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45:赤い翼の急襲

「いくぞリード、スタミナは充分か?」


 俺がもちろんだとも、と返すやコックピットのファルは褐色の翼を大きく羽ばたかせ、俺の赤い翼を加速させる。

 音を置き去りにしたこの飛翔は、山向こうのロンテアから迎撃に出てきた飛行型トルーパーの一団を切り裂き、爆炎の線を空に描く。

 相変わらずのご機嫌な羽ばたきからの凄まじい戦果。だがあまりにも飛ばしすぎでは?


「大丈夫。これくらいならまだまだ余裕だ。こちらの数が少ないのを侮られるワケには行かない」


 だがこの俺の心配にも、ファルは不敵な笑みを浮かべ、鋭い飛翔を後続の空戦隊を狙う一団へ向ける。

 数は小なりとは言え、ファルに着いてきている空戦隊も精鋭だ。俺たちで目を引いておくくらいで充分だろう。

 こんな形に最初のプランから外れて、イクスブリード・スカイを中心とした少数での強襲作戦が取られた理由はもちろん、デモドリフト側の怪しい動きのせいだ。

 トルーパーの数を増やして活性化しているロンテアと、その逆を行くホウライ。あからさまなまでに罠を仕込んでいますよと言わんばかりの偵察結果。これに対してライエ副長官らが出した結論は、双方への攻撃だった。

 戦力は可能な限り集中させるのが戦闘の基本。しかしだからこそ、誘い込んだ上で一網打尽の打撃を加える策を仕込むのもまた定石のひとつ。

 というわけでエキドナを中心とした戦力の大半は、当初の予定通りにホウライを海と陸から攻め、同時にイクスブリード・スカイを主力とした少数がロンテアにも仕掛けるという作戦が立てられたと。


「大物で一当てして、仕込みの一つでも引き出せば良いという話だったが、削れるだけ削ってしまっても構わないな」


 援護のエナジーミサイルが爆発する中、ファルの振るった足に連動した俺の蹴爪が大型のリーダー機を吹き飛ばす。

 いや、確かにこの暴れっぷりなら出来そうだけれども。指示されたのは奴らの動きの裏を探る事まで。それでこっちの精鋭部隊を削られるのは本末転倒ってもんだろ?

 情報を手に入った分だけ持ち帰って、ホウライ奪還に増援として合流するのだってこっちの計画の内なんだから。


「もちろん、無理をする気は無いよ。それでも作戦通りに行かない事はあるから、ね!」


 それはそう。こっちの戦闘プランを相手の完璧な立ち回りでひっくり返されるなんて事はままある。だがそれは逆もまた然りってヤツだ。プランが狂う事を考えていることと、狂わされるものだって見切りをつけてかかるのは違うことだろうに。


「山向こうで何か動いた!?」


 そんなことを考えていたら、ファルがデモドリフト側の動きを捉えた。

 デモドリフトの仕込みが動く。その兆しに向けてファルが羽ばたいて急加速。動き出す前に爪を叩き込んで仕留めにかかる。

 機体が炎を纏うほどのスピードを掛け合わせた俺の巨大な爪。これは確かに立ち上がりかけていた鉄の塊を切り裂き、掘り進んだ。

 だが機体が埋まるほどに深く食い込んだその爪は、蠢くスクラップに絡まれてしまったのだ。


「なんだ!?」


 必殺の念を込めた一撃を止められ、戸惑うファル。頭上に空いていた爪痕も自ずと噛み合っていく機械たちによって塞がれようとしている。

 これにファルは躊躇無くスラスターを全開。俺たちを取り込もうとする機械を焼き切り、全身を覆うバリアで弾き裂く!

 そうして閉じかけの脱出口をこじ開け飛び出した俺たちは、退路を塞ごうとする飛行兵を翼で切り裂きつつロンテア都市跡から距離を置く。

 そして俺たちが見たのは新たに産み出された山頂。いや、山のシルエットを変えるほどに立ち上がった機械の塊だ。


「あれは……オルトロス級の寄せ集め……いや、拠点そのものが動いている、のか?」


「お? 逃げられたか? まあそれくらいはやるよな」


 その異様な威容に呆気に取られている俺たちの耳に届いたのはどこかのんきな、どっしりとした声だ。

 蠢き続ける機械の山から発せられたらしいその声にはもちろん聞き覚えがある。


「レッドプール! お前がこっち?! 海のホウライ側ではなくてッ!?」


 ぶつかるだろうとしたらレイダークロウ。裏をかいた配置にしている可能性はあるかもしれないとは考えてはいた。が、まさかの配置にファルばかりか俺も一瞬面食らって、砲撃を避けるのがすれすれになってしまった。


「今まで通りに俺が海を守っててもよかったんだが、お前らが小細工してるって話だから、せっかくだしな」


 デモドリフトの手が入ったからか、曲がるようになったレーザー。俺たちがそれから逃げている間に、配置換えをした種明かしを。

 だがちょっと待て。今のあいつの言葉、聞き捨てならないぞ!?


「その言い方ではまるで、我々に作戦の情報を流してるのが……内通者がいるみたいではないか!?」


「おおっと、こいつはうっかり……まあどういう意味かは自分で考えて調べてみたら良いんじゃないか? ここから生きて帰れたらの話だけれどな」


「そんなことを言って……こっちの動揺を誘うつもりなんだろうが!」


「それはそうだが」


 しれっと思惑を語りながら攻撃の密度を上げてくるレッドプール。いやこれは、ヤツの仕業でもあるが、俺たちが疑念で集中を乱した事の方が大きい。

 ともかくここは生き延びる事に集中しなくては。全てはその後の事。レイダークロウと戦ってるはずのホウライ攻めのチームに合流するんだ。


「そのためにも、このデカイののコアに一発くれてやらないと!」


 ごもっとも! 背中から誘導弾で追われ続けて無事に逃げられる保証はない。撤退のチャンスを作らないとだ!

 ファルの提案に乗ってパワー全開に加速する俺たちに、選抜チームが虎の子のミサイルで援護を。味方の放った誘導弾の軌跡に混じって、俺たちは山のような拠点に突撃!


「まあそうくるよなぁ。やれちまうって思うだろうし、そうするしかないしなぁ?」


 誘導対空レーザーに射たれたミサイルの爆発に紛れて懐に潜り込んだ俺たちに、しかしレッドプールは悠々とした構えを崩さない。


「サイズ差で余裕の気持ちなのだろうが!」


 こちらも戦闘飛行機としては大きいが、向こうはそれ以上。このスケール差で痛撃を与えるのは、確かにそうそう出来るものじゃないだろう。

 だがこっちも伊達にデカブツ相手にやり合って来ていない。最初からデカイの狙いのつもりならば先程のようには行かないぞ!

 そんな俺とファルの気合いに応じて、スカイのジェネレータとブリードのジェネレータが出力をアップ。

 循環して相乗効果に高まり合うエネルギーが機体を満たし、強度と速度を爆発的に引き上げる!

 その高めたエネルギーを鋭利な機首、それ以上に鋭い爪に集中して前へ。そのパワーは熱したナイフがバターに入ったかのように、山のような拠点の外装を突き破る。

 この鋭利さはどれ程の金属部品、隔壁とぶつかっても鈍ることはなく、掘削の勢いは緩まない。程無くこの突撃は、イクスブリード・スカイの巨体をして広い空間へと届く。

 その中心には下半身を床に埋めたレッドプールの姿が。


「うおお!?」


 俺たちの姿に戸惑うそれもすれ違い様に切り裂き突き抜け、また壁を突き破る。


「浅かった! もう一度返しで突き破るか!?」


 とっさに横滑りに避けられたのを察して、ファルがもう一撃を考えるが、その案は却下だ。撤収前に食らわせてやるのならもうこれで充分だ。

 待ったをかけた俺にうなずいたファルは、敵拠点の貫通は待ったなしにやりきる。そのまま本体のダメージに静止した空戦トルーパーを切り裂いて、信号弾をばらまく。


「撤退! ホウライ奪還中のチームとの合流を図る! ……グゥッ!?」


 声と信号とで合図を送ったその直後、俺の機体を突き刺すような衝撃が突き抜ける。

 ファルの操作を受け、きりもみに衝撃を逃がして空中での受け身を取りながらダメージチェック。幸い機体表面のバリアで弾けて、そのものへのダメージは軽微だ。だが問題はこの攻撃を放ってきた犯人だ。


「確かに水空対応の艦船ではあるけれども……」


 ファルが俺のカメラアイを通じて睨むのは空に浮かんだ超巨大空母。オルトロス級をメインにしたのだろうレッドプールの操る飛行都市だ。


「ここは私たちが食い止める! 皆はエキドナへッ!」


 そしてファルは素早く殿を引き受けると判断して、浮かび上がった巨大な敵へ向けて羽ばたくのだった。

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