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43:これでいい。いや、これがいい

 ドラード市跡に設けられた仮設空港。

 比較的瓦礫の少ない範囲を片付け、地ならしして作ったそこに停泊しているオリジナルの飛行空母エキドナ。その医務室のベッドに、俺ことリードは寝かされている。


「はーい。水分摂りましょうね」


 そう言ってベッドを挙上させ、吸い飲みを差し出してくるのはもちろん、たっぷりとした朱赤色の髪を持つ女医、パーシモン先生だ。


「あ、どうもパーシモン先生。でも俺、左腕は全然……」


「ん?」


「……いえ、何でもありません」


 差し出された吸い口に俺は無事な左手を持ち上げて受け取ろうとする。んだが小首を傾げた先生の笑顔に負けて、吸い口を口にする。

 ほんのりと甘いいつももらっている果実水が渇いていた喉に染みるようだ。

 そこで空気の抜けるドアの開閉音が鳴って、医務室に訪れる人が。

 食事の乗ったトレイを手にしたピンク髪のメイド。メカニカルなヘッドドレスや耳パーツの目立つ機械人アンスロタロスアザレアだ。


「ドクター。マスターのお世話は私がやります。ドクターは他の負傷者のケアをどうぞ」


「あら。一番の重傷者はリード君で、まだベッドに安静にしていなきゃならないのもリード君くらいだもの。メカの修理まで担当している貴方たちよりも手は空いているから気にしないで」


「あの、だから俺、利き手じゃないけど左腕は問題なく使えるんだけど……?」


「いえ。無理はいけません。やはり右手足に痺れが残っている以上はお世話をさせてもらいます」


「そうよ。人に頼るのは何にも悪いことじゃ無いんだから。遠慮しないでいいのよ」


 二人が無表情と笑顔で対峙するところへ、一応の主張をしてみたら、今度はぴったりと息を合わせて来るんだもんな。

 そのままアザレアは俺のベッドに寄り添うや、食事を口に運び始める。

 前の、偽イクスブリードを使ったスクリーマーを倒したあの戦いから、俺はこんな風にお世話されっぱなしだ。

 合体していたブリードが負った、車体右側を抉られるダメージ。右前輪後輪を無くすほどの損傷を負った機体から一体化を解いた俺は、右手足が無くなってはいなかったけれど、痺れて力が入らなくなっていた。

 まだ完全じゃ無いけれど、ブリードの修復の進行に合わせて回復が見えている。その事から連動による一時的な物だって診断されてるから、俺としてはこの程度で済んで設けものだったなと思ってる。頭から爪先までの右半分が痺れたワケでも無かったんだし。

 だけどそうじゃなかったのがアザレアやパーシモン先生。それにイクスビークルに乗って戦うメンバー達だ。

 クリスなんて俺が一人で立てなくなってる姿に涙目になってたし。ファルとルーナからも無言で小突かれるやら、ヘッドロックをかけられるやらだったし。

 そんな風に心配をかけてしまった。その事については申し訳ないと思う。

 そうやってつらつらと思い出している内に、アザレアの運んできた食事は全部俺の胃袋に収まってた。手間を増やしてすまないって気持ちやら、それを付け加えた恥ずかしさやらで味に集中出来ないのもあるんだが。


「さあ、マスターお休み下さい」


「いや、食休みしとけってのは分かるけど、杖あれば歩けるし、寝てばかりもいられないって」


 布団を掛けてどこまでも半身不随の重傷者扱いしてくるアザレアに返せば、彼女は歯ブラシを用意する手を半ばで止めて、固まった顔をこっちに向けてくる。そんな悲しそうな顔をしないでくれよ。俺が悪いことしてるみたいじゃないか。いや、麻痺するまで無茶したのは確かだけれども。

 それに根負けした俺は、されるがままに食事からその後の始末までアザレアにお世話されてしまった。

 こういう扱いされてると、やっぱり本当の俺って赤ちゃん同然な空白野郎ブランクでしか無いんだなって、そんな気分になってくる。

 皆は奪還したドラードの防衛に再建にと働いてるって言うのに、俺は負傷・後遺症があるからってこんなゆりかごに……


「おうおう。しけた面してんじゃないか。危うく相討ちに敵の大将を潰したヒーローとは思えないね」


「ルーナ……いつの間に」


 気がつかない内に医務室のドアを潜っていた鯱人オルカン娘は肩に引っ掛けたジャケットを靡かせながら俺のベッドにまで。

 そうして俺の頭を掴んで向きを変えさせてくる。


「マスターに何を!?」


「……ったく、なんだいなんだい。カビでも生えたみたいになっちまってさ。見舞いに顔出す度に湿気てんじゃないか」


「そうかな? よくしてもらってるけど? 痺れも引いてきてるし」


「そうかね? ならそろそろ一回天日干ししといた方が良さそうな頃合いって事かね?」


 俺の返事を聞いたルーナは、同意を求めるようにパーシモン先生とアザレアに目を向ける。


「そうね。リハビリの時間には少し早いけれど、順調に回復しているしいいかも知れないわね」


「……では車椅子を」


「あーいらないいらないって。なぁリード?」


「あ、ああ。もう杖で充分だから」


 女医先生のオッケーを受けて、アザレアがいそいそと動きだそうとする。その動きを制したルーナに俺はうなずく。

 するとルーナはよし来たとばかりに俺をベッドから引っ張り出した。


「ルーナ!?」


「いや、俺なら大丈夫。この通り」


 その荒っぽいのにアザレアが非難めいた声をあげるが、俺は心配無用だと前のめりになった彼女を制する。実際ルーナは見た目の荒っぽさに反して、俺が弱った右手足から崩れないようにしっかりと支えてくれているんだ。

 で、支えられた俺はストップと出した手に杖を受けとると、左半身と杖に体重を預ける形で医務室の出口へ。この間ルーナはスピードこそ合わせてくれているが、俺の支えからは完全に手放している。


「じゃ、いってきます」


「はい。気をつけて」


「お待ちを。私も同行します」


 パーシモン先生が出かけるのを快く送り出してくれる一方で、アザレアはいそいそと俺について来ようと。


「なら転びそうになったら支える役目は任せるかね。いきなりおんぶなんて甘やかすもんじゃないよ?」


「ああ、そうだな。アザレア、それで頼めるかな」


 アザレアが望んで背負い込んできようが、重荷になりっぱなしなのはちょっと……な。

 そんな気持ちでルーナの提案を後押ししたら、アザレアは元から固い顔をさらに固くして頭を下げてくる。


「……マスターがお望みならば」


 不本意ながらなんて声が聞こえてきそうなカチカチの態度だけれども、とりあえずは了解してくれた。

 それでよしとしようと俺は肩をすくめるルーナと目配せして、改めて医務室の外へ。

 するとそこへ蹄の音と羽音が俺の耳に。


「あ、リードくん!」


「あれ? ルーナも? 先を越されたのか」


「タイミングの噛み合いさね」


「クリス、ファルも。みんな毎日見舞いに来てもらっちゃって悪いな」


 尾花栗毛の鍛えられた馬体と隼の翼を急がせてやってきた彼女らを迎えると、彼女達はなんのとばかりに頭を振る。


「水くさい事を言ってくれるな。私たちは機体をひとつに、力を合わせて戦う仲間じゃないか」


「そうそう。チーム・イクスブリードという陸海空を守るひとつのチームなんだから」


 本心から仲間だからって言ってくれて、本当にありがたい。自分でも役に立ってるんだと、必要とされてるんだという事が信じられる。たとえブリードとの合体能力しか役立つ物が無かったとしても。


「……合体位しかお役に立てないけれどー……なーんて考えてるなら、そっち方面でこき使ってやろーか?」


 そんなピタリと読み当てた言葉にギクリとした俺に、ルーナが肩を抱くようにして、腕を回してくる。


「図星みたいじゃないか。ってワケで思いっきり働いてもらうのは決定だな」


「ルーナ、マスターはまだ……」


「過保護なんだよメカメイドちゃんは。心配しないでも、合体のリハビリをかねてアタシのイクスブリードになってもらって働いてもらうだけさね」


 そうしてアザレアの抗議の声をさらりとかわすと、肩を抱いたまま俺を格納庫へと連れていくのであった。

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