引き付けてたつもりもお互い様ってかッ!?」


 ルーナの叫びにクリスが舌打ちを添えて狙撃。暗闇を切り裂き進む閃光はしかし、割り込んできたデモドリフト分身体が盾となる事で止められてしまう。

 どうすれば!? このままではユーレカの仲間達が危ない。


「チームイクスブリード、こちらに構うことはない! キミ達はキミ達の標的を、敵の本体を叩くんだッ!!」


 だがそんな俺たちの迷いを断ち切ろうと、ライエ副長官からの通信が。

 警告灯の赤が輝くブリッジを背景に背負った彼女はただ信じて任せろと、俺たちを後押ししてくれる。


「しかし……!」


「迷ってる間は無いぜ! アタシらで仕留めるしかないってッ!!」


「でもルーナ!?」


「……しかし、しかし………そうするしかないかッ!!」


 たしかに悩ましい。が、ルーナの言う事ももっともだ。デモドリフトの本体を討つ。そうして決着をつけることが、結局仲間達全員の安全になる。

 クリスの決意の踏み込みを受けて、俺の足が虚空にできた力場を蹴る。

 この手ごたえに、全員が瞬時に正面の巨大顔面に意識を集中。必殺の意思と力を前に、前に!


「まったく、凄まじい事だ。そしてひどく惜しい」


 余裕を崩さないデモドリフトの声。これに続いて巨大な球体となっているヤツの機体が開く。

 瞬時に人型となった暴君が片腕を一閃。これを急旋回にかわした俺たちの後をエネルギーが薙ぎ払う。

 真空の闇を切り裂き揺るがすこの力は、ユーレカの艦隊の側を過り、このためにオルトロス級の一隻が半ばからへし折られてしまう。


「あ、ああッ!?」


 エキドナを庇い、巻き込まぬように堪えた。だがそのために火を噴いて崩れる船を後ろ目に仲間達が声を。


「おのれぇええッ!!」


 しかし犠牲を悼む悲痛な嘆きを吐いた口から、すぐさまそれを引き起こした大敵への怒りが溢れる。

 俺を含め仇討ちに心を燃やした俺たちはデモドリフトの放つビームをすれすれにかわし、突き出される拳をコースに中枢へと駆け上がる。


「お前が星そのものだとして、サイズまでその通りにしたのは失敗だったなッ!!」


「それはどうかな?」


 ギャロップに駆ける四脚から接触回線に伝わってくる声。それに続いて落ちてくる平手を俺たちはスルリと避けつつ、後ろ手に砲撃を土産に置いておく。

 爆発して飛ぶ暴君の指に構わずに、俺たちは砲撃をばらまきながら暴君の肩に足を。

 中枢の一つだろう頭部。それを正面に捉えた俺たちだが、必殺の射線を遮るものが。


「細かいのを生やしてッ!」


 煩わしげな叫びと共にランスカノンが貫いたのはデモドリフトだ。が、俺たちが足場としている装甲から飛び出した数十メートル級の。

 待っていましたとばかりに俺たちを取り囲みに現れる分身体たち。

 分身体はおろか、土台である集合体が抉れるのもお構い無しの集中砲火に、俺はフルパワーで防御を。

 全力の守りを貫いて機体を内外から抉るエネルギー。これに四人で揃って歯を食い縛る。


「見えたぜ! クリスッ!!」


「ああッ!! これを、この瞬間を待っていたッ!!」


 そうして耐え凌いだ俺たちの前に現れた光明へ、俺たちは全力で突っ込んだ。

 辺りの空間を抉り、繭状に俺たちを閉じ込めるエネルギーの渦。これを力ずくに突き破った俺たちがランスチャージを打ち込んだのはクリスタルの柱。暴君の愛刀であるヴァンキッシュだ。

 結晶の槍とぶつかり合ったクリスタルブレードは、さすがは鋼鉄暴君の武器と言うべきか、びくともせずに受け止めてみせた。

 だが俺たちの四つの心が、一つに重ねて燃え上がり生み出すエネルギーは、不可侵不滅にも思える結晶質の刃にひび割れを。


「グッ!? これは……ッ!?」


 慌てたような思念が四方八方から巻き起こるがもう遅い。俺たちが重ねた闘志は亀裂をこじ開け、決定的な楔をねじ込んだ!

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