93:受け入れられるわけがない
「うぅわぁあああああッ!!」
重なった三人の声が俺の中に響き、それに後押しされるかのように、星に撃ち込んだランスカノンからエネルギーが放たれる。
このチャンスに出来るだけをと注ぎ込んでの砲撃は突き入れた一点から亀裂を広め、こじ開けた隙間から漏れる輝きを強める。そうしてほどなく俺たちは膨張に耐えかねて破裂した足場に吹き飛ばされてしまう。
しかしこれにクリスたち三人は動じる事無くそれぞれに手足と翼を振り回してイクスブリード・ドラゴンの姿勢をコントロール。惑星の爆発をリアクティブアーマーの類いと見なした上で、ダブルのランスカノンをメインにした火器を惑星デモドリフトへ放つ!
隕石の激突どころではない規模の爆炎にさらにくべられたエネルギー。
ランスカノンがその色を変えてしまうまでエネルギーを放出した俺は、冷却とリチャージに集中することに。
「ど、どうよ? 装甲をぶち抜いての全力つぎ込みだ。さすがに効いたっしょ?」
「槍が刺さったのだから、無傷であることはあり得ないだろう」
「四分の一……は言い過ぎか。八分の一……いや、そこまでいかないでも……」
赤い警告灯に照らされたコックピットの中で、ルーナ、クリス、ファルは口々に先の攻撃の手応えに期待の声を。
そうして見守られる中で爆発の光がおさまって明かされた成果は思いもよらぬものだった。
「なんと!?」
「会心の一撃ってヤツッ!?」
「これは、決まったのか……?」
驚きと喜びの声が出るのも当然だろう。巨大な爆発の収まった惑星デモドリフトは、その四分の一を消失していたのだから。
さらに俺たちの攻撃によって欠けた断面からは小規模の爆発がいくつも起こり、それに押し広げられるかのようにして、球体の残りが大口を開けて崩壊しているのだ。まさに期待を越えた大戦果だと言うしかない。
「我が本拠を……そしてお前にとっても母なる星であるものを良くもまあ躊躇無しに……」
だがふと聞こえたこの声に三人が三人とも反射的に反応して見せたのは、さすがの残心と言ったところ。
振り向きざまのランスカノンにぶつかったのは案の定クリスタルブレード。鋼鉄暴君の剣、ヴァンキッシュだ。
「そんなことだろうと思ったよ。それにあいにくと、俺にとっては、故郷である以上に災厄の根元なんでね」
「現住生物と交わりきった貴様ならそう言うか」
俺たちに防がれた剣を握ったデモドリフトは、その目を不気味に瞬かせるやさらに押し込みを。これにランスカノンが削られるのを嫌った俺たちはその勢いに乗る形で自分たちから間合いを開く。
合わせて牽制の砲撃を放つ俺たち。その四足の下半身を抱えるモノが。その正体はやはりデモドリフトだ。これを後ろ蹴りに蹴飛ばすのと同時に両脇から翼を押さえられてしまう。こちらの二体もやはりデモドリフト。これを両翼のマイクロスラスターの噴射で吹き飛ばそうとするも、さらに重ねてデモドリフトがタックルを。そのまま鋼鉄暴君はずんずんと絶え間なく数を増やして、中央に納めた俺たちを押し潰しにくる。
「なんてぇ数……ッ!?」
「どうやってこんな数を……ッ!?」
「だがどれだけ用意されていようとも、負けるワケにはッ!!」
軋む機体の中にあって、しかしクリスの闘志に揺らぎは無い。彼女の檄に尻を打たれた形になった俺たちもまたケンタウロス娘を追いかけて闘志を燃やす!
四つの心、そしてエネルギー炉の燃焼を受けて広がったバリアフィールドが周囲の圧力を吹き飛ばした。
「エキドナ……艦隊はッ!?」
「……健在、だけどデモドリフトは向こうにもッ!!」
仲間たちの安否を問う声に、ファルの目と俺の望遠カメラが捉えた状況を。これに間髪入れずにクリスは踏み込み、正面を塞ぎにくるのにランスチャージを。
最短距離一直線に駆けつけようとする俺たちの正面には、次々とデモドリフトの機体が割り込んで連なり重なる。
「邪魔をするなぁああッ!!」
結晶質の馬上槍に穿たれながら、俺の目を塞ぎ抉ろうと指を立てて来るデモドリフトら。これを次々と前に突き出したクローで千切り投げてこじ開ける。
そうして開いた道の先には、エキドナに向けて剣を振りかぶった鋼鉄暴君が。
「やらせるかあぁあああ!!」
声を重ねた俺たちの渾身の一撃が、驚きに目を瞬かせた暴君の頭を突き破る。
クローと前足とで蹴飛ばし、虚空をきりもみに飛んでいく鋼の巨体。
それに俺たちはフルパワーの砲撃を浴びせてやる。
周辺の空間に集まってきていたデモドリフト軍団もろともに消し飛んだのと、味方艦隊の健在を交互に見やり、俺たちは揃って安堵の息を。
「へンッ……ちょいとパワーは持ってかれるが、やろうと思えばやれるもんじゃあないか……!」
「私たちを取り囲んでも余裕のある数が出てきた時はどうなる事かと思ったけどね」
「それだけ、私たちの絆が深まっているということじゃないか。素晴らしい」
「まーたむずがゆくてこっ恥ずかしい言い方するじゃあない。ま、あちらさんが数を出した分質を落としてたのかもよ?」
「いや、それはないぞ。まったく大したものだ。敵ながらあっぱれと言う他無い」
この声はッ!!
明らかに自分たちのモノではない声とセリフに振り返れば、そこには悠々と宇宙に浮かぶデモドリフトの姿が。
その片手に提げられた剣もクリスタルブレードのヴァンキッシュで間違いがない。が、サイズはおかしい。デモドリフトからしてもあの剣は両手で振り回すサイズのモノだったはず。なのに今は片手で操れるサイズに収まっている。
「アイツ……でかくなってね?」
「そう言われれば、今も?」
ルーナとファルが言葉にするのをためらうようにつぶやいたとおり、俺たちの正面に浮かぶデモドリフトは確かにデカイ。そして間違いなくそのサイズは現在進行形で増してきている!
デモドリフトのヤツ、自分のパーツの四幹部たちを取り込んででかくなり続けてるのか!?
「何を企んでいるにせよ、的が大きくなっているのだからッ!!」
クリスは俺たちと、そして自分自身も奮い起たせようとばかりに叫んでランスカノンを発射。この砲撃は確かにデモドリフトの胸を貫いて穴を開ける。
「どうだ! もうこちらが一方的に劣るということはないぞ!」
「我輩はそう言っていたつもりだが? もはやお前たちは取るに足らぬ反逆者などではない。我輩の理想郷を滅ぼしうる、凄まじき力備えた敵であるとな」
「せっかくぶち抜いた傷穴をかるーく塞いでくれて、よくもまぁ言ってくれるじゃあないのさ……」
「別の世界を土足で踏みにじっておいて、なにが理想郷だってッ!!」
俺たちを、ブリードのレジスタンス活動を認めるような口ぶりで勝手を抜かす暴君へ、俺たちは砲撃を連射。しかしデモドリフトは無防備に眼や額、胸に腹と穴を開け、のけぞりながらもその巨大化を止めない。
「もはやまともに防御をするだけエネルギーのロスにしかならない。そう判断せざるを得ないほどのこの力、本当に……心底に惜しい。最後に今一度確認するが、我が理想に共鳴して共に支配の手を拡げるつもりはないか? そうすれば貴様らとその生まれ星は第一の配下としてしかるべき扱いを約束しよう」
そしてこの誘い文句である。
なるほど。俺たちの世界を、故郷を守るのならこれで充分。目的のひとつは達成できる条件だと言える。だが――
「お断りだ」
「私たちとその星が安全になったとして、矛先が別のところに向くだけではないか。そんなことは到底受け入れられない」
「第二に、その他所への侵略に付き合わされるわけでしょ? まっぴらだよ」
「そんで最後に、お前のしかるべき扱いだなんて約束が信用ならないね。分身に与えた心やドクター・ウェイドへの扱いを見るによぉ!」
「その通りだ。貴殿の申し出はとても承知出来るものではない。我々でなく通用しそうな相手に申し出るべきだ」
この俺たちの宣言に、通信ウインドウを開いて割り込んできたライエ副長官も大きくうなずいて続く。
これに対してデモドリフトは修復させた目を暗くして沈黙。しかしすぐにその目をギラつかせる。
「では是非も無し。望み通りに、貴様らを滅ぼした上で我が理想郷の足がかりとしてくれる」
静かな交渉打ち切りの宣言に続いて、ヤツはその巨体を丸めるなり、猛烈な光を放ってきた。




