88:まがい物の出どころ
「ギョ、ギョペペペペェッ!?」
「やかましいッ!」
二つに割けた頭でビチビチと悶え声を合唱させるメカドクター・ウェイドに、俺は拳を落とす。
「ば、バカな……完全でこそなかったにしても……わ、私のコントロールは確実……」
「そうじゃなかったってだけだろ」
左右の拳の下で呻く二等分の魚顔に、俺はさらに圧力をかける。それでも諦めずに俺に乗っ取りをかけようと、メカ部品を這わせてくるあたりはさすがの執念。だが通じるモンじゃない。
「……銃が本調子ならここで潰してやってたものを……逆にそれが良かったのかも知れないけれどもが」
「ああ、向こうの貴重な情報源だもんな、一応は」
同意してくれたルーナをはじめ、仲間たちとうなずき合う。流れで仕留めてしまえなかった以上は情報を抜き出す方が有意義だろう。
「でも、やるとしてどうやって引き出す? 無理矢理に語らせるとして、それもウソまみれかもしれないし」
「データとして取るとしても、繋いだところから逆に乗っ取りをかけてくるなりしてくるだろうしね」
それなんだよなぁ。
信用ならない上にリスクがデカイ。そのリスクを犯して取れた情報にも信頼性が無い。うん。情報源としては希少性以外にはマイナスしかない。
「……まあ、俺たちがここで私刑にかけてしまうより、法で裏切りの報いを受けさせるべきかな」
「なーるほど、人道的な判断だな。世界そのものを裏切ったヤツを妥当に裁ける法があるなら、だけどさぁー」
俺が仲間たちと考えのすり合わせに振り向くと、シーイクスからは真っ当だと認めつつも渋った声が。クリスのランドとファルのスカイからフォローが出ないあたり、二人も同じくってところか。
まあそれはそうだよな。俺だって裁くにしたってどんな始末を着けるか想像もつかないし。まさかメカ化した身を三枚おろしに捌くワケも無し。それだったら遅いか早いか、それしか違いは無いんじゃあないか?
「しかしなんにせよ、私たちだけの判断で処罰して良い相手で無いだろう。最悪ユーレカの司令部の判断ですら越権行為だと咎められかねないぞ」
世界の裏切り者ってそう言うことなんだよな。しかし現場としては頼れるのは直接の上まで。ということで長官・副長官の判断を仰ぐべくそちらへ通信を繋いだ……のだがそれとほぼ同時に格納庫に高エネルギー反応が!
「防御ォオッ!?」
全員が全員互いのために声を張り上げ、バリアをフルパワーに。こうしてガッチリとガードを固めた俺たちをビーム砲が殴り付けてくる。
暴力的なこの光の波が引けば、その流れてきた方向には戦車が一台。ランドベースのイクスビークルがこちらに砲口を向けていたんだ。そしてその砲塔には……。
「バカな、ブリードッ!?」
「いや、顔が魚だッ!? もどきだ!!」
魚顔、ということは……そう思って俺が拳の下を見下ろしたなら、そこには変わりなくぐったりと動かない二等分の魚頭がある。だがこの魚頭は部品の接続が自ずと外れたかのようにバラバラに分解してしまう。
「ギョフフ……判断が遅いぞ! 私を無力化したいのなら迷うべきではなかったな!」
慌てて顔を上げた俺を嘲笑って、俺もどきになったドクター・ウェイドは四輪形態へ変形。そんなことまでご丁寧に再現した機体を陸戦のイクスビークルにねじ込む。
「無茶苦茶なッ!? 量産のイクスビークルに合体用のスペースはッ!?」
メキメキと音を立てて破壊しながら機体を戦車に重ねる姿に、クリスがギョッとなって声を上げる。が、内部にドクター・ウェイドを受け入れたイクスビークルは、本来存在しない可動部を増やし始める。さらには不足だと言わんばかりに、付近にあった陸戦機をもかき集めて変化を続ける。
そうして現れたのはイクスブリード。ランドに酷似したケンタウロスマシンだ。
旧来のコピー機とは違い、赤紫のクリスタル製のランスカノンを備えたそれに、俺はとっさにクリスの駆るランドイクスへ飛び込み、彼女に迎えられるままに機体を重ねる。
「ギョフ、フフフ……どうだ。今度はしっかりと再現してやったぞ?」
「紛い物の出来を良くしたところでッ!!」
毒々しい色のクリスタルを掲げるウェイドケンタウロス。生まれたてのように覚束ない足取りで機体を支えるそれに、クリスは鋭い踏み込みで突っ込む。
出遅れを取り戻して機先を制した俺たちの槍。しかし大きく跳ね上がった赤紫のクリスタルは輝き、禍々しい気配を――!
爆発した光に俺とクリスは前方に防護エネルギーを放射。間欠泉の如く吹き出した破壊力をその根元ごと横殴りにして後ろの仲間たちを庇う。
そうしてやり過ごした後には大きく引き裂かれて青空を見せる格納庫と、その破壊痕を結晶質の槍で指したウェイドケンタウロスが。
俺たちの放射でヤツが押し流された事でまた間合いが開いた。が、俺たちは間髪入れずに再びにこの間をゼロに。
「やらせんッ!!」
ヤツが基地の中枢へと槍を向けるのを逸らし、そのまま真正面から体当たり!
このぶちかましで吹き飛んだところへランスカノンを高収束で撃ち込んでやる。
これで壁を破って飛び出したウェイドケンタウロスを追いかけて俺たちも外へ。そして正面で砲台からの攻撃を浴びせ続けられているターゲットに両腕のビームをさらに。
「量産のイクスビークルを奪って作ったコピーならばここまでやれば……」
「いや、何もかもがデモドリフトの一味になりきってしまってるなら、こんなものじゃあ……」
クリスの半信半疑の楽観に、俺は経験から反対を。それを後押しするかのように、集中砲火の生むエネルギーの渦が逆巻き膨らむ。
膨張するエネルギー。これに四つ足を踏ん張り身構える俺たちの前に、繭を割るようにしてウェイドケンタウロスが姿を現す。
禍々しい色をした偽物は、膨張させたバリア表面を迸るエネルギーを逆転させ吸収。機体表面に出た結晶体の輝きと質量を肥大化させる。
そうしてエネルギーを蓄えて見せたコピーは、俺たちに反撃を浴びせ返そうと構え……て見せた上で身を翻して駆け出した。
「ここでフェイントをやるッ!?」
「逃がすかッ!?」
完全に虚を突かれた事を恥に思いながらも、俺たちは一転して逃げを打ったコピーの背中を追いかける。
当然足止めのランスカノンを尻や後ろ脚を狙って放つも、蓄えたエネルギーと後方に収束させたらしいバリアに阻まれてしまう。
「オイオイオイ、らしく無いじゃんよイクスブリード・ランド! ここは一気にドラゴンになって仕留めちまうか?」
「恥ずかしい所を見せてしまったな。しかしまだここはヤツの終着点を誘導してやってくれないか?」
「それは重要だ。任せてくれ!」
「ちぇー! ま、しょーがないやね!」
快いファルと不承不承なルーナ。しかしクリスの提案した役目のために先行してくれるその動きは鋭い。
合体せずとも最高のスピードを誇るスカイは、あっさりとウェイドケンタウロスを追い抜きつつ光の玉を投下。
これをかわし、さらに着地したエナジーミサイルの耕した地形を迂回するために、禍々しいケンタウロスメカの足取りが鈍る。そこへさらにシーが投げつけた質量弾が雨あられと。これがウェイドケンタウロスのコース選択と、スカイへの対空砲の機会を奪うのだ。
そうしてヤツが目標地点、崖に囲まれた袋小路に到達した所を俺たちの砲撃が直撃する。
この光の爆発が収まると、そこにはもう何もない。ドクター・ウェイドはその機械化された体と、乗っ取って作ったランドコピー共々、今度こそ完全に消滅したのだ。
「なんでぇ。もう少しくらい粘るかと思ってたらまたあっさりと……」
しかし拍子抜けだとのルーナの言葉を遮って警告が鳴り響く。
その警告の原因は、俺たちを取り囲むように展開した複数のゲートにあった!




