71:すべてを束ねた偉大なる力
「これは……いったい!?」
「クリス? それにルーナもいる?」
「オイオイオイ!? 何がどうしてこうなったッ!?」
やいのやいのと中から響く声に、俺の意識も光の中から引き戻される。
先頭をクリス。その斜め後方下にファル。ファルの真上にルーナという配置に三つが隣接したコックピット。操作形態から仕切りはあるが、三人とも仲間の姿を見れるように集まっていることに戸惑っているようだ。
いや、俺としても三人がそれぞれ一人ずつなら慣れっこだが、揃って中にいる事には何がどうしてなんだが?
どうしてと言えば、外の様子はと思い出してみると、四つの足はしっかりと甲板を踏みしめていて、その支えとしての頼もしさからエキドナの無事も感じられる。
しかし、安定して立っていると感じる一方で宙ぶらりんに感じる足が二つ。ケンタウロス足のさらに前側、前に伸びたクローレッグの存在を感じる。
手足が多いと言えば、機体の背部、ケンタウロスの第二背部の横からは翼が伸びているのもわかる。この翼から感じるパワーなら、甲板からひとっ飛びに敵の要塞を貫きに行けそうな、そんな気にさせられる。
そうだ、デモドリフト要塞から撃たれたはず。だのにこんなのんびりしてられるワケが。
そう思って見上げてみたらば、巨大な光の盾が俺たちとエキドナ、そして戦友たちの傘になって砲撃を弾いていたんだ。
その光の傘を生み出しているのは、いつの間にか俺が突き上げていたランスカノンと、その持ち手に外側に添った青く分厚い鎧だ。
いやまさか、これって……もしかして!?
「四体合体ッ!?」
「みんなの力をひとつに束ねて、それが要塞の上ッ!?」
「……グゥレートォ……」
空陸海。すべてのイクスブリードが重なった姿と力……それに乗り手である三人娘が感嘆する間に、俺の守りに叩きつけられていたパワーが弱まる。
赤熱して、見るからに限界に達した要塞砲を見上げながら、俺は三人にある提案をする。
「……やってやろう……って、リードくん!」
「そうだった。思ってなかった結果に呆けてたけど、いまは戦闘中……!!」
「やらいでかッ!!」
俺からのメッセージに無事を悟ったのも束の間。顔に浮かんだ喜色を闘志に塗り替えた三人娘は目の前のチャンスに飛びついた。
次の瞬間、俺たちの目の前には敵の大要塞の必殺兵器が。
「はっやッ!?」
ランドの踏み込みとスカイの羽ばたき。それらが寸分違わずに重なった機動のもたらした成果に息をのみながら、戦士たちの動きによどみは無い。我々を脅かす脅威の武器。それを破壊すべく全力を放つ!
その成果は要塞を下から上に貫く光の柱として表された。
「ハアァッ!?」
「ちょ!? すご、うぇえッ!?」
「なんて、パワーなんだ」
エキドナと艦載機の総力での飽和攻撃。それでも傷ひとつつかなかった要塞を、デリケートな部位からとはいえ貫通して見せた全機合体イクスブリードのパワー。
向こうに星空の見える大穴が、暴走するエネルギーの光で埋まるのを、三人娘は呆然と眺めていた。
噴火口の用に噴き出すエネルギーを弾きながら、俺は二の背横に伸びる翼を操って離脱。
エキドナと要塞との中間辺りにまで下がれば、内側か弾けるエネルギーにひび割れていく要塞の様が良く見えた。
「こうなったらもう支えるバリアも何もない。よっぽどでかいの以外は星に引かれて燃えるに任せてもたいした被害は無さそうだってさ」
「いや、イクスビークルを構成する素材なんだろう? 言ってもだいぶ燃え残るんじゃない?」
「だからもっと細かくするなり、大気圏に入る前に溶かしきってしまおうと言うわけだね」
唐突な新戦力の登場、からの最大脅威の陥落。こんな怒涛の状況変化のただ中にありながら、司令塔からは的確な予測とやるべき事が示される。
「もっとも、それに集中させてもらえるとは限らないが!」
言い終わるが早いか、クリスが踏み込み突き出したランスカノン。その結晶質の穂先には飛行機型の、スカイイクスをコピーしたらしい機体が突き刺さっている。
それを威力を絞った砲撃で吹き飛ばすと、後ろ蹴りに背中を狙ったのを蹴飛ばし加速。正面のシーもどきと、ケンタウロス型のマシンとを撥ね飛ばす。
「母艦はやらせないぞ!」
「どさくさ紛れに狙って!」
「転んでもただじゃ起きない……ってえのはお互い様かね!」
手足とスラスターを振り回し、体勢を整えたもどきたち。それらがばらまく攻撃を、装甲とバリア任せに正面突破。大腕を広げて通せんぼとしてくるシーもどきの片腕をすれ違い様にもぎ取る。
「ながぁッ!? なんだそのパワーッ!!」
「なんだってんだよ! いきなり奥の手生やしてきやがってー! ありえねえだろーがッ!?」
砂糖細工みたいに崩れたオーバーボディの中からわめくレッドプールに、二段構えのブロックに入ってくるクラッシュゲイトのケンタウロス。
「ほぼほぼ不定形に変形とかやってきたヤツらが言うことかっての!」
伸びる突きと放たれたその砲撃は、ルーナの吐き捨てるようなひと言と共に俺の装甲に弾けて消える。
そうして切り抜けた先には再びエキドナの狙撃に入ろうとするメカケンタウロスがいる。
「クッ! 一瞬の足止めすらも出来ないのかぁ……ッ!?」
狙撃を諦め迎撃しようとするスクリーマー入りの右腕を、罵倒の言葉と合わせて断ち切る。そうしてすれ違うなりすぐさま切り返して、俺たちは両腕のランスカノンをフルパワーでぶちかます!
「なっ!? なんなんだそれはぁあああッ!?」
二本の極太エネルギー砲。その輝きにデモドリフト幹部らの抗議めいた疑問が飲まれて消える。
「なんなんだ、と言われてもな……」
「こっちもいきなり出来上がってたから……」
「四機いっぺんでの合体機能なんて、どこのデータにも無かったもんな。アタシらが聞きたいくらいだっての」
そうなんだよなぁ。
俺の……ブリードの記憶を改めてさらってみても、この名無しの新形態に至る合体システムが備わっているなんてどこにもない。デモドリフト側の反応からしても今日が初披露だった事は間違いないだろう。
だが、マシンにそんな急に新機能が生えるような事なんてある?
成長を……それも生命体が脱皮して変態するみたいな、そんな変化を起こすような事があり得るのか?
逆の立場に考えてみたらば、奴らがいきなり知らない能力で超パワー出してきましたみたいな感じだろ。それこそ隠し球だったあの要塞の浮上とお披露目の時みたいな。そりゃあふざけんなってもんだよな。
さっき撃ったダブルランスカノンだってこれまでに無い威力だったぞ。イクスブリードもどきを三機まとめて消し飛ばして、おまけにその奥にあった要塞の一番デカかった断片がごっそりだもんな。最初に串刺しにしたのといい、四機の足し算じゃあここまでのパワー出せないぞ?
「でもよ、そもそもアイツらが侵略仕掛けて来なきゃあ、この結果にはならなかったワケだからな」
それは、ホントにそう。
奴らの仕掛けた理不尽に、こっちも多少の理不尽をお返ししただけなんだから勘弁してもらわないと。
「おっとぉ! 副長官から催促だ。要塞の残骸のお掃除に入りなってさ!」
「私たちが一番の掃除効率の持ち主だろうからね。遅れてはいけないか」
「活躍を表彰してもらうのはその後にしないとね」
確かに。早いのはもう大気圏に入って赤く輝いているのもある。ここはさっきあっさりと残骸を焼き払って見せたパワーを活かしてしまわないとだ。
というわけで、本日この凄まじい新形態のお仕事の大半は敵要塞残骸の掃除になったのであった。




