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84:短い休み時間だった

 高い高い青空の広がるユーレカ都市郊外の草原。

 裾に深い森を帯びた山を臨み、心地よい風の吹くこの緑の野は、門武守機甲の演習場でもある。

 俺ことリードはいまここで正面から流れてくる風を浴びながら走っている。

 と言っても、俺の足で走ってる訳じゃあない。俺の体を支えてくれる暖かで逞しい体の下からはリズミカルに地を叩く蹄の音が。そして前から流れてくる風の中には金の髪からほどけた石鹸の香りが混じっている。

 まあそういうことだ。俺は今、走るクリスエスポワールの第二の背に乗せられて、彼女の腰ベルトから伸びた手綱を掴んでる形だ。

 俺たちは現在休暇というか、激戦続きのリフレッシュのため、チームイクスブリードで出かけて来ているんだ。それで今はクリスに付き合って、走る彼女に跨がってるってワケだ。

 種族……というか細かいタイプ柄、ケンタウロスとしては速い方じゃないとかちょくちょく聞いてるけど、絶対そんなこと無いって。今もだけど、毎回乗せてもらった時には結構スピード出てるって思うぞ。


「やはり人を乗せているならリードくんの時が一番だ! 他の人を乗せた時とは走りやすさが違う!」


「そりゃあ普段から呼吸合わせて戦ってるんだからさ。これで生身でも邪魔にしかなってなかったら、よっぽどだって」


「そうだな。思えば随分と力を合わせてきたモノだ!」


 クリスがご機嫌に返してくれるように、いつの間にかブリードと融合してイクスビークルとの合体ができるようになってからこっち、何度となく命懸けの協力をしてきたんだもんな。それでついには、全員で合体できるようにまでなって。


「そう言うならクリス、次は私がリードをぶら下げて飛びたいんだけれど?」


「オイオイオイ? 今すぐ交換しようってここで落としてくれるなよ!? それにそう言うならアタシはリード引っ張って泳ぐか? あっちに湖もあったし、やれなか無いが」


「今すぐバトンタッチは無しってのはホントにそう。空と水中は俺の側にプロテクター以上の準備が必要なんだからさぁ」


 頭上にかかった影から落ちてきた声にそう返せば、了解了解って軽い返事が落ちてくる。

 ファルの力で飛ぶなら戦闘機パイロットの装備は絶対にいるし、ルーナに引っ張られて泳ぐとなれば言わずもがな。まあルーナのセリフじゃないが、装備次第ならやれないことは無いとは思うけれども。

 三人とも何度も息を合わせて死線を潜ってきた仲で、四人で一纏まりになって勝ってきたんだもんな。力を合わせたなら、なんだってやってやれないことはないさ。

 こんなことを思うなんて俺も変わったよな。それもこれもみんな、クリスたち三人をはじめとしてのユーレカ基地の仲間たちのおかげだ。

 強大な敵と一緒に立ち向かい続けて、生き延びて青空を取り返すまで行けた皆の。

 俺も含めた皆のおかげで、今日の平和があるんだ。

 あの日正体を現したデモドリフトと、星を塞ぐ蓋をドラゴンで吹き飛ばしてからこっち、ゲートが開く反応はまったく検知されなくなった。

 この状態が数日続いたことで、侵略を完全に退けたのだと言い出す人たちも出てきた。まあ無理も無いよな、戦いなんて終わった方がいい。ましてやあんなドギツイ、世界の戦力を束ねても不利に思えるような戦いだなんて。終わった風なら終わったとしたくもなるさ。多くの人は傷を負って、大切なモノを失っていて、星そのものまで深く傷つけられたんだ。早く思い出にしてしまいたくもなるさ。

 もちろんユーレカ基地の意見としては、デモドリフトはそんな甘くは無いだろう。ってのが大方のところだ。

 決着の一撃が惑星デモドリフトにまで壊滅的なダメージを与えたはずだと言われているが、実際に観測できているわけではない。

 ヤツらから戦闘力を奪えた確証が無い以上、再侵攻の可能性を考えて備えておくべきだってね。

 こうして慎重に警戒を解かずにいようって意見したらば、イクスブリードを抱えた戦力で何をするつもりなんだって勘ぐってくる連中が出てくるんだよなぁ。

 そういうのが、とにかく戦いを終わった事にしたい人たちも抱き込んで、ウチを始めとした防衛維持派に難癖つけて解体させようとしてくるんだから。

 副司令と、あと司令もこういう楽観的なのに疑り深いのの相手が忙しくて、家族とふれ合う時間が削られてしまってるんだからやるせない。こんなの、何のために命懸けで戦ってきたんだってなるさ。

 強敵に対して、俺たちは種族も都市の垣根も越えて一度はちゃんと一つにまとまれたはず。だのにコレだもんなぁ。そりゃあ違う意見も大事だろうが、なんだかな。向こうに言わせたなら、こっちが分からず屋のビビりだって事になるんだろうし、難しい話だ。


「リードくん、考えごと? 疲れてしまったかな?」


「ああっと悪い悪い。まあ、ちょいとね。この平和も、デモドリフト連中の様子をこの目で確認できたなら、俺たちもこっちの勝ちだーって心置きなく楽しめるのにな……ってさ」


「後顧の憂いが晴れきらないというのは確かにもどかしいね。こちら側からのゲート展開がうまくいってくれるようになればいいんだけれども……」


 鞍上の俺の様子を気づかったクリスに正直に答える。すると彼女もまた同感だと、未だ偵察に出られない現状を憂う。

 そうなのだ。こちらからの逆襲計画ということで、惑星デモドリフト向けのゲート展開の計画とその実現のための研究は空が蓋をされる以前から進められていた。そうして実際、その研究は実を結びつつあった……あったのだが頓挫してしまっているのである。突然に繋ぐ先の世界を定めようとしても見つからなくなってしまったのだ。それはまるで濃霧と障害物で取り囲まれてしまったかのように。


「こんなあからさまなジャミングがされてるってのに、勝った事にしたい奴らは認めないんだよなぁ」


「全員が全員ってワケでもないけれどもね。向こうの急ぎすぎても良くないって中立寄りのヒトたちに証拠を見せられたならこっちに傾いてくれるだろうし」


 ぼやくルーナをファルがなだめる。確かにそれが出来れば俺たちの味方は増えるだろう。が、その証拠集めも何を証拠としたらいいのやら。

 繋がらないだけなら、惑星デモドリフト近辺がゲートを展開できないほどに歪んでいるのだろうと言われてしまっているし。


「あー……いっそのこと、また攻めて来てくれたなら情勢がハッキリするだろうによー」


「めったなことを。本当に終わったのならそれはそれでいいんだから。言いたくなる気持ちは分からないでも無いけれどもだが……」


 近道を求めるルーナをクリスが諌める。が、同感もあるその言葉に勢いは無い。

 それほどまでに今の門武守機甲を取り巻く状況は面倒くさいからなぁ。

 だが俺だってみんなだって「戦いたいのか」って聞かれてイエスだなんて返す気は無い。

 そんな俺たちの耳をけたたましい音が叩く。

 それぞれから重なり共鳴する四重奏の警報を受けて、俺たちは素早く通信を受ける。


「ゲート発生反応! 場所はユーレカ……演習場B―38!」


「B―38って……ッ!?」


「ここじゃねえかッ?!」


 そんな悲鳴じみた声に答えるように、湖面がぶわりと膨らみ、弾ける。


「ブリードッ!!」


 湖の爆発が早いか、俺はもう一つの体にコール。合わせてクリスの背中から転がり落ちる。

 そして一体化からのチェンジで、飛んでくる飛沫から三人娘を庇うように仁王立ちに。

 浴びせかけられる湖水を機体からだで引き裂いて、俺は拳銃を左右に構える。

 そんな俺の前にいるのは前傾姿勢の機械巨人。長く太い腕を上半身の支えにして上陸しようとする姿は大型の猿人か。しかし遅れて揚がってくるのはタコかイカのそれを思わせる無数の足。それで持ち上げられた、前のめりな胴体の背部からは翼か放熱板か、幅広のモノが。

 そしてボヤリと光を灯した目で俺を見た顔は魚のそれ。

 ゲートを潜って現れたのだというそんなマシンキメラに、俺はブリードガンのトリガーを引いた。

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