81:やるべきは一つ
「よっしゃあッ!! こっから大・大・大・大・大逆襲と行こうじゃあないかッ!!」
「そのつもりだが油断は禁物! 大将首の力は遺跡のデータに残ってたのよりも強い!」
「データはアタシが見てんだから分かってるっての! 前にも向こうのが強いって同じ条件で倒せたんだってのはリードも言ってるんだからさ!」
「無論、負けるつもりなど無いさ! ファル、ターゲットはッ!?」
「ロック出来てる! いつでも!!」
俺の中で旺盛な戦意を交わした三人娘は、俺の機体を十全に操り上空の暴君を睨む。
彼我の高速機動の中でも標的を逃さぬ、スカイの空戦用センサー由来の超感度センサーが捉えたデモドリフトへ、クリスは四機のリアクターの乗算が生み出すエネルギーをランスカノンに乗せて放つ。
先にデモドリフトに防御をさせた集中砲火。これを易々と単騎で上回るダブルバスターカノンが宇宙へ伸びるのに合わせ、俺もまたエキドナの甲板を蹴る!
六足になった下半身。その両脇に伸びたマイクロスラスターの集合体である赤い翼。それを燃やして飛翔した俺の目の前には先に放った砲撃を切り裂いたデモドリフトが。
その剣を振り抜いた腕を目掛けてクリスは全力のランスチャージをぶちかます。
「ムッ!? ……これが我輩の知らぬ、いやお前にとっても未知の形態かブリードよ!」
とっさに剣を手放しての防御で受け止めたデモドリフトだが、こちらへ向けた口振りは昔馴染みの成長を味わってさえいる。そんな余裕綽々の態度に、ルーナがギザついた歯を食いしばって剥き出しに。
「こんな小手調べで満足してんじゃあないってのッ!!」
怒りを叫びに吐き出すシャチ娘。しかしその心は俺もクリスもファルも同じく。こちらを見くびったその態度をひっくり返してやるべく、ランスカノンをゼロ距離発射!
避ける間も与えないこの砲撃は完璧にデモドリフトの機体を光の中へ呑み込む。
このランスカノンの砲撃が空に蓋する機械の網に穴を開ける。
「下ッ!!」
直後にファルから警告が。彼女の叫びと同時に俺の爪足が振り下ろされる。硬い音を響かせてこれにぶつかったのは結晶質の刃。暴君の大剣ヴァンキッシュだ。
切っ先にエネルギーをスパークさせたこの刃に、俺たちは掴んだこれを振り上げ払う。
それからすぐさま伸びた光の刃が天の蓋を切り裂く。
「手放したと見せかけての置き土産かよ!」
「それくらいの罠は張るかッ!!」
苛立ち吐き捨てるルーナに対して、クリスがランスカノンで開いた蓋の穴を見上げる。
巨大なその穴には射し込んだ太陽の光を背にしたヒト型のシルエットが。
ドラゴンの全力を受けてなお健在。
見せつけられた結果に、俺もさすがに心が冷えるような感覚になる。
「さすがに幹部の四体合体……こっちの四体合体で出来上がるドラゴンのパワーを思えばこれくらいは跳ね上がるか」
「違いない。こっちも四つ、あっちも四つの掛け合わせならドラゴン並みに上がって不思議は無いやね」
「それでも、こっちだってまだドラゴンの天井は見てないし、見せてない」
クリスのつぶやきに同調しつつ、ルーナとファルの見せたデータは俺が瞬間的に見せている出力のグラフだ。
なるほど、こりゃひどい。ひどく不安定だ。やる時は全力全開のフルパワーでいるつもりだが、比較してみれば毎度毎度で全然違ってるのが一目瞭然。合体直後のとさっきのゼロ距離砲でさえ二割近いエネルギーの差が出てる。
こんなザマじゃあ、クリスたち三人娘を機体の中に預かってるだなんて、胸を張って言えやしない。
勝てることを疑うな。俺のパワーはこんなもんじゃあない!
そう念じた俺の気持ちを上がった出力で察してか、クリスたちはそれぞれに笑みを浮かべて足を、翼を振るう!
これが再びに襲いかかってきたヴァンキッシュをかわして置き去りにする。
そこからジグザグに、砲撃やエナジーミサイルを混ぜこんだ機動で上昇する俺たちに、ヴァンキッシュはもちろん、上のデモドリフトからの迎撃さえ追いつけない。
当然俺たちを狙うと見せかけたエキドナ狙いの攻撃は、すべて出鼻をくじくなり撃ち落とすなりして防いだ上でだ。
「意外! ここまでやるとは……ッ!?」
「お褒めに預かり光栄だ! だがッ!!」
「驚くにはまだ早いんだってぇのッ!!」
まだまだ余裕のあるデモドリフトの驚嘆に、俺たちは更なる加速を見せつける。
この微塵の躊躇の無い突撃は、デモドリフトが星の蓋にやらせた迎撃性の援護射撃を回避。間に割り込んできた暴君の剣も蹴り飛ばす!
「もらったッ!!」
「王手のつもりとは気が早いな!」
もはや間にジャマモノは無い。ここで必殺の力に漲る両穂先を向けた俺たちに、デモドリフトは動じた様子を見せずに間合いを取ろうと――
「もらったと言ったぞッ!!」
「なにッ!? これはッ!?」
だがヤツは下がったその先で硬直する。そこにはもう布石が打ってある。シーだったアーマー。そこに格納されているアンカーを伸ばしておいて、それを中心としたエネルギーボルテックスを発生させておいたのだ。
デモドリフトに気取られないようにパワーは控え目。ダメージはおろか、蹴つまずく程度にしか拘束はできないだろう。
しかしそれで必要充分!!
全力全開の意思を込めてデモドリフトへ突っ込む。
「……見事だ」
「なにッ!?」
が、貫いたのは静かな、しかし皮肉めいた言葉だけ。手応えなくターゲットのいた空間を通りすぎた俺たちは倒し損ねた敵の姿を探して全方位を手分けに。
直後、俺の背面に衝撃が。
装甲が受け止めてダメージはほぼゼロ。急旋回に振り向いて槍を突き出す。
「おおっと」
槍から伸ばしたエネルギー砲に、直撃コースにいたデモドリフトがその姿を消す。
瞬間移動!?
いや、俺のセンサーには空間の歪みを捉えてはいない。あるのは高速で動く四つの敵性反応……四つッ!?
この事実にある閃きが俺の頭を過ると同時に、ルーナがバリアを放出。全方位をエネルギーの鉄砲水で押し流した。
「今だ! やれッ!」
「承知ッ!!」
ルーナの合図するのが早いか、クリスは何もかもを被せるようにして俺に槍を突き出させる。
その狙いは敵反応の一つ。エネルギーウェイブに絡まれ、立て直しがわずかに遅れたもの。
「……クラッシュゲイトッ!?」
クリスタルランスが打ち抜いたのは重々しい体型の重機マン。デモドリフトの分身だったという四幹部の一体だ。
腹を深々と刺し貫いた俺は、そのままランスカノンを発射して消し炭に。ここで俺たちの槍にかかった理由はどうあれ、形を残しておいてやる義理は無い。
「躊躇の無いことだ。やってくれる」
対してまったくの別方向から小バカにしたような声が。
聞き覚えのあるこの声に、振り向き様の砲撃を放つ。が、エネルギーの道を走る車は、これをくるりと方向転換してかわして見せる。離れていく尻に追撃しようにも、また別方向からの砲撃が俺たちの視界をふさいでくる。
さっきの逃げた車、それにこの砲撃を放った船。これらは確かにスクリーマーとレッドプールだった。だが、どこかが違う。シルエットもそうだが、さっきの挑発めいた言葉の声色も。これまで戦ってきたアイツらそのままじゃない。
だがそんな違和感よりも、今はとにかく数を減らす。そうすれば――
「またパーツが足らなくなって元に戻れなくなるでしょうが!」
ファルが気合と共に突き出した蹴爪が、すぐ前を通り抜けようとしたレイダークロウの翼をもぐ。
分離してたのだろうが、クラッシュゲイト分のパーツも無くして、その上にこのダメージだ。今すぐ元通りには戦えないだろう。
きりもみ飛んでいくレイダークロウに残りが集結するそのポイントへ、ランスカノンの狙撃を浴びせる。
「いいぞ。勝つために気取らず、躊躇もしない。それでこそだ」
「……そんなッ!?」
「どうやって……ッ?!」
だが爆ぜた光の中から現れたのは、全身どこにも不足の無い鋼鉄暴君の堂々たる姿であった。




