6:第一のイクスブリードは炎の中から
「く、ぬ野郎が!」
金属の化物の顔面を蹴りつけてしまった俺だが、硬い硬いその手応えに戸惑ってる間に、振り戻した上体に跳ね返される形でまたも空に。
地面を転がって起き上がれば、お返しだとばかりに向けられた大砲が。
こんな、クラッシュゲイトの大砲に至近距離で撃たれたら大ダメージどころじゃない!
内心冷や汗ドバドバになった俺は、とっさに身を横に大砲の真正面から逃げる。
体の間近で起きた爆発に煽られながら俺はゴロゴロと転げ回って物陰に。
「なんだって……どうしてこうなった!? てか、俺はなんでアイツの名前が分かって……?」
いきなり殺されかけるわ、やっぱり知らないはずの事を知ってるわ。この意味不明な現状を壁にもたれて嘆く。するとボロいヒト型のマシンが回転ノコを振り回しながらこっちに。
「うっわあぁあ!? こっちくんなッ!!」
悲鳴といっしょに伸ばした手には、いつの間にか刃物付きの拳銃が。こんなのどこに持ってたのかって思いながら、俺はトリガーを引いていた。
一、二、三と放たれた光の弾丸が迫る敵のボディに弾け、動きを止める。
だけれど一体だけじゃないから、倒れたのを乗り越えて俺に攻め寄せてくる。
これに俺は後ずさりしながらハンドガンの引き金を引き続ける。
「どうしたどうしたブリードよぉ!? ガッツリビビってるじゃねえかよ」
あの重機、クラッシュゲイトのヤツ、いま何て言った?
俺がブリード? あの車だって?
そうだ。今拳銃を握った俺の手って、角張った金属のになってる。
それに目線も。これまで気づかなかったけど、ものすごい高さになってる。回りの壁になってる建物が、まるでビルっぽく飾られたアスレチックみたいなサイズ感なんだ。
そもそもが、俺はどうやってここまで?
体が勝手に動くのに混乱してる間にこんなことになったけれど、あんなに速く走れるはずがないのに。車そのものになって走ってたことにも気づけなかったって言うのか?
愕然とする俺だけれど、嘲笑う二足重機クラッシュゲイトは容赦なんてない。ヤツの命令で動く手下と奴自身の大砲が俺を追い立ててくる。
「来るな! 来るなよ!!」
逃げなきゃ死ぬって、その一心で俺は追っ手や大砲から逃げ回りながら、ブリードガンを後ろへ。
だけれどヤツら、まるで俺が足止めを撃つタイミングが分かってるみたいに物陰に隠れて、逆に俺には避けようがないくらいの攻撃を投げつけてくる。
それを三度も繰り返さない内に、銃が引き金を引いても反応しなくなる。
「そんな、弾切れッ!?」
六発分のエネルギーを吐き出してすっからかんのブリードガン。そのグリップからエネルギーマガジンを取り出して新しいのと交換を――
というところで間近に大砲が弾けて吹き飛ばされてしまう。
「ここまでだなブリード。手柄はオレがいただきだ」
銃も飛ばされて、周りは武器を構えた敵に囲まれて。これで終わりなのか。そう思った瞬間、地面を削るものすごい音が迫ってくる。
「やらせるものかあぁああッ!!」
無限軌道の轟音に負けぬ声を張り上げてくるそれはランドイクス。クリスの操る巨大戦車だ。
まさか、俺を助けるために傷ついた機体で!?
「ふん! お望みならまとめてスクラップにしてやるぜ!!」
ダメだそんな!
クリスを俺のために傷つけさせたりなんて、そんなのは……それじゃなんのために!
なにができる訳じゃない。でも何とかしなくては。せめて彼女だけでも守らなくては。そんな気持ちだけで俺は足の動きももどかしく駆けつけてくれるランドイクスヘ。
そして接触と同時に、俺たちは光に包まれた。
「ハッハハハハハッ! ざまぁ無いな!? これでオレがデモドリフトナンバー2の座はいただきだッ!!」
「無茶をしやがってからに……!」
「そんな!? クリス! 返事をしてくれクリスッ!!」
降り注ぐエネルギー弾の雨の中、不自然なくらいに届く声がある。
敵の勝ちを確信した声。対する仲間を惜しみ、無事を祈る声。
返事をしてやりたいが、それは俺の役目じゃあないな。
「ああ……大事ない。こちらは、クリスエスポワールは健在だ」
「なぁにぃッ!?」
「マジか!?」
「ど、どうなってる!? いや、無事なのは良いけれども!?」
「そ、それが私にも……ランドイクスも……いや、ランドイクスでは無くなっている?」
クリスが戸惑いながらランナーマシンを土台にしたようなコクピット内部を見回している。
彼女が口にしたように、そのコクピットがあるのは俺の中。正確には俺が一体化した彼女の愛機の中だ。
「クッソ! 仕留め損なったってなら潰れるまで撃ち続ければ良いだけだろうが!!」
戸惑いを振り切ったクラッシュゲイトが手下にさらなる攻撃を指示する。
対してクリスはけたたましい警告音を打ち払うように右腕を一閃。
合わせて俺の腕から放たれたエネルギー砲が横なぎに飛びかかってきていた敵兵を消し飛ばす。
この威力にクリスも含めた皆が呆然とする中、俺は逆の腕で飛びついてきた敵を刺し貫いて走り出す。
「赤い、馬ぁ!?」
その言葉は正確じゃない。
赤いのは砲撃にさらされて装甲が赤熱化するほどに熱を帯びているためで、本来の色は黄色と白だ。
そしてクロウラー部の変形した四つ足である事は確かだけれども、馬体を形成したその上には砲塔部が可変してできたヒト型の上半身がある。
つまり、俺は今ケンタウロス型の大型マシンと一体化しているというわけだ。
しかしどういうわけだろうか。こんな異常事態なのに、俺はやけに冷静で、視野もやけにクリアに見える。
「なんだか良く分からんが!」
その視覚をモニターで共有しているクリスがコクピットで身を翻して腕を振るえば、俺の体もまた同じようにその場で旋回。戦車の時は二門の主砲だった結晶質の馬上槍と後ろ蹴りで、飛びつく敵を返り討ちにする。
「クッソマジかよ!? だが、ダメージが消えたワケじゃ無いだろうがッ!!」
この俺とクリスのマシンの変化に、クラッシュゲイトは捨て鉢にクレーンキャノンを向けてくる。
だがクリスはその動きを見逃していない。たくましい足からは意外なほどの軽やかなステップで俺を操って砲撃を回避。返す刀で突き出したランスカノンからのエネルギー砲を浴びせかける。
「うぐおぉわぁあああッ!?」
「好機! 逃すものかッ!!」
カウンターの直撃に、クラッシュゲイトの鋼の巨体が煙を上げて吹き飛ぶ。
それを追ってクリスは床を深く踏み込んで突撃を――
「………デモドリフト様、撤退しろですと!? ええい、油垂れめがッ!」
しかし私たちの視界を、残っていた敵トルーパーが壁になって塞いでくる。
「邪魔をするなッ!!」
これにクリスは怯まず、ランスカノンを突き出し奥の敵幹部もろともに貫きにかかる。
この一撃で命じられるがままに壁をやった敵兵が吹き飛ぶ。が、クラッシュゲイトがどうなったのかは確認が出来ない。駆け抜けたエネルギー砲が遠くの空まで穿っているのだから倒れたんじゃ無いかと思いたいが。
とにかくこれで決着はついた。
そう安心したら俺の体はケンタウロスロボから弾き出されて、気づいたら車の運転席だ。
「それでそこのアンノウン。さっきの事、説明してもらえるか?」
「おいおい。そんな言い方は無いだろう」
「うん。彼のおかげで助かったんだから」
「お前らはそう言うが、だからって結果オーライってするには妙なことが多すぎるだろうが」
そんな俺を見下ろして、青い機体から警戒感のこもった声がかけられる。
クリスや赤の飛行機の乗り手がかばってくれてるみたいだが、引き下がってくれそうにない。
しかし説明と言われても、俺の方がして欲しいくらいなんだけれど。
頭を抱えたい気持ちのまま、俺はブリードの中で両手を上げるしかできなかった。