67:相手次第でやりようはある
「うおおおッ! 行かせるかッ!!」
急速に迫る地面。俺はその恐怖を塗りつぶすように叫びながら左右のブリードガンを連射。これがこじ開けられた防衛線を乗り越えようとする機械兵の頭や肩へ降り注ぐ。
エネルギー弾の痕から、トルーパーらが火を噴き倒れる間に俺は宙返り。噴かしたスラスターと全身のアブソーバーで地面が沈む程の衝撃を受け止めて着地する。
隕石じみた勢いでの落着に、脚回りからアラートめいた痛みがある。が、ダメージを感じられているくらいには無事だと言うことだ。
そう頭の中の警報を振り払った俺は両腕を広げて回転を。同時に伸びたエネルギーブレードが、着地の隙を狙っていた機械兵の腕を切り飛ばす。
回った勢いをそのまま俺は味方基地内部へジャンプ。カートリッジの残り少ないのを、また防衛線のほころびから入りこもうとするのにばらまいて設備の陰へ。
俺が背を預けたのは砲台のようだが、管制室、さらには近くのコントロールユニットとの接続が切れてしまっている。だがそれ意外には機能不全を起こすダメージはない。俺は片手の銃に空のカートリッジを吐き出させつつ、強引に防御砲台をリブート。この場の迎撃機能の一つを取り戻させる。
さらにマグチェンジしたガンにブレードバレルもセット。復活の砲台と一緒に侵入しようとするものを迎え撃つ。
だが俺もここで足を止めて迎撃し続けてもいられない。基地侵入を果たしたクラッシュゲイトも探さないと。
そう思っている内に、最寄りの戦車隊が復帰した砲台と連携して、破られた防衛ラインを埋めに。その動きを認めた俺は、この場を頼む発光信号を手短に侵入者を追いかける。
アタッチメント無しのカートリッジも交換し、バレル付きのも満タンのにチェンジ。それを手でやる一方でクラッシュゲイトの姿を探す。
「侵入後にあのステルスを使ってるのか? だとしたら厄介な……」
俺自身の光学センサーはもちろん、基地内部のレーダーにも姿が映らないターゲットに、俺は焦れてしまう。だが、それならと集中させたソナーセンサーが重機めいた足音を拾い、爆音にかき回される。
たまらず声を上げて耳を押えた俺は、防御砲台を貫いたビーム砲を見つける。
「突っ込んできたのがマヌケで助かったよ!」
耳をやられた苛立ちを吐き捨てながら、俺はビーム砲の出どころへダッシュ。そして蒸気を上げる大砲を担いだゴツイ機影を正面に捉えると同時にダブルトリガーだ!
「うおッ!? ブリードッ!?」
「これ以上好きにはさせないッ!!」
不意打ち成功。
エネルギー弾を浴びて火花を散らすクラッシュゲイトに、俺は連射し続けながら突っ込む。対する重機マンもまだ冷却中の大砲を伸ばしたままこっちへ。
頑丈さ任せに被弾を無視した体当たり。
これをすれ違い様にかわしながら、俺はバレル付きのロングブレードを横一閃。その勢いのままに旋回すれば、正面には振り向いて光弾をばらまくクラッシュゲイトが。
「どこまでもうるさいヤツ!」
「ソイツは何より! 侵略者にウザがられてレジスタンス冥利に尽きるってねッ!」
弾幕には銃弾と刃。罵倒には皮肉を返して俺は再度突撃。冷却からチャージに入った大砲に狙いをつけさせないため、イナズマのステップで。
「あーッ! ウザいなコイツは! ちょこまかするなー!!」
「そう聞いたら余計にすばしっこく行かないとなッ!」
この程度ならファルとやってるイクスブリードはもちろん、彼女単体でのスカイのがよっぽど速い。が、それでもクラッシュゲイトがイラつくなら儲けものだと、ヤツのサブウェポンの弾幕を緩急織り混ぜて掻い潜って行く。
「このチビがーッ!! わざわざ近づいてきやがってッ!!」
苛立ちと自慢のパワー任せに落とされる拳。圧力を帯びた文字通りの鉄拳を、俺はギリギリにサイドステップ。しかし激情に高まったパワーは地面を大きく砕いて俺の足を取る。
「オラァッ! 調子に乗るからだッ!!」
余波で宙に浮かされた俺の姿に、重機マンの目と担いだ大砲とが喜びにギラつく。
「そりゃあアンタがだろ?」
その輝く砲口へ向けて俺はトリガー。大きくは無い的だけれども、この短距離でこっちに真っ直ぐ向かってるならブリードは外さない。
臨界に達していたエネルギーに、強くは無いパワーでも外からつついてみたらどうなるかな?
「な!? がァッ!?」
暴走したエネルギーの逆流で大きく吹き飛ぶクラッシュゲイト。まあそれよりも軽くて浮いてた俺も衝撃波には殴り飛ばされたけれどもだ。仕掛けた俺の側としては強弱は別として来ると分かってた衝撃だからスラスターやらも駆使すれば受け身は取れる。
「こ……この野郎がぁッ! よくも! よくもぉッ!!」
「いやいや……あきれた頑丈さだな、オイ」
機体と繋いだ大砲の暴発を受けても、クラッシュゲイトのヤツ地団駄を踏んで俺を睨み付けて来てるんだけど。
そりゃあまあ接続部まわりから装甲は吹き飛んでるところもあるし、火花だって弾けてる。だけれどもダメージはあっても本人自体はまだまだ目がギラつくぐらいに元気だ。おまけに暴発を起こした大砲の損傷は焦げ付いてる程度とか、どうなってるんだよコイツらのタフネス。
怒りに目をギラギラと点滅させるヤツからは、傷ついてなお燃え上がる戦意を感じる。これに俺は両手の銃を油断無く向け続ける。
しかし向けてはいるもののブリードガンは右も左もカートリッジが空。いわゆる弾切れって状態だ。目の前でリロードなんてしたら、絶対に「隙あり」って感じで仕掛けて来るだろ。
だから逆にそうする。
「隙ありィイイッ!!」
両のブリードガンからカートリッジが落ちたのを見るや、案の定って勢いで飛びついて来るクラッシュゲイト。
まともに受けたらイクスブリード・ランドでも後退りさせられそうなその勢いに、俺は落ちるカートリッジを蹴飛ばしてやる。
「ガッ!?」
突進の勢いとダメージ。そのかけ合わせで普段なら石礫程にも感じないだろうものに重機マンの勢いが鈍る。
ほんのわずかな、それこそ瞬く間の隙に俺は機体に導かれるままに横滑り。分厚く幅広なクラッシュゲイトの足をすれ違い様に払ってやる。
「んなぁッ!?」
これでコントロールを奪えば、クラッシュゲイトは勢いはそのままなスラスターに振り回されて宙返り。頭から舗装路に突っ込んだ。
この間に俺はグリップに新しいカートリッジをセット。立ち直ろうとする重機マンにチャージショットをぶちこむ。
「中途半端で悪く思うなよ。潰してしまえばまた出てくるって目に見えてるからな」
言いながら俺は、またマグチェンジしたブレードバレル付きのを突きつける。
仰向けに倒れたクラッシュゲイトの四肢は先の銃撃でもげていて、顔の前に置いた銃に文字通り手も足も出ない。
マシンの体になっている俺としては見ているだけで痛ましい姿だが、一思いにやってしまうワケにはいかないのだから仕方がない。
「さーて、じゃあこのまま拘束させてもらうぞ。その後付けの大砲も大事なパーツみたいだし、お前らを黙らせる手にもなるだろうからな」
うめき声を上げるクラッシュゲイトに宣言して、俺はこのデモドリフト幹部を拘束すべく基地司令部に通信を。だがその瞬間、俺の背後からなにかが突き刺さる。そして視界が白く焼けつくような痺れが全身に。
「へッ! オレ様がむやみやたらに暴れてたと思ったら大間違いだっつうのッ!」
「そう思われるだろうお前だからこの陽動が上手く行ったのだ。珍しい良い仕事だったぞ」
そして意識が途切れ行く中で捉えたのは、俺を見下ろすスクリーマーの姿だった。




