41:死ななきゃ安いってね
こちらからのランスチャージに合わせての突撃。
あえて向こうが槍を残した右側から仕掛けた俺たちは、爆音を立てて伸びた鉄杭を弾きいなす。そのまま馬蹄を轟かせる下半身で火花を散らしてすれ違った俺たちは互い違いに弧を描いて再びの突撃姿勢に。
と、正面に構えたかと思いきやあちら側からの砲撃が。これを応射で相殺。さらに逆のランスカノンもおまけにつけておく。
これを強靭化した装甲で受けたところへ、さらに砲撃を連射しながらクリスは踏み込む。
これに偽者は勢い失いつつあった足を逆にバックステップ。それでこちらの槍を外し、パイルカノンの先をこちらに向ける。が、杭と砲が放たれるよりもクリスが払い捌く方が早い。
だが偽イクスブリードは気にした様子もなく四つ足を軽やかに後退を。だがクリスの足は槍の重なる距離から逃さない。
「ここは私たちが引き受ける! 再編を急ぎ、本来の任務へ!!」
左右の槍と砲を小刻みに偽者の動きを封じつつ、クリスは周囲へ声を張り上げる。
これを受け、偽者の襲撃に打ちのめされていた別動隊は、立ち直るために引き裂かれた隊列の繋ぎ直しを急ぐ。
対して偽のイクスブリード・ランドは槍を俺たちとは別方向へ向けようとする。が――
「よそ見する余裕がまだあったか!?」
それを見逃すほどクリスの槍捌きは甘くない。意識の逸れた隙にパイルランスを叩き抑え、前足での蹴りまで見舞ってやる。
当然蹴った側として、その衝撃分の間合いを詰める事も忘れない。
「誰が……何が扱っているのかは知らん。その理由も同じだ。だが、これ以上偽者が好きに出来ると思うなッ!!」
叫び、槍を振り下ろすクリスに、偽イクスブリードもパイルランスをぶつけて受ける。互いにランスの根本をかち合わせた形になった俺たちはそのままつばぜり合いに押し合う。
「……ク、クク……ずいぶんと威勢が良いじゃないか。反逆者に乗っかった現住知性体が」
「その声、確かデモドリフト幹部の……スクリーマーッ!?」
偽者の中から漏れた嘲笑に、対峙しているモノの中身を察した。同時にレジスタンス315を巡る戦いで出し抜かれた苦い記憶も頭の中に甦る。
「貴様が動かしていたのかッ!? そんな紛い物をッ!?」
「知らんだのと言ってた割には興味があるようじゃないか? お察しの通りだが、紛い物とは辛辣な……」
クククとまたケンタウロスロボの中からスクリーマーが忍び笑いを溢す。そうしてまた後退しつつ、自分の大砲を別動隊に向けようと。
それをクリスは槍で弾き上げ、間を詰めた勢いを乗せた前足蹴りを見舞う。
「やるじゃないか。こなれている」
「あいにくと、我が氏族にとって槍試合は幼子からでも遊びに嗜むものでな!」
こちらのホームに上がって来たことを後悔させてやる。そんな勢いでクリスが繰り出す左右の槍と蹴りはスクリーマーのケンタウロスロボに返しの手も打たせない。やはり同族を象った機体の扱いだけあって、技にも一日の長があるって事か。
「お前が乗り込んでいるのなら、どうせそれもこれまでの様に機械兵を寄せ集めるなりして作ったのだろう!? 二度とモドキ等を用意しようと思わない様に叩き潰してくれる!!」
乗り手……いや使い手? まあどちらでもいいがそこから偽者の出どころに見切りを着けたクリスは、さらに攻めの手を苛烈に。
この怒涛の勢いに、これまでも封殺状態だった偽イクスブリードは、もう打つ手無し。致命打を防ぐので手一杯になっている。が、この流れは――
「トドメだッ!!」
クリスが深く馬蹄を踏み込ませてのランスカノンが、敵ケンタウロスロボの胸を防御ごとに撃ち貫く。が、ヤツの残った槍もまた俺の上体と下体の境目に。そう認識した直後には鋭い痛みがゆっくりと俺の機体を刺し貫いていく感覚が。
「ガッ!? しまった……決着を急ぐあまりに……」
「……なんだコックピット「も」狙ったんだが……欲張りが過ぎたな。これではクラッシュゲイトを笑えん」
「何を……!? リードくんッ!?」
何て顔してんのさ。まだ敵は目の前にいるんだぞ?
まあ、クリスが焦るのも無理ないか。どうにか機体を前に沈めて、クリスのいる所の直撃は避けたけど、俺の所には入ってるのがダメージ表示として出ちゃってるし。
いや、でも意識はハッキリしてるんだ。偽者と分離して逃げ出そうとしてる白黒の車を逃がしちゃいけない。
「だがリードくんッ!? いや、分かった! ここは一刻も早くッ!」
「おいおい。良いのか? お前たちは味方が欠けたら動けないのだろう? それも傷ついたのはお前たちが我々に対抗できる力の要なんだぞ?」
「黙れッ!! 私の大失態で負わせた傷は、お前を手早く打ちのめした後で責を負わせてもらうッ!!」
そうだ。それで良い。惑わされちゃ行けない。今は私なんかよりも、デモドリフトの幹部を仕留めるチャンスに集中しなくては!
クリスの放つランスカノンをスクリーマーは変形の勢いでもってかわした。だが、そうして逃れた先にクリスはもう狙いをつけているぞ!
だがその砲撃は、上にはね上がる形で外れてしまう。
「バカな!? もう分離しているというのにッ?!」
「お前のだってブリードが分離していようが動くだろうに」
スクリーマーを内部から失いながらも、偽者は私たちに組み付いくる。殿のつもりか、主人を庇いに入る偽者に、クリスは歯噛みする。
このままヤツを逃がしては行けない。ならばやる事はひとつ。
「リードくん!? そんな、損傷した状態で無理に出力を上げては!?」
機体の破損に構わずパワーを全開。その威力でもって槍を突き刺した偽者の機体を熔断する。
「なんだとッ!? 無茶苦茶なッ!?」
信じられないと、スクリーマーが足を鈍らせてくれたなら、無茶をしている甲斐もあるというものだ。その致命的な隙に、俺は漲るパワーで輝くランスカノンの穂先を向けてその力を解き放った。
「がっ!? バッ?! ぐぁあ……」
太い太いエネルギーの奔流に呑み込まれたスクリーマーは、溺れるような苦悶の声を上げながら光の中に熔ける。
そうしてもがくままに飛び出した腕、後は原型も分からない程に焦げひしゃげた部品だけが、ヤツがこの場にいた証として残った。
やった。勝った!
デモドリフトの寄越した幹部を一人、この場で仕留めたのだ!
「リードくんッ! 分離をッ!? 早く!!」
クリスの操作で槍を手放した私、いや俺……は、普段は隠れたその手で機体に刺さったままだったパイルランスを引き抜く。
しかしだな、クリス。変形に支障も出るしこの処置は必要だとしても、まだ敵拠点攻略にイクスブリードは必要なのだから休むワケには行かないだろう。
「この状態で、リードくんが抱え込むものではない!」
そうメッセージも送ったのだが、クリスの手は止まらずに合体強制解除の操作を。
向こうから拒否されてはなす術も無し。イクスブリード・ランドのケンタウロスボディから吐き出されるみたいに分離させられてしまう。
俺の車体が土埃を上げながら着地するのと同時に、イクスブリード・ランドも戦車に戻れぬまま足を畳んでその場に擱座。それからわずかに遅れて、ぴっちりなパイロットスーツ姿のクリスがハッチを開けて飛び出した。
「リードくん!? しっかり! 救援は呼んである! 傷はあるが……まだ、必ず助かる! だからッ!!」
そうして蹄の音も高らかに、俺の車体に駆け寄りすがりついて、オイルまみれになるのも構わずに意識を保つように呼び掛けてくる。
「大げさだな……これくらい、大丈夫さ。心臓になる所を抉られたワケでも無いんだからさ……」
「右側をこんなに削られて、何が大げさなものか!!」
そう正直な見立てを伝えたら、ボンネット部分に平手を叩きつけられてしまったのだった。




