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7:流されるままに

 俺ことリードは、ただいまユーレカシティの門武守機甲基地にいる。

 と言っても、目を覚ますまで担ぎ込まれてたパーシモン先生の医務室どころか、建物の中ですらない。

 戦車が群れを成して走り回れるほどのだだっ広い演習場のど真ん中。基地が管理してる土地って所だ。


「まったく。リードくんも被害者で、さっきは協力もしてくれたというのに、どうして素直に受け入れられないのか……!」


 そんな風通しのいい場所で俺と並んで憤慨しているのはクリスだ。

 コックピットから出てそのままの彼女は身体のラインも露なパイロットスーツ姿。なので腕組みで強調されたメリハリの利いたスタイルを直視できなくて、プロテクター比率の高い大きな四足の下半身に視線を逃がすことに。


「だから、お前みたいに単純に新しい仲間だーなんて言えるヤツばっかだと思うなっての」


 不満げな態度のクリスに返すのは、こちらもまた目のやり場に困る女性だ。

 長い藍色の髪に鋭い目元、歯を剥いて凄んだその顔はクリスを見上げる形なのに逆に迫力で勝ってるくらいだ。

 しかし問題なのはキツイ印象のある顔じゃなくてその下だ。背中にクロスサーベルと本人の顔をデフォルメしたジャケットこそ羽織ってるものの、それ以外に着てるのはこれまたピッチリしたスーツだけ。起伏に富んだラインを隠すどころか、強調してさえいる。

 ムッチリした二本の脚の先は歩くよりも泳ぎの方が楽そうな大きなヒレ状になっていて、それが海上がりのダイバーを思わせる。

 彼女の名前はルーナ。鯱人オルカンで海戦隊のエース。あの空を泳ぐ青い船シーイクスの乗り手だ。


「アタシだって被害者として保護するまでは当然だと思う。けどさ、良く調べもせずに戦力になりそうだからアテにしようってのは違うんじゃね?」


「むむむ……それには一理ある。リードくんの意思を尊重したいところではある。あるがしかしだなルーナ……」


「なあ少しいいだろうか? クリスから聞いた話だが、身寄りも何もかもを無くしている彼を受け入れて何がいけないんだ? 見つけた時にも、さっきも暴走機械と戦ってくれたのに? そこがわたしには分からないんだ?」


 理で詰めるルーナを相手に呻くクリスに助け船を入れたのはやはりピッチリスーツ姿の女性だ。

 二人に比べて小柄で細身ながら、その両腕のためにか弱い印象はない。

 黒からグレーのたっぷりした羽毛に覆われた翼は、ほっそりした体とは対照的に広々と雄大で。さらに足を包む靴の鋭角さから、大きく鋭い蹴爪の存在感が匂ってくる。

 風を切りそうなショートヘアにキリリとした顔立ち。そんなまさに空の狩人といった容姿の彼女はファル。やはりクリスらと同じく、空戦隊の上等機乗りのハーピーだ。


 襲撃を退けた後、俺はこの三人のエースに乗ってたブリードごとにここに運ばれて来て今に至るってワケで。

 ちなみにルーナの意見で俺はブリードと離されていて、クリスとファルの意見で繋がれたりなんだりはされずに済んでる。

 しかし、俺なんかのせいで門武守機甲の三エースの間に不和を招いたんじゃ無いかと思うといたたまれないな。


「だから、アタシはその前段階ってのがあるだろって話してんだよ。機体が味方識別出してるとか、実際に敵の敵をやってるったって、味方になって肩並べられるのにアタシはまだ納得してないっての」


「……だが、結局は上の判断に従うしか無いわけだ。わたしとしては味方が増えてくれたらありがたいと単純に考えているだけだから」


「ファルの言うとおりだ。第一にこの状況に一番に混乱してるのはリードだろう。懸念は懸念として置いておいてはくれないのか?」


「あのー……さ、俺としちゃそちらに迷惑かからないやり方でならそれが一番なんだけど……」


「自分をもっと大事に考えな!」


 口を挟もうとしたら三人から声を揃えて言われてしまった。

 これは、三人の連携は崩れて無いのを喜んで良いのか?


「……待たせてしまったな。三人ともそこまでだ」


 そこへ一台のトラックがやってきて、降りたライエ副長官さんがエーストリオにストップをかけてくれる。

 この一言で三人揃ってビシッと黙って敬礼を返す辺り、ライエさんってやっぱ怖いな。

 そんな俺の感想をよそに、副長官はトラックに向けて合図を。これを受けて制服姿の面々が各々に資材を担いで降りてくる。そして担ぎ出したのを広げたかと思いきや、その場に手早くタープテントを立ててしまった。


「レグルス長官、準備整いました」


 屋根の下に椅子とテーブルを並べた簡易的な会談場。その完成を見届けた副長官さんはもう一度トラックに呼びかける。

 これを受けて降りてきたのは俺が見上げるほどの大男だ。

 大きく広がった赤い髪と豊かな髭。その中心に収まった顔は岩のようにゴツゴツしている。

 そんな頭を乗せた体も筋骨隆々。髪の広がりに負けないくらいに肩幅も雄大で、胸板も制服を風船のようにはちきれさせてしまいそうだ。当然そんな胴体から伸びる手足も丸太同然に太い。唯一可愛げがあるのが、ごん太な太腿の間から覗き見えるライオンの尻尾だけ。それでも俺が頬を打たれたら吹き飛ばされてしまいそうな気はする。

 こんな獅子人の大男に見下ろされて、漏らさなかったらそれだけで自慢できると思う。


「いやあ、物々しくしてすまんねリード君。長官なんてやらされてるレグルスだよ。まあ気楽に、モジャモジャのおっさんで構わんから」


 けどそんな壁みたいなレグルス長官は、にんまりと顔を緩ませて見せる。

 その威圧感とフレンドリーさの温度差にバグった俺は、曖昧にうなずき返すしかできなくて。


「長い話になるだろうから、おっさんには立ちっぱなしじゃあつらいな。ほれほれ、ひとまず腰を落ち着けようじゃないの。ああ、お茶とか菓子とか持ってきてるよね? 戦ったばっかで疲れてるのもいるし」


「ええ、用意してあります。しかしそれは直接戦闘に入ったメンバーのためで、長官には控えていただきますよ」


「ええー? そんなケチ臭いこと言うなよ副長官。そりゃあワシは司令室で見守ってただけだがね? 書類仕事するにもエネルギーは欲しいんだから……」


「いけません。身体に出てきては良くないと、奥様にも控えさせるように言付かっておりますので」


「そんなぁ。そうならないように鍛える時間は取ってるのに……まぁいいよ。ワシのもちょっとは出してくれるんでしょ?」


 でもそんな俺の態度にお構いなしに、レグルス長官はほれほれと、俺たちをテントの下に促す。

 その気安さ、というかゆるい態度に、ライエ副長官は頭痛を堪えるようにしながらもため息で流す。

 あ、これがいつもの感じなんだ。

 そう察した俺の内心を肯定するように、クリスもファルもルーナも、気まずげにうなずき返してくる。

 しかし茶菓子を出されても、俺に説明できる事が増えるワケじゃあないのに。それが余計に申し訳無くなってくるな。


「まあまあそう固くならないで。分かってないってことを共有するのも情報交換だからさ。取り敢えず今体験したこと、説明できる事をちょっとずつでも話してくれたらいいよ」


 するとレグルス長官は気楽にしなよとばかりに俺の背中を叩いてくる。

 長官だっていうこの人が、こんなゆるい態度なら大丈夫かもしれない。現金なものだけど、俺はそんな風に思って彼に進められるままにテントの下に入ってしまったのだった。

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[一言] ライオンのおっさんカワイイ。
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