65:掘り出し物が多い
「今回も大手柄だったねリードくん!」
「サンキューな。でも今度のもこれまでのも俺一人の手柄ってワケじゃ……」
「……ったく、コイツは! 多少マシになってきたかと思いきや、相変わらず遠慮が過ぎるっての!」
「まったくだ。活躍したのは事実なんだから素直に受け取ればいい」
言いながらクリスたちが俺を取り囲んでくる。頭を抱えての三方同時の押しつぶしは、もう柔らかいやら苦しいやら。色んな意味で辛抱たまらない俺としては白旗上げて全面降伏するしかない。
「わ、わかった! あ、ありがとうな三人とも! だからもう勘弁して……」
「お? なんだなんだ? サービスなんだからもっと味わってけってのに。うりうりういぃ」
「うあああ……」
「ンンッ……ルーナ、それくらいにしておこうか? 四人きりじゃあ無いんだから」
クリスが言うとおり、ここは基地食堂ってい公共スペースだ。
他のみんながみんな、こっちを微笑ましいものを見るような目で見てて、完全に注目を集めてしまってる。
「へぇへぇ。つまんねえの。クリスももっとガバッと行っときゃ良いのに。素直になってよぉ」
「ルーナ?」
クリスが凄むのにルーナは降参だと気の無い返事を返して、俺の頭をぎゅうぎゅうと抱えていた腕を緩める。それでもまだ当たってきてるから勘弁して欲しいんだけれども、それを言えばまた熱烈なサービスが始まるかもしれないから言わないでおく。
「まあしかし、ルーナの言うことも一理ある。リードくんらの調査のおかげでエキドナの大気圏離脱ユニットの開発は一足飛びに。イクスビークルに使用可能な高機能パーツの生産も容易になった。長官たちがお手柄だと言っていたんだぞ?」
先日の未踏エリア調査の結果、暴君の大剣の他にも実入りはあった。それが保存状態の良好なイクスブリード及びエキドナの正規パーツと、その生産ユニットだった。
再起動を果たしたそのユニットのおかげで、三機のオリジナルマシンはコピー品で修復していた部位を完全に。さらには量産型にも流用出来るものを利用。全体の性能の底上げも成功していた。
「まあ、それだけの結果は出せて良かったんだけどさ。まだ実感が無いって言うか? 慣れないって言うかさ?」
「やれやれ根深いなぁ。リードのそれも」
そうやって素直な気持ちを述べたところ、ファルはその大きな翼を揺らして見せる。クリスとルーナも似たような呆れ調子だ。
まあこればっかりは仕方がないと思ってもらうしかないよな。俺自身も改めていかないとだけどさ。
俺の骨身に染みた生き方の事はともかく、重要なのはユーレカ基地の、引いては門武守機甲の得た収穫だ。
現行の一線級のモノを凌ぐオリジナルパーツが普及可能になった事により、ドラードの消滅以来下がっていた士気が回復傾向に。都市消滅攻撃を恐れて動きの鈍っていた各都市との連携も回復し始めたのだから。
「まあ、パーツとその生産ユニットの話と設計図は明かせても、アレの話は組織内にでも広められなかったみたいだけども」
「アレの事は、ね。どこにデモドリフトの耳目が入っているか分からない以上はね」
組織内でも内密にされているアレというのはデモドリフトの剣、ブリードの記憶が語るところによるバンキッシュだ。
バトルモードのブリードどころか、イクスブリードでも扱うのが難しいサイズであるこのエネルギーブレードについては、こちらで利用する意見も出たが即座に却下された。
ユーレカ基地の庶務をサポートする電子頭脳315。それとアザレアらから挙げられた、レジスタンス系列機と繋いだ場合に暴走を起こす可能性。持ち出したがために与えてはならない相手に渡してしまう危険性。そんな相性的、戦術的にマイナスな未来予想図に、長官たちも賛成したためだ。
その為バンキッシュの存在は外部に漏れないように、ユーレカ基地の中で徹底的に秘匿する形に。
その徹底ぶりは、発見した俺たちでさえ正確な現在地を把握できてないほどだ。
地下でトラップと見張りによる厳重な警備で守られているのが本物なのか、それとも俺も知らない内にフェイクと入れ換えてあるのか。入れ換えているなら本物はどこに保管しているのか。本当のところを知っているのを極端に限定するという厳重さだ。
「余計なプレッシャー背負わなくていいから、俺個人としちゃあ大助かりだけれどもね」
「オイオイオイ。ソイツはなんだか弱腰じゃあねえのかいリードよお?」
「背負わなくて良いモンは背負いたくないって性分が俺だぜ? そんなの今さらじゃあないのぉー? 素人に毛が生えた程度のキャリアの俺としちゃ、長官副長官にお気遣いどーもって気持ちなワケだ」
「これまでに大戦果を上げてきてるリードくんが即席戦力って……なんだかおかしい気もするな。聞く人によってはイヤミかと言われてしまうかも知れないぞ?」
「しかし参戦してからの期間は確かに短いからね。訓練よりも実戦が前だったし。ただ、訓練を積んで入隊してきたのからすると面白い話ではないかも」
解せぬ。
どう言われようが、俺のキャリアは事情があってのスカウトを受けた民間人でしか無いのは事実だというのに。
まあそんなヤツが目の前の事をがむしゃらにしのいでいった結果、何度も大物撃退してるってなったら、腹立てるのも出てくるだろうけども。でもそんなのこっちとしちゃ知ったこっちゃ無いってのに。こちとら必死こいてやれることやってるだけだってのに。
「まあそんなワケだから、俺としちゃまだまだ目の前のやるべき事で精一杯だって事だから、助かってるってだけの話だから……で、準備がいくらかすっ飛ばせてるのは良いとして、決行の時期事態はどうなってるんだ?」
「ユーレカ以外とも連携を取って動かないとだから、エキドナが出来上がるだけじゃあそんなにはね」
「ま、アタシらサイドは戦力の仕上がりを詰めれる余裕が出来てラッキーって程度の話さね」
「作戦開始前に交代でリフレッシュくらいは取れるかもしれないな」
マシン性能の底上げもあって、門武守機甲全体の戦力強化は出来ている。が、それでも大きな予定の繰り上がりは無さそうだ。それも敵の予想外の動きに追いたてられるような事がなければ……の、話になるけれどもだ。
なんて俺の考えをスイッチにしたみたいに警報が鳴り響く。
「上空から敵多数ッ!?」
「オイオイオイ!? 順調だったってぇのに勘弁してくれってッ!?」
言いながらもルーナの、そしてクリスとファルの動きは早い。警報の原因を聞き終わるが早いか立ち上がって格納庫へ向かう。もちろん俺も遅れずに戦闘用のボディになるために走り出す……のだがクリスにひょいと持ち上げられて第二の背に乗せられてしまう。
「いやクリス、もう少し行けば立ち乗り二輪車も!」
「良いじゃないか。色々ともったいないじゃあないか。リードくんは嫌かい?」
「そういう聞き方はずるい!」
「ならばよし! だな!」
まったくクリスときたら。誇りあるケンタウロス一族の背はそんなに気安いもんじゃ無いって話じゃないのか?
そりゃあ戦闘中には俺の側が乗せてるようなもんではあるし、信頼って意味なら俺たちの間には戦友として浅くないものは出来上がってるとは思うけども。
「ハッハッハッ! 照れるな照れるな! クリスの側から乗せてくれてんだからラッキーくらいに思っときなって!」
「外からの時は私が吊るして行くから」
「……その時は落とさないようにしてくれよ?」
立ち乗り並行二輪車にアクセルを入れるルーナと天井スレスレで翼を広げたファルに返しながら、俺はクリスの背に揺られていくのであった。




