89:何もかもを盗み取ったつもりだろうが
「ゲートッ!? なんでこんなッ!?」
「いいから合体だッ! ドラゴンにッ!?」
辺りを取り囲むゲートを見回し戸惑うルーナに、俺とクリスが揃えて声をかける。
俺たちの最強形態を求めるこれにルーナとファルのレスポンスは早く、一点に集合。機体が繋がる。こうなれば三次元に取り囲む門に吸い込まれようが、敵が飛び出してこようが対応は出来る。
そう確信しつつケンタウロスにアーマーを纏っていく俺の前にゲートを潜って現れたのはイクスビークルだ。
「スカイの量産機?」
「いや、シーのもあるぞ」
ユーレカのとは違う基地のエンブレムを付けた空戦機と海戦機。
中がいるのか、どう出るのか。辺りを飛び回るそれらの動きを伺っている俺たちの前に、まだ開いたままだったゲートから現れるモノが。
蹄を響かせた四足の機体。禍々しい赤紫の機体は消し飛ばしたはずのウェイドケンタウロスだった。
「やられたフリしてゲートに逃げてたってコトかッ!?」
「その通り! ぬか喜びをさせてしまったかな? ギョフフフフッ!」
「ハッ! あっけなさすぎて不自然だって思ってたところさ!」
「芝居がわざとらしすぎたよね」
あっけなさのタネ明かしをするウェイドに、ルーナとファルは意趣返しに酷評を返す。
それに合わせて俺とクリスも砲撃を。
言葉の代わりにくれてやった竜の砲撃は真っ直ぐにウェイドケンタウロスへ。
しかし爆ぜた光の後に現れたのはしっかりと四足で立つ赤紫のケンタウロスロボの姿だった。
「バカなッ!? ドラゴンのランスカノンだぞッ!?」
「イクスビークルだ。奴さん、ゲートで呼び出したイクスビークルのシーとスカイを盾に割り込ませてるらしい!」
手下を、それもこちらの機体を奪って従わせたのを捨て駒にするやり口。これに武門の誇りを宿したクリスはもちろん、俺たちは揃って怒りを噛み潰す。
しかしだからといって、別のを盾にしたからといって防げるモノではないぞ!? 本来ならまとめて消し飛ばせているはず。と言うことはなにか別のカラクリがあるに違いない!
「ギョフフフフフ! ご名答ッ! だが当然ただ盾にして終わりではないぞ?」
イクスビークルを捨て駒にしている事を白状しつつ、さらに辺りを飛び回るイクスビークルらを加速させる。
何を仕掛けてくるにせよ好きにさせてやる理由はない。飛び交う機体の護りを破る勢いでドラゴンのランスカノンを乱射する。
一撃一撃に必殺の威力を乗せたこの弾幕はしかし、イクスビークルの消滅と共にかき消されてしまう。そして後に残るのは赤紫のクリスタル片だけ。
これが俺たちの攻撃を防いだカラクリか!?
負けじと弾幕を濃くする俺たちに、ウェイドケンタウロスは微動だにしない。それは自信の表れか、不気味な気配に背すじを冷たいモノがなぞる。
その嫌な気配を裏打ちするかのように、俺は禍々しい色の結晶片がウェイドケンタウロスに吸い込まれるのを見た。
「みんな、これ以上の攻撃は……ッ!?」
慌てて攻撃停止を提案したが、一手遅れた。不気味に眼をヂカヂカとさせたウェイドケンタウロスは強烈なバリアを展開する。
渦巻き、俺たちを外へ外へと押し流そうとするエネルギーの波。異様に強い圧を帯びたこれに、俺の中の三人娘は揃って歯を食い縛る。
「どこに……こんなパワーが……ッ!?」
「多分、俺たちから吸収したエネルギーだ」
「じゃあアタシら、アイツにまんまとごちそうしちまってたってコトかい!?」
「それを返されてこれか……なるほどッ!?」
俺が目撃した情報を伝えたらば、ミスを嘆く声が口々に。だが俺たちを心身共に苦しめる光景はまだ終わらない。ウェイドケンタウロスはまだ自分の周囲に飛び交う機体たちを結晶化していないままに吸収を始める。そうして再び膨らみ始めたヤツには特に目を引く変化が。
四足の下半身の両サイドから伸びる大きな翼。ランス二刀流の騎士然とした上体はより分厚く、巨大な鎧を纏っていく。この姿は……この姿を俺は、俺たちはよく知っている。
「ドラゴンッ!?」
俺たちを邪悪に染め上げたような色合いの機体。その姿はまさにイクスブリード・ドラゴン。いやダークドラゴンと呼ぶべき姿だ。
「ギョフ、ギョフ、ギョフ! ついに完成した……完成したぞ!! オリジナルマシンを超えた究極のマシン!! その解析体がッ!?」
喜色満面に目を瞬かせて叫ぶダークドラゴン。露悪的にリデザインされた俺たちの写し身にこちらの心はまたより強く結束する。
「アタシらの姿を盗んで、よくもそんなクソアレンジコピーをッ!?」
全員の心を代弁したルーナの叫び。これに合わせての突撃は、ヤツのエネルギーストームを雨後の水溜まりの様に飛び越えて紛い物の機体へ。
だがトリコロールに輝いた俺たちの槍は、ダークドラゴンが交差させたクリスタルランスに阻まれてしまう。
「バカなッ!? たかがコピーに私たちの渾身の一撃が!?」
叫ぶクリスをはじめとして、俺たち全員で質の悪いトリックでも見せつけられているような顔になる。
この突撃は三つどころか四つの心を一つにした会心の一撃だった。それはうぬぼれ抜きに間違いない。それがこんな簡単に受け止められるだなんて。
そんなショックを受けている俺たちの見ている前で、ダークドラゴンはその頭部を魚のような輪郭に。首との境から髭のようにメカ触手を溢れさせたその顔は、ドクター・ウェイドのそれで……
「ギョフ、ギョフフ……解析したと言っただろうが!」
魚顔の目を怪しく瞬かせたダークドラゴンは交差させた赤紫のランスカノンからエネルギーを放出。俺たちを吹き飛ばす。
「なんてパワーッ!?」
「これって、私たちを上回ってるッ!?」
「ヘタすりゃデモドリフトにも届いてねえッ!?」
想定を超える圧力に驚きながらも、俺たちは翼を操ってバランスをコントロール! そうして構え直した瞬間に盾に出していたランスカノンに砲撃、そしてランスチャージがぶち当たってきた!
「当然だ! 解析をすませた以上は、いずれかの要素を改良せずに作るわけが無かろうが!」
これまでの習作と同じに思うな。
そう叫んでダークドラゴンは羽ばたいて凄まじい圧力を押し込んでくる。
「なるほど、こりゃあマジでアタシらのドラゴンよりパワーは増してら」
あっけらかんとルーナが言い放つ通り、その点は認めざるを得ない。
「だが、パワーで勝る敵を相手どっての戦闘なんて、こちらはいくつも乗り越えて来ているんだが?」
「負け惜しみを……ウギョッ!?」
そんなクリスの一言に続いて、ダークドラゴンもまたバランスを崩す。
安定感抜群の四足。その足下を掬ったエネルギーストームの発生源は、もちろん俺のアーマーから伸びたアンカーだ。
そうだ。俺たちにとってパワーの不利なんてよくある事。ろくに戦いに出たことも無い博士さんとは経験の蓄積が違う。
「おのれッ!? この程度の小細工など、貴様らから吸い取ったエネルギーを使えばッ!!」
崩れたバランスに構わず、力任せに翼を振り回して突っ込んでくるダークドラゴン。これをファルの巧みな翼使いがヒラリとかわし、置いておいた別のアンカーが敵のスラスターのベクトルをちょいと捻って墜落させる。
そうして派手に地面を抉った赤紫のドラゴンへクリスは振り向き様にランスカノンをトリガー!
そう、これだ。これが魚人博士さんと俺たちとのもう一つの差だ。
俺たちは一人じゃない。
陸海空、それぞれのエースが心を通わせて動かしている。それが本物のイクスブリード・ドラゴン! 力で勝るだけの紛い物に負けるかよ!




