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75:嵐の訪れ

 俺が右手に握るブリードガン。その銃口下から伸びたエネルギーブレードが目の前の装甲を切り開く。内部に傷をつけないように、慎重に。

 何故ならば今は戦闘の最中ではない。


「これでいいかな?」


「……ハイ。ありがとうございます、マスター」


 そうして俺の切り開いたパーツに、アザレア率いるアンスロタロスのメイドさんが工具やらの機器を手に群がっていく。

 いわゆる戦闘終了後の調査というヤツだ。

 ゲートを潜って現れる敵と、それに反応して起動するデモドリフトマシン兵器の活動は散発的になった。しかし勢い弱くなってくれたからといって、ハイ対応する頻度が下がってラッキーとなってるワケじゃあない。逆襲なり迎撃効率アップのために備えているのだ。

 これもそのための一つになる。

 撃破出来た尖兵の残骸を解体して、刷り込まれた命令を抜き取ったり、部品の製造元なり素材なりを割り出してみたり。と、まあそんな感じの調査というわけだ。

 しかしこうマシンをバラしたり開いたりとかしていると、死体の解剖しているような気分になってくるな。

 だがこれがデモドリフトの本拠地に攻め入るきっかけを見つけるかも知れないと思えばだ。


「……今回も変わらず、重要な手がかりになりそうなデータは取れそうにありませんね。破損と同時に自壊するシステムが止められてません。分かっているのは相変わらず……」


「ドクター・ウェイド製だぞって刻印くらいって? 挑発のつもりなのか、まったく。まぁ簡単に尻尾を掴めるようなら苦労は無いのだけれども」


 敵もさるものと言えばその通り。これまで世界を欺き続けていただけの事はあるということか。

 だから気を落としたり焦ったりしても仕方がない。そう自分とアザレアたちに言い聞かせながら、俺は残る解体作業を続ける。いつかはまぐれあたりにでも秘密を残したままのものが見つかる事があるのかもしれない。そうでなくてもスクラップをスクラップのままにせず、片づけておくに越したことはない。邪魔になることはなくなるし、レアメタルのインゴットにまでしてしまえば、また利用することも出来るのだろうし。

 そんな俺たちの前を、ランドイクスの牽引するトレーラーが通りすぎる。その脇には陸戦隊の戦車達が警護に侍り、上空にも周囲を警戒する空戦チームの機影が。

 そんな厳重に護られた荷物を見送りつつ、アザレアがポツリと。


「……こちらはともかく、もう一つは進行できているようでなによりです」


 彼女が言う平行した作業というのは、デモドリフト由来のパーツの捜索と封印だ。

 ヤツらが侵略のついでに――侵略がついでの側だったのかも知れないが――捜索していた部品群。ユーレカ基地の地下深くから発見された暴君の大剣バンキッシュを始めとした、ヤツらの主君のパーツ達を、こちらで先回りに集めて封じておこうという作業になる。

 攻撃が続いている以上は、これもまた継続中であるはず。敵戦力がどれ程残っているにせよ、ヤツらが欲しがっているものをヤツらに渡してやる理由は無い。

 そんな目論見でヤツらの手に渡らないように、あわよくば何か有益なものを引き出せないかと、防衛に平行しての捜索と回収がなされているってワケだ。


「……すべて一ヶ所にまとめておくのは不味かろうというのも分からなくはありません。ですが、ユーレカ以外で管理する品々があることは……」


「待った待った。それ以上は口にしない方がいいって……気持ちはわからないでもないけどもだ」


 慌ててアザレアの発言をブロック。いやぁあぶないあぶない。滅多な事言わないのって。

 捜索と封印もユーレカ基地が音頭を取ってはいるけれども、門武守機甲でやってる事。なので当然ユーレカ基地だけの仕事じゃあ無い。封印したパーツを管理するのも発見された地区を縄張りにした基地の仕事だ。

 こうなったのはリスクと負荷の分散が理由だ。

 ユーレカのメンバーだけで捜索を行うのは、侵攻頻度が低下していても防衛への不安が出る。さらにすべてをまとめてしまえば、一つの陥落でこちらの集めたのを一度にまるっと持っていかれてしまう恐れがある。そうした慎重な意見に乗っ取って、門武守機甲全体で、各基地の持ち回りにする方針された。のが表向きの話だ。

 各基地の司令さん達としては、厄ネタでありながら、同時に強力な品であるデモドリフトパーツが、ユーレカの独占状態になるのを避けたかったんだろう。

 まぁそれはそうだろう。エキドナとチームイクスブリードってオリジナルマシンの数々。そしてそれらに支えられた対デモドリフト戦の実績。今でもこれだけ集中していて、この上にさらに手柄と有力兵器が固まるだなんて、そりゃあもう面白く無いだろうさ。客観的に見たらパワーバランスガッタガタだもん。

 まあそんなストレートな欲は別にしても、不安だとは思うよ。侵略者の行動が弱まって、その対策の矢面に立ってたのが一強になってる状況とかさ。

 だからユーレカとしても、周りを敵に回さないために配慮しなくちゃってワケだ。まぁめんどくさい。こういう仕事が出来る人たちには頭が下がるよ。戦場に立つ俺たちだけじゃ、下手すりゃまっとうに戦いにさえ出られやしない。

 この世界の危機にやっとる場合かって意見も分からないでも無いけども。後で面倒が増えるとしても、とにかく目の前の勝利が無きゃその面倒な後も無いって事態は往々にしてある。


「まぁなんだ。分散する利点の方が大きいのは確かだし、仮にユーレカの基地を取られた場合に、取り戻すチャンスも無いとさ?」


「……ええ。一理があるのは分かっています。ですがマスターを……裏切り者を通してデモドリフトに売るマネをするような輩が居たことも事実です……」


 それはそう。

 一人で請け負うワケにはいかないからって、任せた相手が信用して良いものかってなるよなぁ。

 ドクター・ウェイドと明らかに繋がってて、デモドリフトの手助けをしたって分かった連中。そういうのはたしかに処罰されたり、監視がついたりと処理された。

 けれどもこういうのって、処されたのがいわゆる尻尾切りだったりとかで、本体が見つかってないのとか、新しくそそのかされたのとか、どうやっても出てくるモンだからな。

 でも、逆にそうだから疑ってたってキリが無いんだよな。


「まあ今回のは確実に俺たちで封印管理出来るんだって思っておくしか無いんじゃないか?」


 そんな俺の気休めに、アザレアは渋々といった風ながらうなずいてくれる。

 ともかくと解体作業の続きに入ろうとエネルギーブレードをバラすのに向けたところで、コールが入る。


「ユーレカ基地に敵部隊の襲撃! すでに基地の装備で防衛を開始。しかし増援が継続中! エキドナには至急戻られたし!」


 何事かと思いつつ受けた俺の頭に響いたのは、ユーレカからの救援要請だ。

 やはりこれまでのは嵐の前の静けさだったか。

 束の間の平和が終わった事を確信しつつ、俺はアザレアに目を。すると彼女と彼女の率いるチームはすでに撤収の準備に入っている。

 そんなアザレアとうなずきあって、俺も撤収支度の手助け。特に封印指定のパーツの側へ。

 そう踏み出した俺の頭にけたたましいアラートが。それに弾かれたように顔を上げたなら、今まさに開こうとするゲートが。

 出させるものかと俺を含めたメンバーが発砲する。

 しかしとっさの迎撃砲を吸い込むゲートの向こうからはビームを弾く鋼の塊が。


「危ないッ!!」


 重力に任せて落ちてくる巨大な鋼に、俺は近くのアンスロタロスチームに覆い被さるようにして庇う。

 その直後に襲いかかる衝撃と土砂。これをしのいで土を被った体を起こせば、俺を見下ろす多脚戦車の砲門があった。

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