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70:奴らの思い通りになんて

 四体のデモドリフト。

 悪夢としか言い様の無いものに絶句している間に、俺の意識はまるで別のところに送られていた。

 とにかく目に入ったのはどこまでも続く漆黒と巨大な鋼。そして大きな青だ。

 デモドリフトの衛星軌道要塞から投げ出された。そう察した俺は青に向けて引かれるのに逆らうために体を動かそうとする。

 だが俺の機体は動かない。

 手足を振り回し、スラスターを吹かそうとし続けているにもかかわらず、指先ひとつ、マッチの火ほどの噴射も起こすことが出来ない。

 嘘だろ、おい!? まるきりの金縛りじゃあないか!

 ブリードたち超文明の知識によれば、このままでも引っ張られるに任せて地上に帰る事はできる。ただし加速によって圧縮された大気の生み出す熱で焼かれた上、単純な超高度からの落下という衝撃を受けた形でだ。

 こんなのなんの備えも無し、その上の金縛り状態で足掻くことも出来ないんじゃあブリードでだって死ぬぞ!

 どうせ帰るのなら生きて帰らなきゃだろ!

 俺は焦りを抱えながら、どうにか機体にかかった金縛りを解こうとする。

 そんな俺の真横をビームが掠めて追い抜いていく。

 この向きは当然デモドリフトの要塞側から。アイツら追放しただけじゃ不安だからってダメ押しの大砲まで撃って来た!

 装甲を焼く熱さに反して、俺は内心冷や汗グッショリの冷々で。それでも金縛りにされた俺の体はまるきり動きやしない!

 狙いは甘く、しかし数撃ちゃ当たるとばかりに勢いを増す背後からのビーム砲に、諦めてなるかと思っていた俺の心に万事休すかとの考えがよぎる。

 そんな俺の正面から、また別の光のシャワーが挟み撃ちの形で。

 しかし青い星から上がってきたビームは俺を避けるようにして曲がって俺の後ろへ。続けて爆発したエネルギーの余波が俺の落下を加速させる。が、それはすぐに相殺される。


「よお! どこをほっつき歩いてたんだ? 探したぜリードッ!」


 接触回線。

 命綱になってくれたアンカーを通じて届いたのはルーナの声だった。

 仲間だ。下から上がってきてくれてたのはエキドナに乗ったユーレカの仲間たちだったんだ!

 心配をかけて悪かった。助けに来てくれてありがとう。駆けつけてくれた仲間たちにそう伝えたい。なのに俺はこんな当たり前のメッセージすら送れない。


「オイオイオイ、どうしたよリード!? 感動の再会のあんまりに声もでないってかッ?!」


 無言の俺の様子からすぐさま異常を察したルーナが軽口交じりの通信を重ねてくれる。だが俺は受け取ること以外のすべてを封じられたままだ。


「……こりゃあまためちゃくちゃやってくれたみたいじゃあないか……!」


 そんな俺の様子から察してか、ルーナは怒気のにじんだ声をもらす。

 しかし抑えきれぬ程の激情を抱えながらも、ルーナはシーイクスにエキドナとの合流を優先させる。


「リードを届けたら、このむかつきを思いきり叩きつけてやる……ッ!」


 漏れ出たそのつぶやきは俺に向いたものじゃあない。そうじゃあないけれども、ゾッとさせられるくらいに怒りのこもったモノだった。


「ブリードは取り戻せた! けどもなんかされてるみたいで無事じゃない。なんとかしてやって!」


 ルーナはそう言ってエキドナの甲板に俺を預けて、デモドリフト要塞への攻撃に加わろうとする。

 が、俺からほどけたアンカーを、いつの間にか俺の手が掴んでいた。


「リード? どうした……ッ!?」


 俺の意識していない俺の動き。それを何事かと聞き返すルーナの言葉を遮って、俺の体は掴んだアンカーを引っ張っていた。


「ちょお!? なにすんだリードッ!? 正気……じゃなさそうッ!?」


 思いがけぬ方向にかかった力に戸惑いながらもバランスを取ったシーイクスに、俺はブリードガンを発射。これをルーナは装甲の傾斜で弾いたけれども、俺の発砲は止まらない。

 それまでまるで動かなかったのが何てことを! 今度は俺の側が動かないようにさせようとするのだけれども、やはり意思と機体はバラバラのまま。まったくにコントロールが利かない。

 俺がどうにか体のコントロールを取り戻そうとしている一方、甲板に出てきていたランドイクスから砲弾が。俺を目の前に網と広がったこのバインド弾がルーナを狙う俺をからめとってくれる。


「リードくん!? どうしたんだッ!? いつもの君に戻ってくれッ!?」


 そりゃあ戻れるものならすぐにでも!

 なんてバインドネットを通したクリスの懇願に叫び返したいけれども、俺の体の返事はガンブレードによるネットの切断だ。そのまま俺は伸ばしたブレードでエキドナの甲板を切りつけてしまう。

 そんな俺をクリスはランドイクスの車体をぶつけて止めてくれる。だがそこまで。無限軌道で下敷きにするまでは思いきれずに暴走する俺を逃がしてしまう。


「まずはどうにか動きを止めなくては! ホーミングレーザー、照準をブリードにセット出来るか!?」


「待って下さい! そんなことをしてはリードくんが!」


「出力はセーブする! 彼も暴走するままエキドナを、イクスビークルを傷つけるのは本意ではあるまいッ!!」


「それは……そうですがしかしッ!!」


 俺の事を考えてどう止めるべきかの言い争いが。ここまでしてくれる仲間に……クリスに対して、暴走する俺の腕は銃を向けて引き金を――


「リードくんッ!? なにをッ!?」


 なにをって、見ての通りさ。これ以上に仲間を傷つけるのはどうしても嫌だった。だから銃の向きを変えただけじゃないか。まあ、変えた先は俺の足で、装甲には焦げ目がついてるけどもだ。

 しかし、全力で抵抗してこれだけって、情けないったらないな。まあ、どうにかこうにかねじ込んだおかげで、銃を胸のコアに向けて押さえつけられはしたけどもね。

 これまで生きていて……まあブリードのおかげでの延長戦みたいなもんだけども……はじめて俺を認めてくれた仲間だ。未練はある。裏切りへの罪悪感もだ。だがそれでも、その仲間をこれ以上に傷つけるのよりはずっとマシだ!

 その一心で引き金を引こうとする俺の意思を、今度は逆に暴走する俺の機体が止める形になっている。


「ダメだ! リードくん、それだけはッ!? 諦めちゃあダメだッ!?」


「クッ! 急げ! リードを止めるんだッ!!」


 そんな俺の自害を止めるため、クリスは再度ランドイクスで体当たり。それとほぼ同時に機銃からのホーミングレーザーが機体を焼く。

 そのまま押さえつけられた俺は、真上にある要塞底部が動くのを見た。

 あれはまさか……!


「衛星要塞内部に高エネルギー反応! このパワー……ドラードを消滅させた大出力砲ですッ!!」


「こうなるのが狙いだったかッ!?」


 俺の救出に手と目が向いていて、そうなるとつまりはイクスブリードも無い。その状態でまとめて焼き払うために俺に暴走の種を仕込んで放り出したのか!

 悪趣味の過ぎるデモドリフトどもの好きにさせるかと、みんなは持てる火力を集中して要塞底部を砲撃する。だがイクスブリードランドの大砲すら弾いた要塞は、それらを真っ向から受け止めて悠々とエネルギーを高めていく。

 俺だってもちろんただ押さえ込まれてるままじゃない。体のコントロールを取り戻しに戦っている。が、機体を内側で支配する力を跳ね返す取っ掛かりはあっても、もう時間が足りない。


「全機本艦の陰に! エキドナのバリアを集中、全開にして防ぐッ!!」


「無茶です! 都市を消し飛ばす出力相手にはとても!!」


「ならアタシらのも重ねて!」


「ルーナのよりは薄いが、もう一枚ある!」


 ダメだ! いくらエキドナとイクスビークルのバリアで段重ねにしても!

 そんな俺の言葉は声としては放たれず、集まりつつあるルーナとファルの機体を巻き込んで、俺たちは光に包まれた。

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