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51:がらんどうの暴君

「はぁーあッ!? 意味が分からん! この転がってるのが敵の親玉で? もぬけの殻の本拠地に大事な装置と一緒に放置? まるで意味が分からんってッ!?」


 俺の後ろでルーナが大騒ぎしているけれど、俺だって混乱してるんだって。

 だけれども着地した俺の目の前にあるのは間違いなくブリードの記憶にあるデモドリフトの機体。それが大きく破損した残骸だ。

 うつ伏せに、五体がバラバラに外れたその有り様は、その場に膝から崩れてから関節部が外れてしまったかのようにも見える。

 その外れた関節部、そして破れた背中から見える内部は、部品がごっそりと失われたスカスカだ。


「しかもこんな……まるで抜け殻みたいで……拠点どころか王様まで、何もかもがスッカスカじゃあないかよ」


「たしかに、ルーナが言うとおりだよなぁ……」


 このデモドリフトの残骸こそ、この本拠地である惑星に対する扱いそのもの。そんな風に思える。

 本拠地もろともなボスの打ち捨てられっぷり。じゃあ幹部連中が王様って言ってたヤツがどこにいるのか……本当にいるのか……そもそもデモドリフトの本物なのかとか、ならアイツらは誰の命令で、どこから襲ってきてるのかとか。気になる事は山ほどある。けれども……。


「……これ、ゲートコアユニット、動かせるのか?」


「それな!?」


 こんな無造作に放置されているコアユニットが本当に使えるのか。俺たちが帰れるのか。それがまず第一の大問題だ。

 玉座っぽく拵えられたコントロールユニットに飛びついた俺は、アクセスを試みる。

 だが俺たちの不安などまるで的外れだと言わんばかりに、コアユニットからの返事があった。


「ウソ、あっさり!?」


「動かせたなら良いことじゃないか……って、この状況じゃ不気味さってかイミフさが増すよな!?」


 ホントにそれ。

 だけどもそんな気持ち悪さや疑問は棚上げしといて、ブリードの補助を受けてゲートの操作を続ける。

 あの稼動可能に持ってったゲートの行き先を俺たちの世界に設定。安定展開可能な座標は限定されてるが、俺たちの確保してるエリアの中にも行けそうな場所あり。ここにするか。


「ちょいと、このエリアって……」


「俺が巻き込まれた……四幹部が出てきたあの場所?」


 奇妙な偶然……じゃあ無いんだろうな。あの場所じゃなきゃいけない、そういう理由が何かあるんだろう。

 この座標データ含めて、コアユニットから取れるだけの情報はいただいて行こう。何が役に立つかは上役が判断してくれるモノだからな。


「よし、設定出来た! ついでにこのデモドリフトの残骸も情報としていただいて……」


 と、言いかけ振り向いたところで、俺はとっさにシーイクスに飛びついて合体シークエンスへ。俺を格納して展開変形した人魚型の機体を急加速に泳がせる。

 その直後、俺たちのいた空間をエネルギーの刃が薙ぎ払った。


「なっ!? いまさらかよッ!?」


 切り裂かれた後方を見やって息を飲んだルーナだが、すぐに歯を食い縛って腰をひねる。

 その動きに倣って俺は機体を翻し、巨大な腕を裏拳に。

 硬く、軽い手応え。それを残して吹き飛んで行ったのはビームを伸ばした金属塊。勢いを殺すものが少ない空間で壁に当たったその金属は、壁を跳ね返ってまたこっちへ。


「懲りずに飛んでくるってんならまた殴り飛ばして……」


 と、迎撃の構えを取りかけて、ルーナは咄嗟に握った拳を真横へ。それがまた軽い金属を殴り、俺の拳に手応えを響かせる。

 この一撃に乗せてルーナはその場で回転。アンカーも伸ばしたこれは大気の無い空間に渦を作る。

 そうして周囲を薙ぎ払いつつ飛び上がったルーナは天井を背に玉座の間を見下ろす。

 すると俺たちの真下に巨大な人影が一つ。こちらを見上げて立つそれは、エネルギーが漏れているのか関節部から光を溢し、ゆらゆらと体幹の定まらない姿を見せている。


「オイオイマジかぁ……アレから動くってぇ?」


 ゆらゆらと立つそれは、デモドリフトの残骸。抜け殻同然に転がっていたはずのそれが、光を帯びて立ち上がっているのだ。

 厳つく威圧的なヘッドパーツ。その光の無いカメラアイで見上げてくるその有り様は、なんと言うか亡霊というか……怨霊に取りつかれた鎧とでも言うべきか。とにかくそんなホラーめいた風体だ。


「……ハンッ! 驚かそうったってその手は食うかってのッ!?」


 ルーナはそんなものはこけおどしだと吐き捨て、こちらを見上げるデモドリフト・ファントムに殴りかかる。

 イクスブリード・シーの重量を叩きつけにいくこの一撃は、しかし床を叩き潰すだけ。当たる直前にファントムがバラバラに散らばったのだ。

 頭に、胸。前腕に足腰。五体どころか九つにまでバラけた機体はそれぞれに意思があるかのように動き、俺たちを取り囲もうと。


「そういうタネかッ!!」


 ビームを突き立てにくる腕や足を潜るように回避。その先に待ち構えていた腕を叩き落とし、さらに続いて来た足にアンカーを絡める。

 それを振り回し、破れた箇所から光を漏らす胸パーツに叩きつける。

 ここを狙って突っ込んできた腰パーツを空いた手でブロック。だがその瞬間に俺の体に痺れが。


「ガッ!? 別方向からもッ?!」


 そうしてこじ開けられた隙に背部に肩パーツ、魚型の下半身にもう一つの肩が食い付き断続的に痺れを打ち込んでくる。

 三つのパーツが連動しての代わる代わるのバインドに、俺の機体はもがくルーナに応えられずに固められる。

 そこへだめ押しとばかりに残る五つのパーツまでもが取りついて来て、さらなる痺れと圧力をかけて締め上げてくる。こうなった俺たちはもう、完全に網にからめとられた魚といった風だ。


「頭のパーツ……は、どこ行った?」


 ルーナが悶えながらも漏らした声に、俺はハッとさせられる。急いでチカチカと光の弾ける光学センサーを動かして辺りを見回せば、包囲に加わっていない部品はすぐに見つけられた。

 一つだけ離れたおどろおどろしい兜めいたヘッドパーツ。

 強面で威圧的なそれは俺たちが身動きとれずにいるのを認めると、すいー……っと滑るように離れて行く。その行き先は壁に灯った鈍い輝き。ゲートを制御するコアユニットだ!


「あんにゃろめ! 何をする気だってんだ? まさか、アイツまでアタシらの世界に参戦するつもりって事かッ!?」


 その読みが正解かどうかは別として、ヤツの好きにさせるワケには行かない!

 そんな気合を一発パワーを全開。内部のブリードをオーバードライブ!

 そのパワーでもってバインドを引きちぎった俺たちはアンカーをシュート。コアユニットに干渉しようとするヘッドパーツをぶち抜く。あまりにもあっさりと、呆気ないまでの頭部破壊。だから余った勢いでコアユニットにまで突き刺さってしまう。


「ヤッバッ!?」


 やっちまった! そう思った時にはルーナの操作でアンカーを引き戻していた。が、この加減を誤った一撃がスイッチになったのか、コアユニットの放つ鈍い輝きが強さを増す。

 不整脈のように光量を不安定に増減させる装置の様は、誰が見てもヤバいと感じるヤツ。だからルーナの動きは速い。そのヤバさを俺と確め合うより前にゲートのあった広間へ向けてターンしていた。

 そうして脱出路を急ぐ俺たち。だが、加速を全開に虚空を蹴る俺のフィンに何かが食いつく。


「この!? しつっこいッ!!」


 それは案の定デモドリフト・ファントムの腕パーツ。後ろには半分が吹き飛んだ頭を含め、残るパーツ全部が再び網に絡め取ろうと追いすがってきてる。

 もう一発やるしかない!


「リード? やるって何をッ!?」


 俺は合図のメッセージを一つ送って、戸惑うルーナに構わず俺の中のブリードを再びのオーバードライブ!

 これがイクスブリード・シーを急加速。さらにバインドエネルギーを打ち込もうとするファントムの腕を、そのパワーもろともに振り切る。


「間、に、合、えェェェェッ!!」


 その勢いのまま俺たちはゲートルームの隔壁を破壊。俺たちがギリギリに通れるサイズに開いたゲートへ向けて飛び込んだ!

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