61:根比べになったとしても
「バカな! スクリーマー!? お前は私たちが、リードくんが捨て身で討ち取ったはずッ!?」
聞き覚えのある声に、俺以上に動転したクリスが叫び、もう一度の砲撃を放つ。
が、虚言を撃ち抜こうとしたこの一撃もまた要塞からの射撃とバリアとで払われてしまう。
「ああ。確かにやられたな。業腹だが認めるよ。吹き飛ばされたあの痛み、金属のこの身であれほどの苦痛を味わったのは、この先も忘れられそうにない」
俺たちの戦いを認めるも、しかしその存在そのもので痛みも、それを乗り越えての勝利も、すべてを否定するスクリーマーの声。
そんな事は無いと、死線で足掻いて掴みとったデモドリフト撃破への一歩は確かなモノだったと叫びたい。だが二人で掴んだ成果のすり抜けて行く感覚に、俺もクリスも体を支える四足を踏ん張らせるので精一杯にさせられてしまう。
だってそうだろう?
俺たちが死に物狂いで倒そうが復活してくるだなんて、その仕掛けがある限りは絶対に勝てないんだぞ?
「オイオイオーイ! そんなトラウマ抱えてなんでまた出てきてんだよッ!? 死んだヤツが復活ゥーなんてアリなのかよッ!?」
そんな俺たちに代わって、攻撃と疑問を投げつけたのがルーナだ。だが彼女の投げつけた敵機も、要塞の障壁の前には小揺るぎもさせられない。
「それはお前たちの理屈だろう? そちらのルールを我々に押しつけるな」
「やっかましい! 侵略しにずけずけ乗り込んできといて偉そうなことをほざくな!!」
攻撃も、言葉も、どちらもが軽くあしらわれてしまってもルーナはギザついた歯をむき出しにアンカーを用いた投擲を止めない。
その勇猛さに俺たちは萎えつつあった脚を踏み締めて顔を上げる。
そうだ。
やつらデモドリフトの連中が何かを仕込んで消滅から逃れているのは間違いない。だがその仕掛けがなんであろうと俺たちがやることは変わらない。侵略者であるアイツらを叩きのめして、侵略戦に乗り込んでこられないようにしてやる。それだけだ!
復活の仕掛けはその途中で暴けばいい。最悪謎が謎のままだったとしても、元の世界に追い返してこっちに来れなくするってのも勝ち筋だ。
そんな甦った戦意を込めて両手のランスカノンを同時発射。ルーナの投擲とタイミングを合わせたことで、バリアがぶれて球体型の要塞が傾いた。
「ああん、もう! もう復活してきたのね!?」
「相変わらずうっとおしい反逆者めが! あのまま心が折れていれば良かったモノを!」
「あいにくと、お前らがうっとおしがるブリードのおかげで潔さが無くなったものでね!」
お返しだとばかりに放たれたビーム砲。地表を焼き払うそれを、俺たちは馬蹄を響かせて回避、追わせるままに引きつけておく。
その一方で展開した仲間たちが要塞を攻撃してくれる。
アレを落とさなくちゃならない。それは敵の幹部が復活出来ようがどうしようが変わらない。むしろ浮遊要塞ごとにもう一度潰してしまえれば儲けものってヤツだ。
そんな目論見で、俺もクリスの動きをなぞってビーム砲の弱まった隙にランスカノンの射し込む。
逃げている間に充分にチャージしたこの一撃は、また丸っこいデカブツを傾かせた。
「よし! ふらついたところへもう一撃ッ!」
クリスは有効打から畳み掛けようと逆の槍を放とうと――そこでとっさに狙いを変えてまるで別の方角へ光の槍を伸ばす。
地表スレスレ。余波だけで地面をガラス質に変えるこの砲撃が穿ったのは津波だ。空ばかりを見ていた俺たちを、海側から大波が襲うのだ。
「何がッ!?」
蒸気に変わった海水の向こう。クリスの求めに応じて目を凝らして見つけたモノを中はもちろん、仲間たちにも共有させる。
それは巨大なロブスターか。
ハサミのように振り上げたのは砲やらランチャーやらを束ねた攻撃ユニット。
その基部がつながるのは戦艦のボディを思わせる鋼鉄の巨体。それらを比較的に細い足が八つで支えて上陸しようとしてきているのだ。
「移動拠点がもう一つッ!?」
ホウライ基地と都市を作り変えたのだろうボール型の飛行要塞。その残りを動かしたのだろうが、それにしても巨大なメカロブスターが俺たちにその大ハサミを向けてくる。
「迎撃ィイッ!?」
母艦からの号令に俺たちは反射的に武装を放つ。それとほぼ同時にメカロブスターのハサミが自ずから爆発を起こしたかのように砲撃を。
互いにばらまく実体非実体の弾丸達。無数のこれらが交差しては弾け飛ぶ。
その破壊エネルギーの巻き起こす嵐に、俺たちは四足を踏ん張ってランスカノンの応射を続ける。
そうしてしのいだ後に二体の敵の位置を確認すれば、球型の飛行要塞はかなりの高さに昇っていた。
「もうあんな高さに!?」
「ほれほれ、ここは俺に任せて行けよ。コイツら相手にしてるヒマ無いだろうが」
「レッドプールッ!?」
撃ち落とそうとランスカノンを構えた俺たちだが、メカロブスターからの横槍に回避に専念させられてしまう。
その操り手への憤りを込めてクリスはランスカノンを発射。武装の塊であるハサミに穴を開ける。
この一撃が中身に火をつけたのか、風穴や砲門から火を噴いて弾け飛ぶ。
しかしレッドプールが操るメカロブスターはこのダメージに怯むことなく、冷静に片バサミを切り捨てて俺たちに向かってくる。
「いかにもレッドプールだぞ。お前らの相手は俺だ俺だ俺だぁ!!」
「ふざけるなッ! あからさまな殿の時間稼ぎに付き合っていられるか!!」
見え透いた敵の目論見を無視したクリスは、蹄を強く踏み込んで振り切りにかかる。
だがそうして敵が本命視しているのだろう浮遊要塞を狙おうとするも、メカロブスターの放つ火器が狙いを定めさせてくれない。レッドプールのヤツ、エキドナのホーミングレーザーやルーナの投擲、みんなからの集中砲火を受けてるってのにお構い無しか!?
「そうまでして捨て身で守ろうとするあたり、余計にアレを逃がすワケにはいかない!!」
だからこそなおのこと。と、重要なのだろう浮遊要塞を落とすべくクリスはギャロップを続けて両の槍を空へ向ける。
どこまでも上昇を続ける球型要塞との距離、空気の抵抗、敵からの妨害。秒ごとに変わるそれらを重ねて計算して俺は照準を定めていく。
やがて標的と固く重なった照準を目にして、クリスは引き金にかけた指を動かす。
「もらったッ!!」
「甘ーいぜ!!」
だがその瞬間に突撃してくる巨体が。入ったダメージで爆発を起こす機械の山に、クリスは放ったランスカノンをそのまま、下半身を回避軌道に切り替える。
全力で逃げる俺たちを、メカロブスターはランスカノンに裂かれるのに構わずのし掛かってくる。
躊躇いの無い追っ手と逃げる空。クリスはその二つを見比べ、ランスカノンの放出を停止。背後に視線を定める。
爆発したパーツを飛ばしながら追いすがるメカロブスターを、細かな射撃で迎え撃つクリス。そちらは彼女に任せて、障害物や敵機を避けて走るのは俺が任せれる。
そうして二人三脚に凌いでいれば、やがて勢いを失ったメカロブスターから飛び出すモノが。
「お前らはここで潰れておけぇえーッ!!」
「この、船の化け物がぁッ!?」
火を噴く残骸を纏って突進してくるレッドプールに、俺とクリスは四足を踏ん張り反転。その勢いに乗せて槍を突き出す。
俺たちの伸ばした鋭利な結晶に、四幹部一の巨体が吸い込まれるように突き刺さる。その直後にトリガー。突き刺さった内部に放たれたエネルギーがレッドプールの機体を千々に吹き飛ばす。
「……完敗か……!」
しかし幹部の一体を撃破しても、空のはるか彼方を見上げるクリスの顔は苦々しいものだった。




