76:グッドタイミングで来てくれるから最高だ
「リード、エキドナへ! 急ぎ帰還を!」
そう言われてもな!
俺の目の前には八本足のデカブツがいて、後ろには避難しようと立ち上がるアザレアたちが。
俺が庇いきれずに負傷した仲間を連れだそうとする彼女らを助けずには行けないだろ!
第一に、前にいるデカブツの大砲は俺を通り越して非戦闘員を狙ってるんだからさ。
放たれた砲撃に俺はブリードガンのブレードを交差させて前に。一瞬のスパークが弾け、叩きつけられるボールをレシーブするようにエネルギー砲弾を弾き飛ばす。すかさずまだ衝撃が痺れと残る腕を強引に持ち上げ、砲門へ向けてトリガー。これはスルリと横滑りした砲身と装甲で弾かれてしまう。が、ひとまずはしのげたからヨシ!
「あいにくと、まだここから一歩も下がれないし、お前を通すわけにはいかないんでねッ!!」
正面の敵と味方たちに向けて叫んで、俺はまた二丁拳銃で弾幕を。
やたらに砲撃されても捌ききれないが、他に注意を向けさせても行けない。どっちもやらなきゃならないってのは辛いよな!
弾幕維持のため、右と左でタイミングをずらしてカートリッジをチェンジ。しかしいざ二丁揃いで引き金というところで多脚戦車の足が蹴飛ばしに迫る。
俺はそれに体当たり。自分からぶつかる勢いでもって蹴りの威力を軽減していく。が、質量差はいかんともし難い。俺がいくらパワーが上がっていても押し込まれてしまう。後方へはスラスターを噴かすワケにもいかず、足で地面を抉りながら押し当てた装甲にゼロ距離射撃。
そうして俺が踏ん張っているところへ砲撃が。視界を光で焼きつくすような破壊エネルギーの雨はしかし、多脚のデカブツを横殴りにする。
この威力に横倒しになる巨体から、俺は殴り付ける勢いに乗せて離脱。宙返りにバランスを取りながらついでの拳銃弾を浴びせてやる。
「すまないリードくん! 立て直しに手こずった!」
「なんの、いいタイミングだったって!」
俺が着地したのは相棒の一つ、ランドイクスだ。これをリーダーとした陸戦チームの戦車たちが俺の守っていたアンスロタロスと俺たちの間に割り込み、収容していってくれている。これで俺が一秒一瞬でも時間を稼いだ甲斐があったってもんだ。頼もしい仲間たちだ!
「好き放題にやってきてくれたが、これでもう遠慮は無用だな!?」
「ああ! 鬱憤晴らしと行かせてもらうぞ!ッ!」
闘志の漲るクリスに応じたなら、俺の機体は光に包まれてランドイクスの中へ。そうして四脚の巨大ケンタウロスになった俺は、互角の体格になった多脚戦車と対峙する。
対して多脚戦車はこちらの姿を認めるや否や、八足をドスドスバタバタと後退りを。そうして引き撃ちに放ってきたエネルギー砲を、クリスは結晶質の槍を一閃に打ち払いつつ踏み込み、その砲台部分を突き破る。
「またさらにパワーが増している……が、向ける先と余波には気をつけないと……」
危うく蹴り上げた土砂を浴びせてしまいそうになった味方を横目に、クリスは上の吹き飛んだ敵機へ砲撃。このダメ押しが片側の脚を吹き飛ばして、巨体を傾かせる。
油断も容赦も無い戦士としての攻め。相変わらずの姿に俺が感心したところで後ろに気配が。
しかし俺がアラートを放つが早いか、クリスは後ろ蹴り。これをされるがままにトレースした俺の後ろ脚が大砲を蹴り飛ばしていた。
ひしゃげて跳ね転がるその軌跡を見送る間も無く、クリスは頭上から降ってきたものを巧みなランス捌きで打ち払う。
「多脚の脚ッ!?」
ストンピングを仕掛けるつもりだったのだろうモノに、俺は思わず声を。だって視界の中にある多脚戦車は片側の足を失ったまま。それに踏み潰しに降ってきたのはバラバラで――いや、そうか、そういうことか!
本体と降ってきたモノたち。それらを見比べて納得を得た俺は、クリスと息を合わせて踏み込む。そうして非戦闘員の避難行に追いつくと槍を突き出す。
そうして刺し貫いたのは砲塔だ。
俺たちが吹き飛ばしたはず、さらに蹴りで曲がっていたはずの大砲をいつの間にか真っ直ぐに直した、多脚戦車の砲塔だ。
しかしランスに引っ掛かっていたそれは、瞬く間に自ずと分解。細切れに散ってしまう。
「そういうカラクリかッ!!」
その様を見たクリスは俺の示した方向へ砲撃を。鋭く強く収束させた破壊エネルギーは、デモドリフトパーツを運搬する車両近くに再構築しかけていた砲塔をまたバラバラに。
こうやってさっきもその前も、やられたフリに分解しては別の場所で自在に作り直してって繰り返していたんだ。狡猾な機能だよまったく。それに、こんなに自由自在な作り直しが出来るってことは――
「これくらいは出来るししてくるか!」
いきなり突き出されたエネルギーブレード。虚空から顔面目掛けて伸びてきたそれをクリスが頭を傾けることで装甲に滑らせる。防護エネルギーを帯びたアーマーが火花を散らす中、俺たちのカウンターがブレードの基部を払う。そして直後に横合いからきた巨大な拳に、逆の槍を突き入れる。
バラけてスルリと俺たちの槍から逃れた鉄の巨拳は俺の背後に回り込みながらまたも再構築。もちろんその過程で、クリスの動くままに後ろ蹴りも入れるが、これもあっさりとすり抜けられてしまう。
俺の後ろ脚が届かない位置に再構築したのは二本足で立ち上がる鉄巨人だ。
「……クラッシュゲイト?」
たしかに。振り向き対峙したクリスがそうつぶやいた通り、多脚戦車のパーツの名残が見えるその姿には重機マンの面影がある。だが機体サイズが違う。それにレッドプールにも似ているし、スクリーマーの要素も見える。幹部のジャンク品をリサイクルさせたヤツって事か?
だとしたら足りないヤツがいる。それにどこか、幹部連中とは他のモノの印象もかぶってくるな。
「その懸念は分かるが!」
「ああ、後回しだ!」
エネルギーブレードを抜き打ち襲いかかってきた大物の腕に結晶質の槍を添えて受け流し。色々と混ざったその機体へ逆の手のエネルギー砲をゼロ距離に。拡散モードでのこの一撃もしかし、マッシヴな機体はほどけて回避。まるで攻撃の意思に触れるなりに分解しているかのような滑らかさ。だがクリスにとってはもはや織り込み済み。淀み無く駆け出しての体当たりで巨体を砂と散らす。
「ここだッ!!」
瞬間、クリスのトリガーを受けて俺は全身のエネルギーバリアを放出。ランスチャージの折に機体を守り、同時にぶち当たった相手を焼き抉るこの攻撃が、俺の表面をすり抜けようとした敵の粒子を焼き払う。
たとえ砂のように細かくなって消えていようが、裏を返せばただそれだけ。瞬間移動しているワケでも、消滅しているワケでもない。
それが証拠に、再構築を果たした敵機は一回り小さくなっている。誤魔化そうという努力は買うが、ダメージは明らかだ。
振り返りトドメを刺しに踏み込んだクリスは同時に横へも一射。その先には初志貫徹のつもりか、またパーツ運搬車両を襲おうとしていた敵の一部が。
囮作戦の失敗を悟って固まる幹部のまぜこぜに、クリスは容赦なくエネルギーを帯びたぶちかましを。
この一撃でもって敵の反応は消えて、不意討ちに飛び出すモノも現れなくなった。
「連中にはステルスもある。油断せずに行こう」
勝って兜の緒を締めよ。そう言わんばかりに、クリスは非戦闘員輸送の警護の目を緩めない。その通り、俺達はまだ勝ったワケじゃあない。こうしている間にも、ユーレカへの襲撃は続いているのだから。




