59:軽く蹴り裂く!
叩きつけてくるGに顔をしかめながら、ファルはさらに羽ばたく。
コックピットのその動きに従って、俺もウイングを上下。合わせて満載されたマイクロスラスターが全開する。
以前のそれに勝るパワーで飛翔する俺たちは前方に浮かんだ雑兵を次々と突き破る。
その有り様は、高速で打ち出された硬球と衝突した薄切り豆腐の如く。ほとんど抵抗らしい抵抗もなく粉微塵だ。しかもボールの側が推進器を全開に進んでいるからいくら群がられようが勢いは微塵も緩まない。
そんな俺たちの正面を、これまでのより三回りほど大きな機影が塞ぐ。が、バリアを全開に輝いたこの機体も、俺の機首によって風穴を開けられて真っ二つだ。
爆散した敵機の生み出す輝きを背に、俺はファルの動作を正確に再現してブレーキ。到着した戦闘エリアにハーピー型の機体を大の字に広げる。
「作戦エリアに到着……と、少し入り込み過ぎたか?」
ファルは胸を膨らます勢いでの呼吸を入れて辺りを見回す。
彼女のつぶやいたとおり、俺たちの回りは飛行タイプの敵だらけ。たった今切り開いて突っ込んだ突入路だけが開いた状態だ。
しかしその空隙も上がってきた新手ですぐに塞がれてしまった。
真下には凹凸の無い機械都市が増援の飛行トルーパーを吐き出し続けている。
アレがホウライの都市と基地を作り替えたデモドリフトの拠点だ。これまでのように山のように盛り上がっていないのは大半が海中に沈んでいるからなのだと。
目視とレーダーとで敵と自分たちの配置を確認。その直後にファルが羽ばたいて、俺たちは敵包囲網へ突っ込む。
遅れての射撃が俺たちのいた位置に殺到。ぶつかり合って弾ける。
そんな後ろの花火を、ファルは無視してトルーパーの群れを切り裂いて爆炎のひと筆書きを描いていく。
「数ばかりが多くて……大物は無しか」
「さっき真っ二つにしたヤツだけだな」
俺のひと言にうなづきながら、ファルは横合いから体当たりを仕掛けてきたのを俺に蹴り飛ばさせる。
トルーパーの群れを巻き込んで爆発したそれも含めて、見えるのは小物ばかり。だがそれだけにデモドリフトトルーパーは絶え間なく供給され続けている。
これは、こっちが落とされる予想図はまるで出ないが、どれだけ削ってもキリがないな。
「ここはひとつ、本体に風穴を開けてやらないとな」
同感だ。
デモドリフト連中が乗っ取って作ったあの拠点。その内部に司令官役の誰ぞがいるのがこれまでの定石。引っ張り出すか飛び出させるか。どちらにせよ状況を動かすにはやるべきだ。
心を合わせた俺たちは集ってくる飛行型トルーパーとエネルギーミサイルを吹き飛ばして急降下を。
そんな俺たちを迎え撃ちに真っ向から飛び上がってくるモノが。
正面の視界が埋めつくされるが、俺たちが見ているのはその先。デモドリフトのホウライ拠点しかない。しかし激突した俺たちが次に見たのは降下先のターゲットじゃあなかった。
「なにがっ!?」
機体を振り回す衝撃を払うように翼と頭を大きく動かすファル。
その動きをトレースする俺の正面には、砕ける金属塊が。卵か繭か。それらを脱ぎ捨てるようにして現れたのは翼のあるヒト型のマシン。
「あーら。スカイのイクスブリードだわね。ナニかと縁があることだわ」
「レイダークロウッ!?」
しなを作ってお久しぶりとあいさつしてくるのは仕留めにいくつもりの敵将その人だった。
まさか、向こうから飛び出してくるとは。
「予想外ではあるが、手間が省けたと言うもの……!」
蹴りに突っ込むファルが言うとおり。出てきてくれたなら討ち取りに突っ込まなくて良いって事。むしろ好都合だ!
「もう、せっかちなんだからー」
しかし自分から出てくるだけあって、手下を俺たちとの間に割り込ませて、その隙に離脱してくれてしまう。
さすがにこの突撃ひとつで決まるほど甘い相手じゃない。
空気を切り裂く甲高い音を後に残して飛翔する大将首を睨みながらファルも羽ばたき。
だがその方向は最短のルートではない。ヤツはもうすでに集めていた飛行トルーパーの壁の陰に滑り込んだからだ。
俺たちを狙った砲台からの攻撃で囲みに来たのを射たせ、その爆発に紛れて俺は空を走る。
エネルギーミサイルと機銃による弾幕をきりもみ飛行で掘り進み、離脱し遅れたのを翼と爪に引っかけ立ちきる。
固まって雲を作った敵たちを選んで突っ込む事でそれを繰り返し、雑兵の数を減らしていく。だがそんな小物落としだけに集中しているファルじゃあない。
幾度となく攻撃をかわし、群れを突き破ったその先にはレイダークロウが。
「がッ!? やるじゃないのッ!?」
「……ッ、浅いかッ!」
悔しげに顔を歪めて息を吐くファルが睨むのはまたトルーパーを盾にして離れるレイダークロウだ。
エネルギーミサイルをばらまくその腕と胴には俺の爪にえぐり取られている。が、必殺のつもりでこれだ。
俺たちの二の太刀を挫こうと放たれたエネルギー塊らをこちらは機首のバルカンで相殺。その広がりかけの破壊エネルギーの間に、ファルは躊躇なく機体を滑り込ませる。
機体強度を高め、防御力と耐久力を跳ね上げるエネルギーバリア。それを通してチリチリと装甲を焼く熱を感じながら、俺とファルは正面だけを見る。
驚き戸惑うように眼をチカチカとさせるレイダークロウ。スラスターを焼けるほどの勢いで噴かしているものの、もうここで最短距離を取った俺たちの方が速い。
そのえぐれた腹から胸にかけての装甲に俺は頭からぶちかます!
「おっごぉえぇッ!?」
ノイズで濁った悲鳴を上げて悶える空の大将。その腹に突っ込んだ頭から俺はバルカンをダメ押しに。
ゼロ距離どころか機体の内部を直にかき混ぜるこの射撃にレイダークロウが動きを止める。この状況で反撃を構えているあたり、さすがと言う他無い。が、上を行ったのは俺たちだ!
フルオートでの連射と突撃に負け、二つに折れて別れたメカオネエ。
これにファルすかさず機体を翻し、宙を舞う敵の上半身に爪をぶちこむ。
「あ、が、ががが……ッ!?」
「仕留める……トドメッ!」
獲物に食い込み捉えた蹴爪に込めた圧とエネルギー。それはレイダークロウの上半身をドロドロに溶かして押し潰す。
飛び散った溶解金属の飛沫は、それぞれが俺たちの叩きこんだパワーに負けたかのように弾け飛び、同時に泣き別れに墜落中だった下半身パーツも爆発に消える。
「これで二つ、私も金星持ちになるか」
そうだ。これでデモドリフトの四幹部の内、スクリーマーとレイダークロウを撃破したんだ。デモドリフトの将の半分を討ち果たしたぞ!
そんな感慨に浸っていたら、地上の拠点や残存兵士を襲う攻撃が降り注ぎ始める。
「エキドナが到着してくれたか」
余裕ある速度に落ち着いた俺の中からファルが見たとおり、この攻撃の出どころは後詰めである飛行空母エキドナと、ユーレカチームによる制圧射撃だ。
大将を討ち取った今、もう完全に後始末というか、掃討役にさせてしまう形になってしまったな。
「おうおうおう! なんだよお二人さん! もう大物仕留めちまったってのか!? アタシらが来るまで待っててくれりゃあ良かったモンを!」
「ハハハ……こっちもやるかやられるかだからな。取っておいてやれる余裕はないさ」
「ちぇー! 無双してくれちゃってよぉーお! 残りモンくらいはアタシらに譲ってくれな!」
「先行したまま大将撃破なんて大仕事の後なんだ。休んでいたらいい。と、ルーナは言いたい訳だ」
「ああ。クリスとルーナ、みんなに任せるさ」
仲間たちの気づかいに笑みを返して、ファルは母艦へ帰還するべく機首をそちらへ……
だがそのとたんに重々しい地響きが機体を突き上げ、海が波立ち始める。
「なんだなんだ!?」
これまでに無かった動きに構える俺たちの前で、何かが海を割って浮かび上がって来ようとしていた。




