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44:お互いに予定通りにはさせないよな

「オーライ、オーライ……ハイストップー!!」


 誘導車両からの通信と光信号での合図を受けて、コックピット内のクリスと俺が揃って四つ足を止める。

 続いて俺たちの後方に繋がった牽引車がサイドガードを倒して積載物が流れ出す。土砂混じりに荒く詰め込まれていたそれらはデモドリフトドラード拠点を構築していたもののジャンクだ。

 それらの選別作業が始まったのを振り向きながらクリスが足を畳んで座れば、イクスブリード・ランドである俺もそれに倣って馬体を接地。背中にくくりつけられていた倒したてホヤホヤのトルーパーや、比較的キレイな部品など、利用価値の高い品々の荷を下ろす。


「助かるぜ、ユーレカのイクスブリード! パトロールにジャンクの大量回収まで!」


「なんの。どちらも必要な事だから合わせて行っているまでだ」


 そんな戦利品を引っ張りながら労ってくれる人たちに、クリスは槍を振って応じると、合体解除の操作を。それに従って俺の意識は巨大ロボケンタウロスから暗闇の中に収まった車へ。そして後ろから流れてくる空気を感じるや、後ろ向きに射ち出される。

 ポーンと擬音を付けられるような軌道で飛んだ俺は着地の衝撃を弧を描くように滑って打ち消す。

 そうして停止したところへピンク髪にメカニカルなアクセを着けたメイド、アザレアがバーニアを噴かして駆け寄ってきた。


「マスター、異常は? どこか不調を起こした箇所は?」


「いや、どこにも無いって。見ての通りだよ」


 メンテナンスツールを両手に飛びつくような勢いの彼女に、俺は苦笑を抑えきれないままにヘッドライトを瞬かせて答える。

 今の俺のトリコロールボディは土煙を浴びた汚れこそあるものの、どこにも何にも問題は無い。抉れた車体も無くした右前輪も後輪ももうすっかり元通りだ。

 修復事態は偽イクスブリードとの戦闘終了後、ランドイクス共々急ピッチで行われた。それでも連動した俺の右手足には痺れが残って、いまいち力が入らないって状態だった。

 これはランドイクスが損傷を埋めたパーツをすぐに最適なものへ変化させ、馴染ませていたのに対して、ブリード側の進みが遅かったからだと推測されている。

 そこへ先日リハビリも兼ねてってルーナが俺とブリードを合体させたんだけれど、それから融合解除するなりに、俺の手足から麻痺はさっぱりに消えていた。

 多分、俺が融合したことで、俺が持ってるブリードのパーツも揃ったから。だから穴埋めの修理パーツの変化が一気に進んで、本調子を取り戻せたんだと思う。

 これについてはルーナの思いつきが大正解だった事もあって、俺がブリード共々に完調に戻ったのを確認した直後にはそれはそれはこれでもかと言うようなドヤ顔をしていたものだ。


「ほーれ。三種の合体含めてもうさんざんに試したんだから、ブリードモードだろうがなんだろうがリードはバッチリなんだって」


「で、ですが……ですが……!」


「そりゃあまあ? 心配なのは分かるがね?」


 ちょうど今、アザレアに追いついてきてやってるように。

 そんな二人のやり取りに思わず笑みが浮かびそうになる……が、今の俺の顔は車のフロント部。ヘッドライトの点滅のリズム以外に表情は現れないんだよな。

 まあそんな風にやいのやいのと言い合う二人を置いて俺も分離。人間の体を運転席に座らせる。

 そして人の肉体も健康であることを見せるために車を降りたらば、頭上から羽音が降ってくる。


「ああ、ファルも」


「おつかれだリード。ドラードの復興と防衛にもう大活躍だな」


 隣に降りてきた褐色の翼のハーピーが広げたままの翼に、俺はハイタッチするように平手を合わせる。

 柔らかでさらさらとした羽毛の手触りが心地よいが、この柔らかさに覆われた翼が彼女に空を鋭く走らせ、スカイイクス、そして俺が合体したイクスブリード・スカイをも敵陣を突き破る程のスピードで飛ばすんだよな。


「どうかしたかな?」


「いや何でもない。頼もしい翼だなってだけさ」


 小首を傾げた彼女にそう答えたら、その大きな羽を伸ばして俺の頭をファサファサと。

 広がった羽毛で隠れて顔が見えないのでどういうつもりか分からないが、気を悪くしたワケでは無さそうだ。


「リードくんの完調が確認できたということは、止まっていた奪還作戦も再開ということになるな」


 馬蹄の音を伴ったその声に振り向けば、尾花栗毛のケンタウロス娘のクリスが。

 ピッチリしたパイロットスーツの上半身部を脱いで籠った熱を逃がしているその姿は、タンクトップの貼り付いた豊かなボディラインが湯気で煙って刺激的なんだよな。


「あー……その、クリス? 暑いのは辛いだろうけど、そこまで全開にされると、ちょっと……」


「お、おお! これは失礼した!」


 俺がどう言ったものかと迷っていると、察したクリスと、くっついてきていたサポートメンバーのコットンが慌てて緩く羽織るもので豊満な上体を隠してくれる。

 とてもまっすぐに向き合って会話の出来ない姿が隠されてホッと息を吐いた俺を、ルーナやファルが肘やら羽根やらでつついてくる。

 そんな俺たちを前に、はしたない姿で自分の振った話の出鼻を挫いてしまったクリスは軽い咳ばらいをひとつ。場を仕切り直す。


「リードくんの復調で再開されるだろう奪還作戦だが、残るはホウライとロンテア。どちらを先に攻略する事になるか」


「最初の予定じゃ海辺のホウライ奪還が次、つまりはアタシの出番だったろ?」


「で、山に囲まれたロンテア奪還がその次で、私のスカイは三番手だ」


 ルーナが任せとけとばかりに羽織りジャケットから覗く水着胸を叩く一方、ファルは体が鈍ってしまうと言うように翼を上下させる。

 確かに俺も二人が言っていた順の計画だと覚えている。

 ユーレカ、そしてドラードからの距離、そして出てくる兵隊の数。それらを見て決められた攻略順序だったはずだ。他の都市を巻き込んだ計画でもあるから、まずこの予定通りに進めるんだろう。

 その予定も俺が捨て身やった事でずれ込んでしまってるんだが……っと、口に出したらまた自虐かと怒られるから言わないでおくが。


「……まーたなんか湿気った事考えてるな?」


「……なんの事かなー? さっぱり分からんけども」


 まあ口に出さなくても見切られてるから意味が無いんだが。

 ルーナが俺を疑いの半目で締め上げてくるのに、クリスたちがまあまあと割って入って止めてくれる。


「……で? 予定変更の通達でもあったのか? アタシらのにはなんの連絡も入って無いけど?」


 いまさら攻撃順の話をするのはそういう事かと、ルーナは自分の通信端末を取り出しながら言う。

 確かにルーナの疑問ももっともか。そしてそれなら変更の通達か、変えると決めるための会議の通達なりが俺たち全員に送られてくるのが自然だろう。

 その疑問にクリスは首を横に振る。


「いや、可能性の話を耳にしただけさ。何も確定した話を先回りに聞いたんじゃない」


「可能性? それってどんな?」


「アンタにしちゃ回りくどいね。作戦変更を強いられそうな怪しい話があったってんだろ?」


 二人に早よ早よと促されて、クリスは苦笑混じりに聞きかじりだと前置きして語り出す。


「ホウライのデモドリフト拠点から動きが無くなっていると言うのだ。逆にロンテアから出てくる飛行型のトルーパーがその数を増しているのだと」


「確かなのかい?」


「……話していたのは偵察班が上層部に報告しているところだったよ」


 だとすると、これはどっちから攻略すべきか、ライエ副長官たちが考え直していても不思議じゃないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 怪我というか麻痺が治って良かったですね。 わーどちらへ先に向かうか悩ましい!
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