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40:悪意のコピー

「どういう事だ!? なぜ私のイクスブリードがもう一機、それも敵方にッ!?」


 クリスは困惑を口にしながらも、俺の中でのギャロップを緩めない。

 イクスブリード・ランドに酷似した敵機による別動隊への奇襲。その報せを受けた俺たちは、ライエ副長官の指令で襲われているという部隊の救援に急いでいた。

 大砲を担いだクラッシュゲイト、それにヤツの抱えた拠点を相手にしてる最中の事で俺もクリスも踏み出すのは躊躇った。が、俺たちの背中を狙うのを阻み、「行け」と言うルーナとファルに背を押されては任せないワケにもいかないってモノだ。

 しかし、この味方の頼もしさは良いとして、分からないのは偽イクスブリード・ランドの事だ。

 まさか、ランドイクスかそのベースになるオリジナルマシンがあって、デモドリフトの手に落ちたのか? クラッシュゲイトの取り込んだオリジナルマシンの様に。


「……ランドイクスたち、イクスビークルと母艦エキドナはそれぞれ一機のみしか存在しません。レジスタンスベースの生き残りを当たれば、もう一機組める程度の予備パーツなりは見つかる可能性はありますが、デモドリフトが手に入れて使えるモノに覚えは無いです」


「リードくん!? いったい何を?」


 いきなりに返答を口走った俺にクリスがぎょっと目を剥く。が、俺の方がいったい何をって感じなんだが。いや、でもこれは前にもあった。俺に融合してるっていうブリードの側が喋ったんだ。


「いや、すまない。ブリードのデータが急に……でも今言ったのはホント。リードの中にもう一機のランドイクスがあるってデータは無いよ」


「そうか……しかし、であるならばなぜ? 今までもあったトルーパーを寄せ集めたのを私たちの偽物に仕立て上げたのか?」


 俺らしい口調での返事に、クリスは一瞬ホッとした表情を見せる。が、すぐに戦いに臨んだ引き締まった顔に。

 そうして口にした推測が多分一番近いんだと思う。


「それか、コピーとして作ったのか、作られてたのを盗み出してきたのかも……」


「まさか!? 新造で私たちのイクスブリードと間違うようなパワーのモノが出来るなんて……いや、デモドリフトの将たち!?」


 やっぱりクリスなら、クリスたちならこれまでの常識に囚われないで分かってくれたか。

 今の門武守機甲の技術で遺物オリジナルに勝るマシンは生み出せない。それはまだそうなのかもしれない。が、「まだ」の話でしか無い。

 ブリードと同等以上の技術力の持ち主であるデモドリフトなら。あるいはそれらの技術を授けられた何者かなら、イクスブリードのコピーを作成できてもなんの不思議も無いはずだ。


「しかし、量産のバトルビークルとて手本があるからと一朝一夕に組み立てられるものでは無いのに……攻勢を仕掛けるまでの競り合いこそあったが、その期間で仕上げられるものか?」


 クリスの疑問ももっともだ。製造出来る技術を受け取り、それを実現可能だったとして、ポンポンと完成品が飛び出してくるワケがない。

 あっという間に山のような拠点を建造出来るデモドリフトなら、不可能では無いのだろうが。だとすればもっと早くにやっていないだろうか。今俺たちが受けているこのショックと動揺で、これまでの勝敗にひっくり返るものだってあったはずだ。

 こちらにヤツらに手を貸すものがいる?

 向こうのレジスタンスであるブリードとその味方のマシンが、こちらの人々を乗せて協力している様に。

 だがこれは俺の当てずっぽうでしかない。今はそんな不確かな事で、クリスの集中を削ぐべきじゃないだろう。


「……見えた!」


 破壊の黒煙を正面に据えたクリスは、望遠の映像に偽のイクスブリード・ランドと呼ばれた標的の姿を捉えた。


「なるほど、言うだけはある」


 クリスが納得したとおり、別動隊を文字通りに蹴散らすケンタウロス型のマシンは、今の俺にそっくりだ。

 無限機動のユニットを組み換え伸ばした力強い四脚。それに支えられた車体部から変じた強固な下胴。そして砲塔部が起き上がった両腕にランスを握った騎士の上半身。

 ランスカノンが結晶質でなく、パイルバンカー添えの大砲であること。そこを初め、他にも細々とした部位が代用品らしいのを除けば、外面はイクスブリード・ランドそのものだと言っても良い。


「悪意あるコピーめッ!」


 自分たちの愛機。そのモドキで味方を蹂躙する姿に、クリスは憤りを込めて操縦桿を突きだす。

 鋭利に収束したランスカノンは遠目に見えるケンタウロスメカの上体を目掛けて空を貫く。

 この文字通りの横槍に、偽イクスブリードは装甲に守られたパイルカノンの付け根を斜めに。その傾斜と足さばきでもって受け流す。

 決まらなかったか。が、これで仕留められたら儲けもの程度。本物の到着に意識が向いたならそれでいい!

 一層力強く踏み込んだクリスに合わせ、俺が馬蹄を轟かせて突っ込む。この突撃に偽者も槍を出して応じてくる。が、足を止めていては競り合いにもならない。苦し紛れの槍ごとに体当たりで撥ね飛ばす!


「我が槍の届かぬ場所でずいぶんと好き勝手にやってくれたものだなッ!? それも私たちに化けて!!」


 重々しい激突音を響かせ後退りする偽イクスブリードに、クリスはダメ押しのランスカノンを。対する偽物は倒れまいと馬蹄を鳴らしつつ、装甲の厚い箇所でこちらのエネルギー砲を弾いて見せた。

 よろけたそこへ、クリスはさらに押し込もうと踏み込む。が、偽者は受けに使っていて破損したパイルカノンを構わずに放つ。

 半ば暴発気味に弾けたエネルギーに、クリスは堪らず呻く。が、そのランスチャージの勢いに衰えは無い。そして光の壁の向こうに隠れた偽イクスブリードを撃ち貫きに――

 行くのを俺はとっさに突撃の軌道を反らして勢いを横へ逃がす。と同時に強烈な衝撃が右の肩を抉ってきた。


「うあッ!? 何がッ!?」


 予期せぬ動きとダメージに戸惑うクリスを中に、俺は接近するエネルギーから逃れるべく足を動かす。

 クリスもすぐに我を取り戻して、機体を煽る至近距離の爆発をジグザグとかわして抜ける。そうしてわずかに馬蹄の勢いを弛めて標的を探せば、こちらと鏡写しに弧の軌道を描いて走る姿が。

 破損したのとは逆の、熱を帯びたカノンを冷やし、突き出したままのパイルバンカーをリロードするその姿から、自爆同然のカウンターをお見舞いしてくれた事が分かる。


「すまない……リードくん、助かった。熱くなりすぎていたようだ」


「構わないさ。切り替えていこう」


 仕切り直しの様相に、クリスは呼吸を整えながら俺と向こうのダメージをチェックしていく。

 こちらはパイルバンカーに削られた肩装甲に、至近弾を浴びて装甲が焼けた程度。動きに大きく支えるようなレベルの物はない。

 対して偽者は暴発させた片腕のカノンを損失。こちらから食らわせたのと合わせて、もうまともに動きそうに無い。その他にも見えるだけでも装甲の焼けやへこみが多数。見える限りでは俺たちの側が圧倒的な優勢だ。だが――


「……ダメージを惜しまないあのやり口……侮りがたいな」


 弛み無い顔でクリスが呟くとおり、自身のダメージを無視してこちらに一撃食らわせてきた手口には恐ろしいものがある。

 次は何を切り捨てて来るのか。攻めかかるのに躊躇いが生まれてしまうな。

 しかしその攻め口で何よりも恐ろしい事と言えば。


「あの模造品が自爆同然に使い捨てても惜しくない程度のものだということだな!」


 分かっていて俺の中で躊躇なく攻めに踏み出すクリスは本当に頼もしいよ。

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