90:たった一つだけの感謝
「何が、何が! 心だ! 団結だッ!! そんなものがマシンの性能に……何の役にも立つものかッ!?」
翼と足をジタバタと、焼けた装甲に彩りを取り戻しながら叫んだダークドラゴンは、俺たちを狙っての砲撃を。
周囲の空間を揺るがせた暗いエネルギー砲に、俺たちもまたランスカノンを発砲。このエネルギー干渉で軌道を曲げ、最短距離を開いた上でチャージをぶちかます!
「ギョぺッ!? こ、この程度ッ!?」
撥ね飛ばしたものの、ダークドラゴンはバリア強度に任せてダメージを抑えたらしい。凹んだ機体を空中にジタバタとさせて明後日の方向へ砲撃を。
がむしゃらに出鱈目なムダ撃ちに見えたこのエネルギー砲はしかし、空間をねじ曲げ開いた裂け目に吸い込まれて消える。直後、俺たちの背後に高エネルギー反応が。
「グッアアッ!?」
とっさに反転して厚い装甲と集中させたバリアでガード。しかしこれだけの護りで受けてもなお、機体には抉るようなエネルギーが迸ってくる。
「リードくんッ!?」
「……なんのこの程度! みんなの反応のお陰で直撃じゃあ無いんだッ!!」
「アイツ今、ゲートを使って攻撃を別のところに……!?」
「なら、ゲートはアイツがコントロールしてるってコトッ!?」
先の転移弾の仕掛けを予測しつつ反撃。対するダークドラゴンは大きく横っ飛びにこれを回避する。
「その通り! そもそもがこちらで開いたゲートには私のサポートがあってのもの! 私が支配するのに不足していたのはエネルギーのみだったのだよ、ギョフフフフッ!」
「やっぱりお前が!? 手引きするところまでやっていて!!」
「と言うことは、リードくんが死にかけたあの戦いが起こったのもッ!!」
「そうだとも! あの時あの場にデモドリフトの分身どもを呼び寄せたのはこの私だ!! それ以来に起こった戦いも、すべて私が、私の頭脳が招いたコトだッ!!」
避難の意を込めたクリスらの言葉。これに自供を重ねるドクターの声はむしろ誇らしげだった。
しかしそうか……この博士が俺の家族の……そして俺自身の仇だったってコトで決まりなのか。
だがこう言ってはなんだが、両親や兄の事は別にして、俺自身の事で彼を恨む気持ちはほとんど無い。
ブリードが融合しなければそのまま死んでいただろう俺だが、そうなっていなければ今も俺は空っぽのリードのままだっただろう。
あの時死にかけたお陰で今の俺がある。掛け替えの無い仲間との繋がりがある。
ドクター・ウェイドがきっかけとなって今の俺にたどり着いたのだとなれば、恨みにはならない。
だがそれは俺個人の巡り合わせの話で、大切な仲間を、ユーレカのみんなを苦しめ傷つけて来たことは別だ。さらに親兄弟の事も。
「ああ、そうか。色んな事は別にして、俺はアンタにはひと言くらい礼を言っておかなくちゃなのか」
「リードくんッ!?」
「え? は?」
「なに言ってんだオメェッ!?」
「ほぉう? 殊勝な話ではないか。おかげでスーパーヒーローロボットになれました、とでも?」
我ながらいきなりなセリフに三人娘が戸惑い、ダークドラゴンの魚顔がギョロギョロと目を輝かせてくる。が、そうじゃあない。そっちの話じゃないんだから、みなまで言わせてくれって。
「いや、アンタを倒して仇討ちしてやろうって、そう思えるくらいには家族の事大事に思ってたんだなって、そこのところを気づかせてくれてありがとうってな」
転がりこんできた戦う力にロボとの融合、押し寄せてくるやるべき事。これらがあったとはいえ、俺は家族の死に混乱したまま、ろくに悲しみもしなかった。
正直仲が良かったとは言えなかった。何もさせない過保護な態度に、見下されているような気さえしてたのだって否定は出来ない。
そんな俺と家族の間にも、それらしい気持ちがあったんだと思わせてくれた事、その一点にはちゃんと感謝をしておきたい。それだけの話だったんだ。
「だから仇討ちはキッチリさせてもらうぜ? デモドリフトの侵略のせいで刻まれたたくさんの悲しみと、これからの苦しみの分のついでになッ!!」
「なにを貴様ッ!? 無能ごときが、この超文明の権威であるドクター・ウェイドに向かってッ!?」
仲間たちの安堵を感じる一方、ダークドラゴンは髭のようなメタルテンタクルをバタつかせていきり立つ。
そうして感情任せに放たれたダブルカノンを急速回避、側面に回り込んでの反撃を射つ。
「おやおや、メカの体を手に入れて、実積でもパワーで勝ってる博士がどうした急に? それに俺の生身がブランクなのは否定しないが、一緒に戦ってくれてる仲間たちは違いますよー」
「ええい、揚げ足をッ!?」
装甲とバリアでこちらからのビームをしのいで見せたダークドラゴンは、その四足で地団駄を。これによる衝撃波をファルは見え見えだとばかりに羽ばたき回避。そこからクリスが砲撃を雨あられに降らせる。
「うっとおしいヤツめらがッ!? そもそもがだ、デモドリフトをどうにかしたいと言うのならこの私がやってやるつもりであったというにッ!!」
「なにをッ!?」
ここで突然のセリフにクリスたちは三人揃ってギョッと。
それはもちろん俺もだ。
反撃に上がって来たビーム砲をスルリとかわしながら、呆気にとられてしまった。
だってそうだろう?
門武守機甲を、生まれた世界を裏切っておきながら、デモドリフトをどうにかしてやるって、お前は何を言ってるんだってなるだろ?
いや、そりゃあ裏切り者なんだから、裏切った先でもまたやらかすくらいはあるあるだろうけれどさ。それにしたってどの口がほざく。
「何がおかしい? 私は最初からそのつもりだったのだぞ? デモドリフトと接触してヤツらの技術を奪い、そのまますべてを奪いつくしてやろうとな!!」
「それはつまり……私たちの味方になるつもり……ってコト?」
「そうは言って無いぜ? デモドリフトから全部奪ったその後はアタシらからってコトだろうさ」
ファルの楽観に対するルーナの冷静なツッコミ。これを聞いて企てをさらけ出していたダークドラゴンはその目を愉快げにチカチカと。
「もちろんだとも。そもそもがだ、お前達が自慢げに乗り回しているマシンたち、さらには生活を支える文明の利器……これらはすべて私の研究解析あってのもの。私が奪い取ろうと、それはすべて私の手元に戻ってくるだけでは無いかね?」
ふざけた事を!
思い上がり、傲慢極めた考えをさらすダークドラゴン……いや、ドクター・ウェイド!
コイツの思うままにさせては絶対にいけない!
「そんなお前に任せておけると、誰が思うかッ!?」
俺たち全員の心を代表して叫ぶクリスに合わせて羽ばたくファル。最短距離で間を詰める俺たちに、対するダークドラゴンはダブルランスカノンを。迫る光の壁にルーナは前に飛ばしたアンカーにエネルギーストーム。反する回転方向で渦巻くエネルギーはビームを弾く……が、拮抗したのは一瞬。伸ばしたアンカーを押し戻してくる。
だがこれでいい、こうなる事は見えていた。だからクリスはビーム砲を受け止めたエネルギーストームを蹴りつけ、羽ばたきと合わせて疾走! ダークドラゴンの放つ破壊の津波から逃れる。そうして俺たちは空に向けてごんぶとビームを吐き出し続けるターゲットの横っ面を正面に。それを認めた敵は文字通りに目を白黒とさせる。
「うおおおおおおおおッ!?」
俺たち全員が声を重ねての突撃! その必殺の意思の籠ったクリスタルの穂先はダークドラゴンがとっさに張った護りを貫き徹した!
「行くぞッ!?」
「ああ!」
「やっちまえってのッ!!」
相乗りしたメンバーから答えを聞くが早いか、クリスは敵を引っかけたままに急上昇。ランスカノンに込めたエネルギーと重力を振り払う加速とでダークドラゴンの機体を焼く。
そうしてフルパワーに達したランスカノンにトリガー。解放の合図を受けて放たれたエネルギーはダークドラゴンと共に宇宙へ。
そして程なく、地上からおよそ三万メートルのポイントで爆発が。落ちてくるその余波から地上を護るべく、俺たちはその場でバリアを全開にして構える。
「……ふぃー。どうにかしのげた、かな?」
「敵の、ダークドラゴンらしい反応も消えたっぽいしね。まあしのぎきったと思っていいっしょ」
「……しかし、あれは?」
ファルとルーナが安堵する一方、クリスが油断無く見上げるその先には巨大なリングが。まるで花火の消える刹那を切り取ったような、点々と円の輪郭を描くモノ。それが落ちてくるでも、宇宙へと飛び出すでもなく、一定の高度で静止していたのだ。




