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42:共有されるもの

「まったくざまぁ無いぜ、スクリーマーの野郎。あっさりやられちまって口ほどにもねえ」


「あら? アンタがそれを言うのクラッシュゲイト。せっかく出来た拠点をポイッと投げ捨てといて」


「あれはスクリーマーの野郎がやられたせいですー! あの野郎が勝手にイクスブリードモドキを着込んで策を押し付けて来たからですー! オレだけでなら守りきれてましたー!」


「いやームリだろ? どっちにしろあの拠点は落ちてただろ。ま、スクリーマーのでしゃばりでアイツがやられる被害まで増えたってのはマジだけど」


「はー!? ソイツは聞き捨てならないぜレッドプール!? あの野郎が拠点の守りよりもレジスタンスごときの始末に欲張ったからこんなことになってたんだってーの!」


 喧々諤々と言い合うデモドリフトの幹部ども。私、ドクターウェイドの研究所で私の頭上に覆い被さる機影は、いつものから一つ足りない。

 奴らが口にしているとおり、スクリーマーが戦いの中でその機体を焼き尽くされたためにだ。

 コイツらも散々に嘲笑っていることだが、まったく情けない話だ。私からイクスブリード量産試作機、構造確認用のコピーモデルを徴発しておきながら倒れるとは。まあ、単純なコピーで、当社比22パーセント性能アップどころか、再現不能なパーツを代用品で補ったモノだったからな。オリジナルに競り負けること自体ら無理からぬ所ではあるが。

 だがあんな風に叩き潰されて、向こうに回収させるとは! おかげで満足にデータも取れなかった。その上に私の技術を想定外の早さでばらまく形になったではないか!

 まったく忌々しい!


「それにしてもドクター。アンタあんなの作ってたのね?」


「そーいやそーだ。まーコソコソとやってくれやがって」


「アレで俺たちに対抗しようとか考えてたってワケか?」


「いやいやいやいやとんでもない!」


 スクリーマーへの怨み節を腹の中で捏ねていたらば、いつの間にか矛先が私の方に。こっちもまだ早い。怪しまれるのはともかく、切られるのはまだ早い!

 急ぎ否定する私の言葉に、しかし生き残りの三幹部がカメラアイに灯した光は冷ややかだ。


「そもそも協力の見返りにデモドリフトの技術が与えられるのは約束どおりのはず! 単純なコピー程度の、そちらに還元するには早すぎる試作機体を作っていただけ……それを私から無理矢理に取り上げたのはスクリーマーだぞ!」


「なるほどな。目ざといアイツがやりそうなこった。それで抜け駆けしようとして失敗してんだからまた情けないぜ」


 だから私は悪くない!

 そうまくし立てる私に、クラッシュゲイトが納得の言葉を吐く。


「……ま、そう言うことならそう言うことでいいわ」


「だな。とりあえずここはそれでいいや。即席のよりはパワーの出せるオーバーボディを注文出来るって分かったワケだしな」


「う、うむ! その時は任せてもらおうか!」


 一人の納得を合図としたかのように、残るレイダークロウ、レッドプールも追及の言葉を収める。だが私を見下ろすその目には未だ濃い疑惑の色が見えている。


「……じゃあそう言うことで、ドクター? お願いしておいたのは用意出来ているのかしら?」


「あ、ああ……うむ。今出してやる」


 胆が締め上げられるような気分を味わいながら、私は手元の端末を操作する。このコマンドで天井が降りてきて、その上に載せていた物を鉄巨人三名の前に。


「良いわねお願いしたとおりに落ちは無し。さすが、抜かり無いわね?」


「お褒めにあずかりどうも。しかし、こんなものをどうするのだ?」


 視線だけでスキャンしたのだろう。瞬時に検品を済ませたらしいレイダークロウが満足げにうなずく。

 頼まれるままに集めたこれらは、デモドリフトトルーパーの手足の一部や、門武守機甲に配備されたバトルビークルの装甲など。言われるままに調達したモノだが、正直なところただのジャンクの寄せ集めだ。私が手掛けたものを除けば……だが。


「どうするのかは見てのお楽しみだわよ。ほらアンタたち、気乗りしなかろうが必要な事なんだから!」


 そんな私の疑問に、レイダークロウは「な・い・しょ」とばかりにしなを作ったジェスチャーを返してくる。

 続いてのたのたと足踏みするクラッシュゲイトとレッドプールの尻を叩いてパーツの寄せ集めに向かわせる。

 そして三名で三角形を描くようにパーツを取り囲むと、胸の装甲を外してその奥にしまった心臓部を露出させる。

 暗い紫色に輝く結晶体。三つのそれを共鳴させるように明滅させた三幹部は取り囲んだ形のまま立ち尽くす。

 程なく瞬くコアの間を光が渡って結ばれる。そしてその中点に光の玉が生じるのだ。

 三幹部に産み出されたその光は、ゆるゆるとパーツの寄せ集めに向けて降りる。そしてパーツの一つに宿ると、暗い紫色の結晶に変わる。

 三幹部のコアと同じもの。それを宿した部品を中心にパーツはカタカタと震えて自ずと集まりだす。

 部品の一つが繋がる毎に、どんどんと速度を上げて固まっていくパーツ達。やがて塊を大きくした機械達は巨人を形作っていく。

 コアとフレームが完成した段階でその巨人は一度その形を組み換えて四輪の車両へ。そして剥き出しのそれを覆うようにして外装が被さっていく。そして出来上がった車両はもう一度人型へ変形。その姿は色こそ違えど、消え失せたはずのスクリーマーそのものであった。


「う、ぐあぁあ……お、おのれぇえ……」


「よお、スクリーマー。吹き飛ばされて目覚めた気分はどうよ? オレたち未体験だから分からなくてよぉー?」


「そぉねえ。後学のためにその辺は聞いておきたいわ。アンタなら気構え出来るくらいは教えてくれるんでしょ?」


「あーそうだなー。そう言うことならクラッシュゲイトが一番手じゃなくってよかったな。コイツの説明じゃ参考にならなさそうだし」


「はー!? 出来ますー! それくらいのは出来ますー!」


「じゃあ探していたフラグメントの一つであるキャノンを手に入れた時の感想は?」


「え? なんかこう……すごく、すごい威力だった? パワーを感じるってーの?」


「ほーれこの程度だもんな」


「き、貴様ら……」


 呻くスクリーマーを弄っておきながら、そっちのけにしてやいのやいのと騒ぎ立てる三体。だがそんな事はどうでもいい! スクリーマーだ、スクリーマーだぞ!? 負けて吹き飛んだはずのスクリーマーが寄せ集めの中から出てきたのだぞ!?


「ば、バカなッ!? ハッキリと意識を保ったまま? 寄せ集めから新造されたボディに?」


 堪らず叫んでしまった私に、デモドリフトのロボットたちは思い出したように視線を向けてくる。


「ああ、驚かせちゃったわね。でも何の事は無いわ。アタシたちは四人で補完しあってるのよ」


「ま、バックアップをやり合ってるだけだから、頭の中身までは共有しちゃいねえがよ」


「それはクラッシュゲイトを見れば分かるだろ」


「なんだとッ!?」


「……とにかく、我々は一人だけでも生き残りさえしていれば、こうして復活出来るというわけだ」


 未だに色がまだらなスクリーマーがタネ明かしを締めくくる。だがそれが本当ならば、コイツらを出し抜くのは面倒極まる。恐ろしく難易度が高くなるぞ! 今回のように戦力の減少から私に主導権を持っていくことも出来ない。また仮に誰ぞからコントロールを奪えたとして、気づいたヤツが破壊して復活させるような事もあり得る。


「しかし、油断していたとはいえ……まさかここで消し飛ばされるとはな……まったく忌々しい……!」


「あーら、やっぱり頭が熱暴走起こしそうなくらいにイライラに煮えちゃう感じ?」


「目覚めた今となってはな。復活があるとわかっていても消えていく恐怖は、焼ききられながら冷えていくような感覚だった。それを奴らに刻み付けられた屈辱が、今は怒りになっているところだ……!」


 からかうようなレイダークロウの問いかけに、スクリーマーはジャンクパーツの再構築中でぎこちない指を繰り返し握りなおしながらうなずき返す。この強がりも何も無い現状語りに、レッドプールは肩をすくめてみせる。


「素直な感想どうも。それにしても厄介だよなレジスタンスと、現住生物軍の……門武守機甲だったか? オレたちもやられかねないってんだから」


「ああ。過小評価が過ぎたようだ。仮にもかつては我が主に痛手を与え、その機体の一部をこちらに散らす元凶となった反逆者どもだ。その残骸をリサイクルしている程度の連中という評価は改めねばな……」


 神妙に評価を修正するスクリーマーに、レイダークロウとレッドプールは共感を示す。がその一方で逆の動きをするのがクラッシュゲイトだ。


「おお? なんだよビビってんのか? こりゃあオレ様が手柄をいただいちまうかー?」


「好きにしろ。私はどのみち新しい機体ボディの調整もある。陰ながら動く事にするさ」


 しかしスクリーマーはクラッシュゲイトの挑発をさらりと流す。そしてそんなスマートな態度に反したギラリと光る目を私に向けてくるのであった。

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