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8:侵略の手

 金属に覆われた空間。

 パーツの回収と移植修復中の機械がズラリと並べられた、破壊と再生の共存する空間。

 我が城たるこの美しきスペース……だというのに、主たる私は今弾ける火花に向き合わさせられている。

 潰れた装甲を取り外した下で、歪み外れた部品を伸ばして配置を戻したり、千切れたのを接いだり。そんな修復作業を強制されている。


「イデデデデッ!!? う、ウェイド、もっとていねいにやってくれってぇえッ!!」


「ギャハハハハ! ざまないなクラッシュゲイト!」


「もう、レッドプールったらそんなに笑っちゃ悪いわよ。ププッ」


「良い悪いはともかく。珍しくなし予想通りで、大笑いしてやる事でもないだろうに」


「テメェらぁあああ!?」


 まったく騒々しい。不躾な押しかけ居候めが。

 まあデモドリフトには恩義がある以上、口に出すような事はするまいが。

 私手ずからの修理を受けているのは逃げ帰ってきたクラッシュゲイト。デモドリフトが寄越した四幹部の脳筋だ。

 指令を受けて意気揚々と出かけていったコイツに、転がってくるような負け様を見せられれば残る三名が笑うのも無理はない。昔の不快な連中の姿が重なって、私も胸がすくような気持ちになったからな。私の手を煩わされるのでなければ、なお良しだったのだが。


「ドクター。こう喧しくては手元も狂うだろう? 眠らせてやってもいいぞ」


「それは助かります。ぜひともお願いしたいですな」


「スクリーマーてめえ!? それに魚ヅラも調子こきやがって!!」


 口を滑らせた私に向かってクラッシュゲイトの片腕が。

 しかしそれが私に届く前に板が割り込んで防いでくれる。


「もう、カッカしたらダメよクラッシュゲイト。こちらでの拠点を用意してくれた協力者を害するなんて、デモドリフト様からの雷が落ちるわよ」


 割り入って庇ってくれたレイダークロウだが、私を見下ろすその目には侮蔑の色がある。

 おおかた小さく弱いヒトを、特に私の容姿の醜悪さを嘲っているのだろう。

 ああ、誰もがそうだ。魚かカエルのようなギョロ目と広い口。その上顎にはほとんど潰れた鼻が一体になって穴を開けているだけ。

 どうやっても背骨で常に前のめりな姿勢。常に湿り気を帯びたブニブニの肌に、水掻きのある指。この辺りが気持ち悪いと、私を見たものは決まって嫌悪感を露にするのだ。有機生命体でなく機械生命体である彼らからすればなおのことだろう。

 そんな機械生命体どもの内心はともかくとして、弾みで私を襲おうとした攻撃は止められた。


「感謝するよ、レイダークロウ。危うく修復も半ばで車に轢かれたカエルのように叩き潰されてしまうところだったよ」


「あらいいのよ。アナタは大事な協力者なんだもの。拠点と通り道の提供もしてもらった事だし。その分は助けてあげるわ。ギブアンドテイクの内だわよ」


「そうかね。ありがたい話だ」


「それにしても、この拠点大丈夫なのか? クラッシュゲイトが逃げ込んだし、ウェイドがここに住んでるのは知られてるんだろ?」


「む? 見ていなかったのかレッドプール。クラッシュゲイトはゲートを経由してこちらへ転がり込んで来ただろう?」


「そうだったっけ?」


「そうよ。そうでなきゃあんたが迎えに行かないで、どうやってこの深海まで溺れずに逃げて来れるのよ?」


「それもそうだな。で? ウェイドの件は? コイツがオレたちに手を貸してるのはバレてないのか?」


「そんなヘマはしていないともさ。キミらから見れば、さぞ小さくてのろまに見えるだろうがね」


 この私の返しに「クラッシュゲイトとは違うもんな」などと言うものだから、また脳筋重機がジタバタし始める。

 そちらにしてみればからかって遊んでいるだけなのだろうが、取りついて作業している側からすればたまったものでは無いのだぞ。

 ……私は足がつくようなヘマはしていない。していないが、気がかりが無いでは無い。あの空白ブランクの小僧、私があの場に装置を置いたのを見たのか?

 いや変装……というか、私だと断定出来ないように顔は隠していたし、体型も分かりにくくしていた。見つかったのかもしれないが、私の仕業とまでは分からない、そのはずだ。それにあの場所はこの四幹部とデモドリフトのロボット兵によって焼き払われている。目撃者がいたとしてもまず生き残ってはいまい。だが、クラッシュゲイトのようなマヌケがいるのだ。万が一にも生き延びていないとも限らない。

 現段階で探りも何も無い以上、少なくとも断定までは行っていない。そのはずだが……それがいつになる事か。


「あら? あらあら? もしかして何か不安な事があるのかしら?」


「いいや、まさか。不安材料などあるはずもない」


 探るようなレイダークロウの問いかけに、私は反射的にそんなことはないと返す。そうだとも私にミスなど無いのだ。もしこの研究所ハイドラを嗅ぎ付けられる様なことがあれば、それはこの連中の不手際に違いない。そうに決まっている。

 そう私が胸の内をまとめていると、スクリーマーが白黒の装甲を叩き鳴らす。


「その辺りはどう転がろうがどうとでもできるだろう。今回はクラッシュゲイトのおかげでレジスタンス側のパワーをある程度計れた事を良しとしようじゃあないか」


「うむ。アレには驚かされた。あの変形した戦車はオリジナルビークルの一機だったか、私も解析には携わったが、まさかあのようなパワーを秘めていたとは」


 転がり割り込んだ作業ですっかり頭から抜けてしまっていたが、私の知らない機能と性能については是非知りたい。耐久性をも増していたのは、おそらく機体を支えるエネルギーそのものの出力が上昇したためだろうとは予測できる。しかし合体用のオリジナルマシンをもう一つ内蔵した程度でまさかアレほどのパワーを発揮するとは。

 ブラックボックスだったのだろう場所のどこが解放されたのか。知りたい。分解して調べ尽くしたい!


「ハッ! あんなもの、オレが完全だったなら受け止めきってやったさ! 大したパワーじゃあねぇーよッ!」


「……と、ぶっ飛ばされたヤツが言う」


「やっかましいぞレッドプールッ! オレが言いてえのは、こっちの目的の一つが片づけば、レジスタンスごときどうってことはねえってコトなんだよ!」


「単純だが一理ある。で、同志ウェイド。そちらはどうなっているのだね?」


 からかい言葉を払い落としたクラッシュゲイトにうなずいて、スクリーマーが私を見やる。

 これに続いて、残る三つの顔が一斉に私へ向く。この深海の水圧にすら勝る圧力に、私の皮膚がじとりと湿り気を増す。

 彼らが首魁たるデモドリフトに先駆けて侵略に乗り込んできたもう一つの理由。それは、彼ら自身のパーツ、そして首魁であるデモドリフトの部品の捜索だ。

 不足なく見える彼らだが、先の戦いで少なくないオリジナルパーツを失っているのだと。それが流れ着いた先は、当時侵攻のために繋げていた我々の世界。我々が超文明の遺跡として発掘調査していた機械遺跡の中にあるのだと。そしてそれは彼らの上司であるデモドリフトも同じく。

 現在は本拠で作成した仮の部品で補っているものの、オリジナルほどの性能が出せないのだとか。不思議な話だが、ゲートが我々の世界に固定されてしまっていて、本拠世界だけでは用意できないものが含まれているのだとか。

 だからこそ、あちらと接触できるほどに研究を進めた私が、心当たりもあるだろうと協力者に選ばれたのだ。

 そんな彼らとその王の切迫した事情がある以上、前のめりになるのも分かる。分かるが……。


「そちらの転移前にいくつはかアタリをつけて置いたとも。数が数だから全てでは無いが。だから少しばかり落ち着いてくれたまえよ」


「あら、それはごめんなさいね」


「チッまだ全部見つかって無いのかよ」


「そう言うなクラッシュゲイト。まだ焦るような事態ではない。確実に探し出せば良い。確実にな」


「そうだな。占領してる内にポロッと見つかるかもしれないしな」


 スクリーマーの音頭取りに圧力を消す幹部たち。

 そうだ。急いでかき集められては困る。こちらとしても、そちらに使われるばかりでいるつもりは無いのでな。

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